第66話 今、マシマシオーク亭が人気です!

「プニータ君。その肩のポコッとなってるところ一撫でさせてくれない?先っちょだけで良いから。本当に先っちょだけで良いから」


 本日もプニータに絶賛セクハラ中のアイト。

 ここはラブホテル内にテナントとして入っている食事処マシマシオーク亭である。


 マシマシオーク亭はラブホテルがヤーサン領からエライマン領に転移してくる時、どうしてもスミスという面白人材を連れて行きたかったアイトが一緒にエライマンに来ないかと蒼剣の誓いを誘い。

 4人の内3人は身軽だが、ヤーサンの街で酒場を営んでいたプニータと恋仲のニックだけは難しいかもしれないと言うので店舗を持たせる約束をして、ヤーサンの街から引き抜く形でラブホテル内に移転させた。


 元々“でっか”なプニータはアイトの中でもお気に入りの客だったので内側に引き込めて一石二鳥であった。

 単純にどんな肉質のなのか触ってみたいのもあったし。

 おまけで外の世界の料理を食べてみたいのもあったし。


 そんなマシマシオーク亭だが、実はエライマンでちょっとした人気を博している。

 きっかけは何の事は無い。

 一人遊びに来た冒険者が客室に転移する扉とは反対側にある扉をちょっとした好奇心で開けただけだ。

 その日は偶然にも食事処マシマシオーク亭がラブホテルより一週間ほど遅れてオープンした日だった。


 ヤーサンで営業していた酒場マシマシオーク亭は薪で火力を調整する竈で調理をしていた。

 それがラブホテルの中に移ってガスコンロとIHコンロのキッチンに変更された。

 プニータはそれを使ってみてどちらを使うか決め、決めたら更に慣れる時間が必要だった。


 プニータは火が目で見えた方が調理がしやすいと言ってガスコンロを選び。

 キッチンのコンロが全てガスコンロに変更されて何度も調理を試みて。

 3日でヤーサンの頃と同等に調理が出来る様になった。


 そこから更にアイトが肉に合う食材や調味料を投入して味も試行錯誤し。

 しっかりと準備をして、満を持しての開店と相成ったのであった。


 食事処マシマシオーク亭を訪れた冒険者は思った。


 でっか、と。


 そしてこうも思った。


 でかいし何かエロい、と。


 近頃のプニータは「グガー!グゴゴゴゴ!」と鼾を掻いて寝ている間にラブホテルの美容客室で使われている理美容家電を使って磨かれているのだ。

 恋仲のニックによってこっそりと。

 本人は面倒だからとやりたがらないのだが、ニックはプニータにいつまでも美しくあって欲しいと勝手に、献身的に理美容家電を当てている。


 どうせ鼾が煩くて眠れないのだ。


 プニータの目の前でテレビモニターを点けて一人遊びをするのも憚られるし。

 プニータの寝顔と呼吸による肉体の動きを観察しているのはとても幸せな時間なのだが。

 何かこの時間に出来ることはないだろうかとアイトに相談した所。


「だったら磨いちゃいなよ」


 と理美容家電の貸し出しを許可。

 そしてニックは毎晩こっそりとプニータを磨き続ける。


 どうせ鼾が煩くて眠れないから。


 因みに一番お気に入りの理美容家電はハンディタイプの電動マッサージ器である。


 話が逸れたがプニータを見て“でっか”“エッロ”と感じた冒険者は吸い込まれる様に店内に座り。

 滅茶苦茶でかい肉塊を食して大変満足気な顔でエライマンへと帰って行った。

 それからだ。


 食事処マシマシオーク亭は一人の冒険者が評判を広めて、冒険者の間で一気に名前が広まった。


 ラブホテルにはでかくて美人な女がいる飯屋があると。

 飯屋の料理が尋常じゃないでかさで今までに食べた事が無い味がすると。

 紫色の髪の女も実は結構美人だと。


 そんな噂が噂を呼び、興味を持った冒険者が押し寄せて。

 その内の多くがリピーターとなった。


 リピーターとなった理由はプニータとダニエラの魅力もそうだが。

 特に大きかったのは出て来る料理の量と味だ。


 普通サイズで頼むと2kgの肉塊が出て来る荒々しい食事処なんてエライマンの街には無い。

 エライマンはもっと落ち着いた印象の店が多いのだ。


 肉!焼いた!肉!みたいな豪快な料理を出す所はまず無い。


 大食らいの多い冒険者にとっては、ここまで肉!な料理は衝撃的だった。

