第72話 ミーアの大画面ゲーム実況①
かなり雰囲気に流された気はするものの、スミスがアンドレアと婚姻を結んだ翌日。
スミスは妻となったアンドレアと娘となったアンネを紹介する為にフロントでアイトに取次ぎを願った。
先程アンネにパパと呼んで貰おうと試みた結果、「いや」とハッキリ意思表示されて激烈に心を抉られた精神状態ではあるものの。
二人を自室に住まわせるのであればアイトの許可が必要だろう。
「えーと、オーナーはリア充に会いたくないって言ってます」
一度断られはしたものの。
土下座でお願いしてみてどうにか許されたスミスは客室で待つと言うアイトの指示に従ってアンドレアとアンネを連れて客室へ転移する扉を開いた。
するとそこは。
「ふわぁぁ」
様々な玩具が用意された子供部屋だった。
アンネは一つの玩具を見てブンブンと手を振る。
どうやらそれを触りたいらしく、抱っこしているアンドレアがアンネを下ろすとよちよちと歩いてそれに抱き着いて顔を埋めた。
アンネが抱き着いたのは1/3スケールもふもふぬいぐるみワンポちゃんである。
サタンウルフという3m級の大型狼モンスターワンポを勝色の毛のもふ感そのままに小型化した逸品。
蒼剣のもふもふ狂いモルトが見たら上から下からお漏らししながら作って欲しいと懇願する程の傑作である。
「わっはっは!気に入ってくれた様だね!これからは俺の事をパパだと思うが良いぞ!」
「うん!パパ!」
一瞬にしてアイトに買収されたアンネ。
幼いのに身の振り方をわかっている聡明な幼女である。
「ちょ、、、」
ファーストパパをアイトに取られて流石に複雑そうなスミスだが。
アンドレアはスミスの肩に手を置いて首を振った。
これはスミスでは勝てないと悟ったのだ。
アンネは既にもふもふぬいぐるみワンポちゃんに夢中である。
他にもおままごとセットやお絵描きセット、ボールプールなどがあるので暫くは遊んでいるだろう。
アンネの意識が玩具に向いている間にアイトは夫婦となった二人と今後の話をする事にした。
「まずは俺の見事なアシストによる結婚おめでとう。俺のアシストが無ければスミス君は3年ぐらい結婚を先延ばしにしていた事だろう」
「流石はマスターです。素晴らしい成果でした」
これに関しては事実なのでスミスは何も言えない。
スミス自身が結婚に踏みだすとしたら絶対に断られない確信を持てるか、アンドレアとの間に子供が出来るかどちらかだろうと考えていたのだから。
「それでアンドレア君はうちに住むつもりある?マシマシオーク亭で働いてくれない?最近二人だと手が足りてないんだよね。でけぇ肉塊とでけぇ女フェチに人気でさ」
「えっと、よろしくお願いします」
マシマシオーク亭はヤーサンに住んでいる時に聞いた事のある名前だった。
あそこの女店主が蒼剣の誓いのメンバーと付き合っているのは有名な話だ。
でかい男ともっとでかい女が連れ歩いていて、男の方がおんぶされているのを頻繁に目撃されているので店よりも個人が有名なのだが。
アンドレアとしては住まわせて貰えるのであれば働く事は問題が無い。
ただ一つ懸念点としては、アンドレアが働いている間アンネをどうするかと言う話だが。
「マシマシオーク亭とこの部屋を繋ぐからアンネちゃんの様子はマメに見に来れるぞ。何ならおんぶして仕事するとか厨房に入れても良いし。でかいけどプニータ君も面倒見てくれるだろ多分。でかいけど」
今まではカーネルクレア夫妻に見て貰っていたが、これからは自分で様子を見ながら働ける。
アンドレアは懸念点が払拭されたので納得してアイトの申し出を承諾した。
「何なら俺が様子を見ていても良いしな」
そう言ってアンドレアに笑顔を向けたスミスだったが。
「スミス君は朝7時から夜7時まで今の自室で待機だぞ。基本的に子供はラブホテルNGだからこの子供部屋と寝室がアンドレア君親子の部屋になる。アンネちゃんの世話をしていてフロントで問題が起こった時にスミス君は仕事を優先出来るか?好感度が下がるぞ?」
好感度が下がると言われて“あ、そりゃアンネを優先するわ”と思ったスミス。
「平時はラブホテル側の客室に駐留して、夜になったらアンドレアちゃんの部屋に通う通い夫スタイルで行くからよろしく」
「そんなぁ」
スミスが残念がるが、ラブホテルにいる間の蒼剣の誓いはあくまでも用心棒の立場だ。
Cランク冒険者として月に稼ぐ報酬と同等の給料を払っているのだからアンドレアとイチャコラしたりアンネの好感度を上げるのを優先して仕事を疎かにされては困る。
