第55話 艶街娘と自慰僧侶②

 こちらダンジョン最上階層マスタールーム。

 近頃順調なラブホテルがあまりも平和過ぎて。

 アシストが必要なカップルがいなさ過ぎて。

 趣味の、、、防犯の為に仕方なくしている覗きにも気持ちの入らないアイトは。

 ヒショと二人で対戦ゲームに興じていた。


 一応小窓でフロントの映像は流している。


「くそぉぉ!フロントの様子が気になってチラチラみてしまうぜ!そい!そいや!そいや!」


「真剣勝負の最中に集中力を切らすとは。私も舐められたものですね。そこ!」


 ヒショの言う通り二人の対戦は真剣勝負の様相を呈していた。


 この二人。

 ゲームの腕は見事なまでに互角である。

 戦績はアイトの方がやや優勢ではあるものの。

 恋愛ゲームで攻略対象達の爆弾を爆発させまくった挙句、きっちりシークレットキャラのエンディングを引き当てるぐらいに運の要素も含めて互角である。

 そんな二人が今、美少女格闘ゲームで白熱した戦いを演じ。


「うぅーわ、うぅーわ、うぅーわ、、、」


 それ別の格ゲーじゃね?と疑問を抱かせるやられ台詞を口にしたアイトは。

 ゲーム機の電源を落としてフロントの映像を全画面に切り替えた。


 何もヒショに負けそうだから電源落ちの引き分けに持ち込んだ訳ではない。

 ちょっと面白そうな組み合わせのカップルが入って来たから集中して覗こうと考えての事である。


「艶街娘ちゃんと自慰僧侶君じゃん。互いに純粋なソロプレイヤーなのになんで一緒にいるんだ?」


 アイトの言う艶街娘とはオリーブ色をした肩までの髪をしていて。

 顔はそれなりに良いが、いつも何処かつまらなそうな顔をした若い女性である。

 彼女は見た目や佇まいからは“艶”街娘と呼ばれる程に艶っぽさは感じられない。

 彼女が艶を纏うのは客室の中に入ってからである。


 艶街娘が初めてラブホテルを訪れた時の事。

 彼女はランクEの客室に入るとテレビモニターで自身の内に秘めた欲求を満たせる事を即座に見抜き。

 最近オプションで追加されたレンタルグッズの性能も即座に見抜き。

 3秒で全裸になり、休憩の2時間をほぼ丸々使って秘めたる性欲を解き放ち続けたのだ。

 その時の乱れっぷりをチラ見したアイトが彼女に艶街娘の称号を与えたのは必然であったと言える。


 艶街娘は独立自尊に剥き出しの性欲目掛けて突き進むタイプだと予想していたが果たして。

 アイトは興味津々になり、二人の様子を見守る事にしたのであった。



「ジーナではないか。こんな所で何をしておる」


 貯め込んでいた金を全て吐き出し。

 ピンクの塔を見上げて呆けていたジーナは何物かに声を掛けられて振り向き。

 声の主が誰であるかを確認した。


「誰?」


 本当に誰だろう。

 何だか知っている男の面影はある気がするが、こんな髪を剃り上げたスキンヘッドの若い男をジーナは知らない。

 心当たりは確かにあるのだが、その人物が髪を剃り上げてジジイみたいな喋り方をする筈が無い。


 あいつは親の権力を笠に着た軽薄で嫌味なやつだ。


 それがその男に対するジーナの印象だったのだが。


「ああ、すまぬ。以前とは見た目が異なっているから気付かなんだか。拙僧はグレイ・ティンポッキ。其方の隣の家に住んでいる幼馴染だ」


 その男だった。


 お前どうしちゃったの?と。

 頭がおかしくなったの?と。

 ジーナは素直にそんな印象を抱いた。


 まずどこぞの貴族かと思わずツッコまずにはいられなかった外カールした金髪を剃り上げた事もそうだが。

 一人称が拙僧になっている事が更なる衝撃だった。

 何だ拙僧って。

 拙僧って何だよ。

 ついでに二人称が其方になってるのも何だよ。

 拙僧よりはまだわかるけれど其方ってどこぞの貴族のジジイかよ。

 拙僧って何だよ。


 ジーナはグレイを胡乱気な目で見つつも今自分が置かれている現状を話した。

 誰でも良かった。

 誰でも良いから絶望を抱いている自らの心を曝け出したかった。


 けれどグレイが怪し過ぎて、金が無いからラブホテルに入れなくて絶望しているのだとだけ伝えて。

 さっさと家に帰って両親の仕事を手伝って金の無心をしようと歩き出そうとしたのだが。


「あいわかった。拙僧が其方を絶望から救済しよう」


 怪し過ぎるグレイから返って来たのは予想外の言葉であった。


「ラブホテルは案外と布施が掛かる。拙僧も悪戯に布施をしていればいつかは金が尽きよう。部屋はランクEにさせて貰うがそれで良いか?」


 ジーナがグレイの問い掛けに頷くとランクE客室のボタンを押して部屋を決め。

 客室へと向かう扉を開いて部屋の中に入った。


 刹那。


 光の速さで一糸纏わぬ姿となった二人。

 そして。


