第73話 ミーアの大画面ゲーム実況②
「それではスミス君の結婚とミーアのスーパー鞠男初クリアと俺の超天才的ボケによる全世界抱腹絶倒おにんにん祭りの「かんぱーい!」おいエマ!最後まで言わせなさいよ!」
ここは以前スミスの婚活パーティーが開催された王様お戯れをナイトプール客室。
オーガズまでを含めたラブホテルの従業員と蒼剣の誓い、マシマシオーク亭、専属ハンターのバルナバスと妻のミキャエラ、テーラ商会からタスケと妻のバルバラが集められていた。
目的はアイトの言った通りスミスの結婚とミーアのスーパー鞠男クリアを祝う宴会である。
因みに今の時間は夜の7時を過ぎた所。
本来ミーアは勤務時間中なのだが、今日は宿泊の客が少ないしレイさんに持たせているのと同じPHSをミーアにも持たせていて。
客室からの電話がPHSに飛ぶ様に設定しておいたので、電話が掛かってきたらその時に都度対応する事となっている。
アイトの乾杯の音頭がエマによってぶった切られて。
従業員側はそれが当然の様に酒を飲み始めたが、外の世界の者達は全員がシャンパンの入ったグラスを遊ばせている。
従業員達はアイトが乾杯の音頭でボケ始めると無計画にスベり続ける事を知っているので雑に扱っているが、蒼剣をはじめとする外の世界の者達にとってアイトは雑に扱って良い存在ではない。
だから自分達も飲み始めて良いのか、飲まずに乾杯の音頭が終わるのを待っていたら良いのか。
どちらが正解なのかまだわかっていないのだ。
アイトからすれば、エマにぶった切られた所までで一つの下りが完結しているのだが。
「はい、君達もかんぱーい」
「「「「「か、かんぱーい」」」」」
外の世界の人間達が飲み始めようとしないので気を利かせて。
アイトが空になったグラスを掲げると漸く皆が酒を飲み始めた。
今日は宴会なので無礼講である。
普段ラブホテルで食べられる料理だけでなく、見た事も無い料理も沢山並んでいる。
オレンジ色のグロテスクなやつとか。
見覚えのある卑猥な形をしたやつとか。
ぱっと見陰毛っぽいやつとか。
ご立派ぁなやつとか。
何故こんなにもシモを連想させる物をシンプルな調理法で出したのかは謎だが。
滅多に食べられる物ではないだろうと皆珍しい料理に舌鼓を打った。
アンネ用に幼児向けの料理も用意されているので、こちらも満面の笑みを浮かべている。
「わっはっは!飲めい飲めい!」
アイトが楽しそうに酒を勧め、本日の主役の一人が早々に酔い潰れるハプニングはあったものの。
皆が大いに飲んで食べて騒いで。
シャンパンファイトと見紛う程お酒瓶が既に開けられているが、宴会はまだ始まったばかりである。
まずラブホテル勢の飲みっぷりが異常なのだ。
特に全空き瓶の3割7分2厘を空けたヒショの飲みっぷりには驚かされる。
酒瓶の飲み口を三つ並べて3本一気に煽っているのだ。
開始から30分。
エマが寝てしまう前に本日の余興が開始された。
本日の余興は勿論これ以外には無いだろう。
ミーアによるスーパー鞠男生攻略である。
ミーアは幾らか酒が入っているにも関わらず、完璧なプレイングでスーパー鞠男をクリア。
今までゲームに興味の無かった者達も熱狂させて、ミーアは何処か誇らしげで嬉しそうであった。
そしてアイトは提案した。
「塔に超大型モニター作るからゲーム実況やってみれば?」
この提案を快諾して。
ミーアは後日、外の世界初のプロゲーマーとしてゲーム実況を行う事となり準備を進めたのであった。
ある日の事。
エライマンの街はざわついていた。
街の近くに出来たピンクの塔、休息宿ラブホテル。
領主のフォルカー・エライマンが絶賛し。
今では住民にも広く受け入れられている塔の上部にやや横長の巨大な何かが現れたのだ。
普段からラブホテルを利用している者ならば、あれが巨大なテレビモニターだと気付くだろう。