 その上。


 マシマシオーク亭の肉塊はでかいだけでなく非常に美味だった。


「うほぉぉ!うんめぇぇ!」


 なんて食リポレベル0の反応がそこかしこで起こるぐらいに肉塊の味は良い。

 肉塊と言ってはいるがステーキなので火は通っている。

 “一応”火は通っている。

 オーク肉が豚肉同様に細菌が多いのかは不明である。


「なんてパンチのある味わいなんだ!」


 この食リポレベル1の反応に補足を入れると。

 以前のマシマシオーク亭で出していたステーキは肉塊に塩を振りかけて焼いただけであった。

 薪を使って焼くので香ばしさはあったが、その味わいは素材の味で至ってシンプル。


 しかしラブホテルに移転してアイトの手が入った結果。

 丸のままのにんにくがゴロンゴロン入っている精力付きまくり仕様となっている。


 このにんにく、元は外の世界でエマが採取してきた花芽を摘まなくても鱗茎が太る異世界産ワイルド種であり。

 それをオーガズが丹精込めて品種改良した大ぶりで香りの強い逸品だ。

 その香りの強さは一片食べれば3日は口付けを避けられる程であり、味は滅茶苦茶良いのだが独り身でないと中々に辛い仕様となっている。

 故に一人遊びばっかりしている冒険者達には尋常じゃなくウケた。


 冒険者ギルドの受付嬢にはちょっと嫌な顔をされるけれども。


 どうせ脈無しの女に幾ら引かれても気にする事などない。

 何故ならプニータもダニエラもくっさいにんにく臭のする男達にも気にせず笑顔を向けてくれるのだから。

 ちょっと受付嬢に嫌な顔をされるぐらい何の問題も無い。


 泣いてなんか、、、ないんだからね!


 因みににんにくが苦手な人やパートナーがいて気軽ににんにくを食べられない人向けにゴロゴロにんにくステーキ以外の肉塊もあり。


「何だこの複雑な味わい!これは正に肉の、、、肉の、、、肉の宝箱やぁ!」


 惜しくも食リポレベル0となった反応の解説をする。

 レベル0とした採点基準は見切り発車で正解に辿り着くまでに時間が掛かり過ぎたからである。

 所謂アイト現象の為、食リポレベルは0となった。


 さて、マシマシオーク亭にはアイトによって数多くの調味料が与えられている。

 例えば海水塩、岩塩、湖塩、藻塩。

 他にも抹茶塩、柚子塩、梅塩。

 まだまだレモンソルト、バジルソルト、トリュフソルト。

 他ハーブソルト多数。


 どうしてこんなにも塩ばかりが充実しているのだろうか。


 塩の他にも胡椒や唐辛子を始めとした香辛料、日本からエントリーの醤油、味噌、塩麹。

 ソースにマヨネーズにケチャップや化学調味料。

 勿論砂糖や酢も忘れずに。


 アイトの思い付く限り全ての調味料をマシマシオーク亭に与えた結果。

 シンプルにステーキ醤油で焼いた肉塊が誕生した。

 蓋を開けて肉塊にかけて焼くだけなので楽ちんである。


 そんな事とは知らない客達は物凄く手の込んだ調理をしていると勝手に思い込んで。

 それを庶民にも手の届く価格で提供してくれるだなんて。

 体もでかいが心はもっとでかいと勝手にプニータの評価が爆上げしたのであった。


 日に一度は顔見せの名目でセクハラに来るアイトはマスタールームに引き上げたが。


「プニータさん!にんにくステーキレギュラー2です!」


「はいよ!」


 昼時になって客席は殆んど埋まり、精力を付けたいラブホテルの客からの注文も入ってプニータもダニエラも大忙しだ。

 ついでにヤマオカの次に器用でお馴染みのシュリンプピンクオーガもラブホテルからのヘルプとしてキッチンの奥でこっそりと調理に当たっている。

 客室のゴミ箱と同じ仕様でダンジョンの装飾である皿を放り込むと食べ残しや皿の汚れを吸収して勝手に綺麗になる食洗器を使っても明らかに手の足りていない状況だ。


「繁盛するのは嬉しいけれども、せめて給仕をしてくれるスタッフが欲しいところだね」


 やれやれといった様子のプニータに深く頷いて同意したダニエラ。

 シュリンプピンクオーガは我関せずで朴訥に肉塊を焼き。

 おやつがてら様子を見に来たワンポによって。


 腕ごと肉塊を齧られたのであった。

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