 まるで息をするかの様に一切の迷いも見せずに必要なアイテムを用意してソファーへと座った。

 その間、僅か13秒。

 たったの13秒で全ての準備を整え。


 グレイはテレビモニターの電源を入れた。



「わっはっは!何このコンビ!超面白いじゃん!」


 さっきまでは平和で退屈でヒショとのゲームに興じていたアイトが楽し気に、豪快に笑う。

 テレビモニターに映っているのは艶街娘とスキンヘッドの自慰僧侶が入ったランクEの客室だ。

 入場から瞬きすらも許さぬ流麗な動きを披露してテレビモニターの前にスタンバイをした二人。

 その二人は今。


『こら!拙僧は尼×坊主のシチュでしか勃たんのだ!拙僧が金を払うのだぞ!尼×坊主シチュ以外のびでおは許さん!』


『まだそんな所で止まってるのかよ!時代は人×人外モノだろ?人がゾンビに犯されるびでお以外は認められない!』


 白熱のチャンネル争いを繰り広げていた。

 但しお互いに利き腕は別の事に使われているので、利き腕ではない方の手でリモコンを取り合っているのだが。


「いやぁ斬新!なんて斬新なんだ!わは!男女で一つの部屋に入って各自で一人遊びに興じるなんて。ヤバい。お腹痛い」


 そう言って腹を抱えて笑うアイト。

 こんなに笑ったのは渾身のボケを披露した時に誰も笑ってくれないから無理矢理自分のツボを深く押して滅茶苦茶面白い事を言ったんだぞ、笑って良いんだぞと集団催眠にかけようとした時以来だ。

 あの時はアイトだけが爆笑して他は誰一人としてくすりとも笑ってくれなかったが。


「マスターが楽しそうで私も嬉しいです」


 ヒショは本当に嬉しそうに微笑んだ。

 さっき美少女格闘ゲームで勝てそうだった所を電源落ち引き分けに持ち込まれた事など全く気にしていない様子で。

 二人はあの程度の事で腹を立てる浅い付き合いではないのだ。


「これは美味い酒が飲めそうだ。飲みながら暫く放置しておこう」


「ペリニョンロゼを開けますか?開けましょう。そうしましょう」


 以前にラブホ杯で獲得したペリニョンロゼは既に飲み切ってしまったので機嫌の良いアイトにおねだりをして。

 二人はラブホテル内にあった在庫を全て集めて覗きながらの酒盛りをスタートさせたのであった。



「尼×僧侶モノこそ至高だ!」


「人×ゾンビモノだ!」


 部屋に入ってから一時間。

 二人は未だにチャンネル争いを繰り広げていた。

 時々「うっ!」とか「ああっ♡」とか言ってちょっとした間が開くので、その間はしっかり目に自分の見たい作品を鑑賞する事が出来るのだが。


 それにしても二人とも何と言うドマイナージャンルに嵌ってしまったのだろうか。

 その沼は狭いけど底無しに深いんだぞ。

 二人の将来が心配である。


 お互いに3回目のクールタイムが明けた後。

 テレビモニターに不可思議な現象が起こった。


「ぬ?これは!」


「嘘でしょ?こんなことって!」


 二人は目を見開いて驚愕を表す。

 まさかそんな事が起こるなど想像すらもしていなかった。

 もしもそんな事が起こったならば、人類は皆が手と手を取り合い。

 誰もが幸せになれる方向へ向かって歩み出せるだろうと。

 口にすれば戯言だと、夢物語だと言って一笑に付す様な。

 醜い争いをしていた二人の穢れを洗い流す理想郷。


 モニターの右半分に尼×僧。

 左半分に人×ゾンビの映像が流れだしたのだ。 


 これは正に神が与えし奇跡。


 二人は掌を合わせて神に祈りを捧げ。

 それまでの鬱憤を晴らすように。

 魔法の様に気持ち良くなるアイテムを駆使してどっぷりと自分の世界に潜り込んだのであった。


「ふぅ。ふぅ。ふぅ」


「はぁ。はぁ。はぁ」


 残り10分の連絡が来て。

 最後の仕上げ遊びを終えた二人は息を切らしながら2秒で服を着て時間ぴったりに客室を後にした。

 ラブホテルを出た二人の表情はまるで仏の様に穏やかである。


 二人は特に言葉も無く、友人よりは近く。

 恋人よりは遠い距離感を保ちながら並んで歩いていた。


「オ〇ニーの頂きを目指す拙僧について来れるとは。其方は中々に見所がある」


「貴方も嫌な奴だと思っていたけれど見直したわ」


 そう一言だけ言葉を交わして。

 二人は無言のまま拳を合わせて同士の誕生に心を震わせたのであった。


 二人の目指す頂きは。

 道は違えど頂点は同じである。


 その後、グレイとジーナは二人でラブホテルを訪れる様になり。

 オプションで追加されたゾンビコスプレと尼コスプレをして頂きを目指し日々修練に励みつづけるのだのだそうな。


 後にオ〇ニー道を極めし一対の自慰仙人が産声を上げた。


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