しかし住人の全てがラブホテルに行った経験がある訳ではない。
寧ろ全体の人口からすれば少数だろう。
何せ二時間の休憩で銀貨5枚だ。
“たったの二時間しか利用出来ない”と考えるか“二時間も利用出来る”と考えるかは人それぞれだが。
少なくとも一度も行った事の無い者は尻込みしてしまう金額ではある。
この辺りはアイトの前世を基準としてもラブホテルの正しい形だろう。
ラブホテルがファストフード店の様に学生でも気軽に利用出来るような場所だったら青〇なんてものは存在しな、、、くはならないだろうが、露出や見せ付け趣味の者以外はリスクを犯してまでヤラなくなるだろう。
極論を言ってしまえばラブホテルはヤレるアミューズメントパークみたいなものなのだ。
休息宿ラブホテルは特にその色が濃いと言って良い。
話は逸れたがエライマンの住民は騒めいてはいるものの、これから何が始まるんだという好奇心も掻き立てられている。
仕事や家事や井戸端会議をしながらもチラチラと塔の方に目を向けている者の何と多い事か。
朝から何も起きる事無く昼になり。
結局何も起こらないのかと皆の興味が薄れた頃。
それは突然に起こった。
ブゥゥン
塔の超巨大テレビモニターが起動する音が鳴り。
コミカルな音楽が流れた後でモニターに可愛らしい見た目の人型が映し出された。
“人型”と言っているのは人の様に見えるが、明らかに人ではないからである。
それはアイトが少しだけミーアに似せて作った3Dキャラクターであった。
ピンク色の髪に翠の瞳。
薄ピンクのカジュアルなドレスを着て手にはコントローラーを持った女の子キャラ。
ミーアはこんなに甘い感じではないので、似せてはいるが本人を見掛けたとしても中の人だとは思わないだろう。
「ミアミアチャンネル始まったっすよー」
3Dキャラクターが右手を振って配信開始の挨拶をした。
街にいる小さな子供は手を振り返してこたえている。
「皆さんこんにちはっす。休息宿ラブホテルのイメージキャラクターに就任したミアミアっす。よろしくっすよー」
今度は両手を振ると世界初の3Dキャラクターミアミアに癖を刺激された男達が手を振り返した。
多くの住民は、これから何が始まるんだ?と超大型モニターに注目している。
どうやら掴みはバッチリの様だ。
「早速っすけど、今日はラブホテルの客室で遊べるスーパー鞠男を解説しながら攻略していくっす。最後まで楽しんでくれると嬉しいっす」
そう言ってミアミアは画面の中心から左端に歩いて。
ミアミアから右側はスーパー鞠男のスタート画面が映し出された。
住民は何が何やらわかっていないが、とにかく何かが始まるらしいと遠くのモニターに集中する。
なにぶん娯楽の少ない世界である。
少しでも面白い事が起こるのならば見て楽しみたいのだ。
「まずスーパー鞠男のストーリーからっす」
ミアミアがリモコンを操作してゲームがスタートすると口髭を生やしたドット絵のキャラと男女二人のキャラが向き合っていて、キャラの下に台詞が流れる。
「トゥキヨウって街の食堂で働いてた鞠男は両親に呼び出されて実家の田舎村に帰ったっす。そこで両親から自分達の経営してるスーパーって商店を継いでくれって託されるっす。鞠男は仕事を辞めてそのスーパーを継ぐんすけど、田舎村の中だけだと商売が立ち行かないって気付いて村の特産品を作る事を思い付いたっす。鞠男は料理を作ってたっすからね。村で採れる山菜を使って名物作ろうって考えて山に入ったっす」
ミアミアがスーパー鞠男のストーリーを語ると注目を更に集め。
「鞠男の入った山はクッマって熊に荒らされてて危険がいっぱいだったっす。だから鞠男はクッマを倒してまずは山の平和を取り戻す事にしたっす。それじゃあ早速ゲームスタートっすよ!」