その辺プニータと恋仲のニックはしっかりと線引きしている。
昼食はマシマシオーク亭に食べに行くが、それ以外は必要以上には会いに行かない。
朝方はベッドに沈んでいるが、ラブホテルが開く7時には股間以外の身嗜みを整えてでっかい女のビデオを見て出動に備えているのだ。
なんて真面目な男なのだろうか。
スミスは新婚と言えど朝晩は普通に会えるのだし、夜はアンドレアの部屋を訪れて愛し合えば良い。
アイトはアシストしてくっつけるのは好きだが、調子に乗っているリア充は大嫌いなのだ。
何とも我が儘な男である。
「それじゃあプニータ君達に紹介しようか」
アイトが外へと促したので、スミスはアンネをもふもふぬいぐるみワンポ君ごと抱え上げて子供部屋を出た。
その後マシマシオーク亭に人妻属性持ちが加入した事で店の人気に拍車をかける事になるのだが、それはまた別のお話。
所変わってダンジョン内に存在するラブホテル従業員用の階層。
その一室では今まさに熱い戦いが繰り広げられていた。
「くあっ!クッマ滅茶苦茶強いっす!何でこいつ熊なのに空飛んでるっすか!あと一撃食らったら終わりっす!」
アイトの前世的に言うと古き良き懐かしのコントローラーを手に。
テレビモニターの前でゲーミングチェアに座ってやや前のめりの体勢で。
ゲームにハマってラブホテルに就職した元Dランク冒険者のミーアは。
愛するスーパー鞠男のステージ5。
ゲームのラスボスであるクッマ戦に挑んでいた。
見た目は熊なのに何故か空は飛ぶし炎を吐くクッマの攻撃をひたすらに避けて。
どうにか反撃のチャンスを窺う。
ミーアはラブホテルに就職する前、休憩で部屋に入って偶々コントローラーを手にした事でスーパー鞠男にハマり。
有り金を全て溶かした末に最終手段でラブホテルへの就職を頼み込んだという経緯がある。
それほど情熱的にスーパー鞠男を愛しているミーアは、お世辞にもゲームの才能があるとは言えなかったが。
一日18時間プレイするという狂気の努力を続け、徐々に力を付けていき。
今では安定してステージ4まではクリア出来るまでの実力者になっていた。
そもそもスーパー鞠男とは。
田舎のスーパーを親から継いだ鞠男が、経営状態の芳しくないスーパーを立て直そうと村の特産品を開発する為に山に入り。
キノコを生で食べたり、栗を踏み潰したり、助けた亀をぶん投げたりする大ヒットレトロゲームである。
因みにレトロゲームにありがちな難易度設定をガン無視したクリアさせる気あるのか設定なので、実はアイトとヒショはこのゲームをクリアした事が無い。
ステージ4までも数回いけたぐらいなので、ゲームに馴染みの無い外の世界の人間であるミーアがステージ5のラスボス戦まで進んでいるのは驚異的と言わざるを得ない。
参考になるゲーム動画も高〇名人染みた人も存在していない手探り状態なのだから。
ミーアは長期戦の様相を呈して来たクッマ戦の中。
「あれ?慣れて来て避けるだけならイケるっすね。一見ランダムに思えた行動パターンも冷静になれば決まった行動をしている事がわかるっす」
ミーアはクッマ戦に勝利する為の方程式に辿り着いた。
流石はラブホテル従業員の中で最も常識と良心があり、冷静な判断力も持ち合わせたデキる女である。
「ここでジャンプっす。ここでダッシュっす。ここは敢えて動かないで、、、ここでジャンプっす」
冷静に行動パターンを分析。
そして全ての攻撃を確実に避けられる様になった所で。
「ここのダッシュで後ろに回り込んでジャンプで踏みつけるっす。炎に当たらない様に気を付けて回り込んで踏みつけるっす」
徐々にクッマにダメージを蓄積させていき。
「そろそろじゃないっすか!?おっといかんっす。最後まで油断せずに沈着冷静でいくっす」
二度ダメージを入れられそうな場面でも一度に抑えて手堅くダメージを与える。
冒険者としてのミーアも、この手堅さでギルドからの信頼を集めていたのだ。
そして遂に。
「ここを避けてジャンプして踏みつけるっす。わっ!」
鞠男に踏みつけられたクッマの体がボロボロと崩れていき。
画面には大きなマンガ肉を抱えた鞠男とGAME CLEARの文字が並んだ。
「やったっす!スーパー鞠男を全クリしたっす!」
ミーアは飛び上がって両腕を高く振り上げ喜びを体全体で表現し。
「今の感覚を忘れない内にもう一回クリアするっす」
ミーアのメンタルは何処までもゲーマーになっているのであった。
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