第56話 エライマンでも百合の花を咲かせたい①

 Cランク冒険者パーティー蒼剣の誓いの魔術師ルイス。

 ルイスはエライマンの街でとある調査を行っていた。

 誰かから依頼を受けての調査ではなく、あくまで独自の調査である。


 蒼剣の誓いはラブホテルの用心棒となり、拠点をエライマンに移してから積極的には冒険者活動を行っていない。

 拠点にしていたヤーサンにラブホテルが出来て、初めての客となってからは毎日ラブホテルに通いながらラブホテルに通う為の金をギルドの依頼を熟していた。


 それが今ではラブホテルの客室に住込みで用心棒をやっているので金を払わずにラブホテル活動、通称ブホ活が可能となっているのだ。

 それだけでなく稼いだ金の使い道が無いと言うアイトから普通に給料まで貰えている。

 この給料に関しては無給で働かせようとしていたアイトがエマに怒られて給料を支払う事を決定した経緯があるのだが。


 アイトからは名前だけ貸してくれれば良いので好きに冒険者活動をして良いと言われているのだが。

 ぶっちゃけ危険を犯してまで冒険者やらなくても良くね?というのが蒼剣の誓い4人の総意である。

 一応は用心棒をしなければならないので腕が鈍らない様に最低限の依頼は熟しているが。

 用心棒としての出番は今のところ一度も無いのだが。


 そんな訳で時間がたっぷりある蒼剣の誓いの中でも積極的に街へ出ているルイスは。


「休息宿ラブホテルにはもう行ったか?まだだったら一度足を運んでみると良いぞ。今までに味わった事の無い素晴らしい体験が出来る。俺の仲間はラブホテルで気になってた女と恋仲になったぞ」


 冒険者ギルドや酒場や食事処を回ってラブホテルの布教に務めている。

 ルイスにとってそれは真の目的では無いのだが。


 ルイスはラブホテルの布教をしながらもギルド内や店内の様子を観察する。

 商店や市場を回り、住宅街や決して治安が言いとは言えない通りまで。

 ルイスの調査対象は街の隅々まで渡る。

 時には道行く夫人に声を掛け。


「成人済みの若い女の子で男に全く興味が無さそうな子を知らないか?」


 小銭や手土産を渡したりして欲しい情報を聞き出し。

 本人を見にも行って堅実で確実な調査を進めていた。

 そう、ルイスの行っている調査とは。


 エライマンの街に芽吹く百合の蕾を探す調査であった。


 ルイスは若くて可愛い女の子達がイチャイチャしている姿を見て。

 硬くてぼそぼそした黒パンを何も付けずに23個食べられるぐらいの百合好きである。


「アイトさんに話があるんですが」


 街での調査を終えてラブホテルへと帰って来たルイスは、フロントにいるエマに話掛けてアイトへと取次ぎを依頼した。

 エライマン領へのダンジョン転移と共にラブホテルへと住み始めた蒼剣の誓いの4人とマシマシオーク亭を営業するプニータとダニエラ。

 この6人はアイトに連絡を取る際に一度フロントで取次ぎを頼む必要がある。


 これは蒼剣の誓いはセキュリティ会社、マシマシオーク亭はテナントの扱いであると言うのが表向きの理由だが。

 実際は直接男の声を聞くよりも女の子の声でワンクッション置いてから男と話がしたいと言うアイトの可愛らしい男心が本当の理由である。

 プニータとダニエラなら直接でも構わないのだが、一応もっともらしい理由を付ける為に巻き込まれた形だ。

 二人の所には結構出没するので電話をする必要もあまりないから問題は無い。


 ルイスから取次ぎを依頼されたエマは“一々面倒臭いな。直接電話出来る様にしたら良いのに”と内心で不満を漏らしてからマスタールームにいるアイトに内線をかけた。


「繋がりましたよ。どうぞ」


 エマから受話器を受け取り。

 ルイスは一言目からアイトに本題をぶつける。


「俺が独自に調査をした結果、エライマンには多くの百合の蕾が芽吹いていました。ヤーサンからノーラとカーラも到着したので近々百合イベントを開催しましょう」


『でかした!流石は百合を愛でし大賢者!百合部屋は早急に作るから任せておけ!企画はこれから考えるとして、日にちはルイス君の方で決めてくれ!』


 アイトの言葉を受けてルイスはやる気に満ち満ちた表情を作って部屋へと戻った。

 エマは受話器から漏れ聞こえるアイトの声を聞いて、また何か下らない事でも始めるんだなと溜息を吐いてから業務に戻ったのであった。



「百合じゃ百合じゃぁぁい!」


 マスタールームにいるアイトは異様な程にテンションがブチ上がっていた。

 ルイスがエライマンで何かの調査を行っている事実は把握していたし。

 ルイスが調査をするなら百合関連以外は有り得ないと思っていたが。

 まさかルイスから“多くの百合の蕾が芽吹いている”と報告を受けるとは思っていなかった。


 ヤーサンではあの百合賢ルイスをもってしても一組の百合カップルしか成立させる事が出来なかったのだ。

 だから外の世界では百合がそもそも希少な存在なのだろうと考えていたのだ。


 それがどうだ。

 あのルイスが多くの蕾がいると言うのだから実際に百合カップル予備軍が確実に存在している。

 これは是非とも多くのカップルをラブホテルで成立させてそのまま最後までイカせちまいたい。


 アイトは滅茶苦茶テンションが上がって。

 上がりに上がって。

 百合の花畑の真ん中に噴水と幾つものテーブルセットが置かれた安易な部屋を作り上げたのであった。


「企画はどうするかな。やっぱり最後の告白タイムには百合の花を交換し合ってカップルが成立って流れにして。そこから逆算していくとして、、、」


 アイトは百合イベントの企画を考え。

 ヒショは微笑まし気にシャンパンを煽ったのであった。



「おう、白光じゃないか。お前らもエライマンに来たんだな。随分早いけど」


「あたし達はラブホテルが移転するって事前にルイスさんに聞いてましたからね。ね、カーラ」


「う、うん」


 休息宿ラブホテルのフロント。

 ついさっきエライマンの街に到着して冒険者ギルドでルイスと顔を合わせた白光の百合ノーラとカーラは早速ラブホテルに休憩しに来ていた。


 二人と話しているのはフロントを通ってマシマシオーク亭へ行こうとしていたスミスだ。

 毎日ラブホテルの料理を食べるのはバリエーションも豊かな上にどれも異常に旨いので飽きる事はないのだが、時々普通の料理が食べたくなるとマシマシオーク亭へ足を運んでいる。

 既に稼働を始めたマシマシオーク亭だが、実を言うとラブホテルを訪れた客にも結構好評だったりする。


 その話は今は置いておいて。


「それだとヤーサンの冒険者がこっちに来るかどうかって話はわからないか」


「いや、それに関してはほぼ全員来るんじゃないかなって。ね?カーラ?」


「う、うん。ギルマスが理由を説明したら皆怒ってたから」


 怒っていたというのは突然姿を消したラブホテルに対してではなくヤーサンの領主及びチンピラに対してである。

 冒険者の多くはダンジョンに潜った経験があるか、ダンジョンに潜った経験者の話を聞いているので一般人よりもダンジョンに対する知識が深い。


 そもそもダンジョンとは本来、モンスターや罠や宝箱を生み出す場所だ。

 ダンジョンの最深部にいるダンジョンマスターを倒してコアを持ち出すか破壊するとダンジョンは少しばかりの時間を掛けて崩壊する。

 当然モンスターに怪我を負わされたり罠に嵌って怪我をしたり、最悪の場合には死ぬ事だってある。

 その場合、死体すら残らずに身に着けている装備も持ち物も全てが消えてしまう事すらある。

 ダンジョンとはそういう場所だ。


 だからダンジョンが商売をしているからと言って税金を払わせたり、みかじめ料とか言う独自の集金を行おうとするのは考え方がずれていると言わざるを得ない。

 そもそもダンジョンマスターはモンスターだ。

 話が通じるぐらいに知能が高いのもいるかもしれないが、それでもモンスターである事に変わりは無い。

 基本的には話が通じない相手と考えるべきだ。


 加えて死亡した場合もそうなのだが、物を落として放置すると床や壁に吸収されて消えてしまうというダンジョンの特性を考えるなら。

 ヤーサンの領主とチンピラがやろうとした事は死亡した人間や落とした金で儲けたのだから金を払えと言っている様なものである。。

 モンスター相手に、ダンジョン相手にそんな理屈が通用するか?


 いいや、する筈が無い!


 そんな訳でヤーサンを拠点にしていた冒険者達は続々とエライマン領への移動を開始している。

 そもそもラブホテルが出来てからはラブホテルに通う為に依頼を熟していたのに、ラブホテルが無くなったらもうあんまり仕事をしたくない。

 モチベーションがだだ下がりだ。


 そのラブホテルが今度はエライマン領に出来たというのだから、餌を求めて大移動する野生動物の如く移動をするのは回避不可能な事象なのだ。

 性欲と言う名の本能がそうさせるのだ。


「なるほどな。ランクE客室を増やして欲しいってオーナーさんに言っておこう」


「え、ネイ、、、スミスさんってオーナーさんとも普通に話せるの?」


「じゃ、じゃあ一緒にお願いしたい事があって」


 カーラはスミスに頼んで女の子同士で繋がるやつを作って欲しいと嘆願したのであった。

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