ミアミアの宣言と共になだらかな山の斜面を登る鞠男に切り替わり。
「鞠男は自分が操作してるっす。このリモコンを使ってて。右を押すと右に移動するっす。左を押すと左に移動するっす。Bを押しながら右か左を押すと押した方に走るっす。下を押すとしゃがんで、Aを押すとジャンプするっす」
ミアミアの頭上にコントローラーの絵が現れて、操作説明に合わせて赤丸で印が付く。
子供達はあまりよくわかっていない様だが、大人がふむふむと頷きながら成り行きを見守っている。
「それじゃあ解説を加えながらステージ1を攻略していくっす。早速ここにキノコがあるんで食べると鞠男がでかくなるっす。この歩く栗は踏み潰さないと殻を飛ばして攻撃して来るっす。このカメは放り投げて武器として使えるっす」
ミアミアは解説を加えながら難なくステージ1をクリアした。
今の所はまだ難しいステージでもないので見ている者も楽しんではいるがそこまでのリアクションは無い。
しかしステージが進んでいく程に。
「うおぉ!今のよく避けたな!」
「カメにそんな使い方があったの!?」
「ミアミアちゃん頑張れぇぇ!」
何が行われているのかを理解し始めた住人達は段々と熱狂していき。
「ここからが最難関のステージ5っすよ。正直自分も皆の前でクリア出来るか不安っす。だから皆に応援して欲しいっす」
ミアミアの呼び掛けに。
「いけー!」
「ほら、そこだ!いけるぞ!」
「「「「「うおぉぉぉおお!ミアミアちゃん頑張れぇぇぇええ!」」」」」
何だか野太い声の応援が目立ってはいるが。
皆の応援の成果かミアミアは一度もダメージを受ける事無くクッマとのラスボス戦まで辿り着いた。
「こいつが最終ボスのクッマっす。恐ろしい見た目をしてるっすよね。こいつは空を飛ぶし火を吐く熊っす。だけど自分は絶対に負けないっす!」
気合いの入った掛け声に呼応して観戦者の声援が飛んだ。
ミアミアは順調にクッマの攻撃を避け、逆に攻撃を加えていたが、手元を狂わせ攻撃を受けて縮んでしまった。
これであと一度攻撃を食らえばゲームオーバーだ。
どうやら拙い状況だと察した観戦者は声を合わせて応援を始める。
「「「「「ミッアミア!ミッアミア!ミッアミア」」」」」
手拍子を加えながら熱の入った応援がミアミアの背中を押し。
10分以上にも及ぶ激闘の末、遂に。
鞠男が最後の一撃を与えてクッマの体が崩れ、クッマの肉を持った鞠男とGAME CLEARの文字が並んだ。
その瞬間、街は一瞬の静寂に包まれる。
「やったっす!皆の応援で見事にクリア出来たっすよ!」
ミアミアの言葉で漸く状況を飲み込めた観戦者達は。
「「「「「わぁぁぁぁあああ!」」」」」
熱狂を伝える大声援でもってミアミアの偉業を祝福した。
抱き合って喜ぶ者達もいて、どれだけミアミアに感情移入して見守っていたかがわかる。
暫くの間続いた騒めきが漸く落ち着いて来た頃に。
『今日は初めてのゲーム実況で緊張したけど楽しかったっす。スーパー鞠男は休息宿ラブホテルで遊べるから皆も遊んで欲しいっす。見るのも楽しいけど、自分でやるのはもっと楽しいっすよ』
しっかりとラブホテルの宣伝をして。
『次回はスーパー鞠男2の攻略をするっすよ。それじゃあまたお会いしましょうっす。ミアミアでしたっすーまたねっすー』
両手をふりふりして生放送を締めるとプツリと超大型テレビモニターの電源が落ちた。
何処からか拍手が起こってそれが広がり、街中が祝福ムードに包まれた。
この日から休息宿ラブホテルにはスーパー鞠男目当てで訪れる客が増え。
フロントの横には等身大ミアミアちゃんフィギュアが設置されて熱狂的なファン達が巡礼に訪れる様になるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます