第41話 特殊シチュエーション客室を利用するのは常連以外に有り得ない③

「話をしてたら遂に特殊シチュ客室が初稼働したぜ!」


「おめでとうございます。流石はマスターです」


「そうだろうそうだろう!わっはっは!」


 相変わらず勘違いも甚だしいが、アイトは自分の手柄の様に上機嫌である。

 だが、上機嫌であると同時にアイトは若干の疑惑も覚えた。


「このショタ。年齢は成人してるみたいだけどちょっと犯罪臭がしてくるな」


 アイトは一頻り笑った後で客室に向かう二人の詳細をチェックする。

 ダンジョンにかかれば侵入者のパーソナルデータなど丸裸である。

 個人情報すっぽんぽんである。


 モニターに表示された情報を見るにチャドと言う名の男は既に成人済みの年齢なのだが、ブレンダと言う名の年上の女の方が男を明らかにリードしているのは見ていれば直ぐにわかる。

 ここで重要なのはチャドが合意の上でラブホテルに来たのか、それともブレンダに上手いこと言い包められて連れて来られたのかだ。


 ラブホテル内での犯罪は許さない。


 そんな強い決意は別に無いのだが、アイトは一応注意深く見ておく事にして。


「レイさん、315号室を一応警戒しておいて」


 ラブホ警備員であるレイスのレイさんに警戒を促したのであった。



 ドッドッドッドッドッドッドッドッ


 車両客室に転移して。

 ブレンダは明らかに平常心を乱していた。

 脈打つ鼓動が煩いぐらいに耳に響き。

 ダムはとうの昔に仕事をしていない。

 どれ程この時を焦がれて来ただろうか。

 合法ショタと二人っきりになるこの時を。


 ブレンダが自らの癖を自覚したのはまだ十代半ばの頃だった。

 当時はまだ冒険者になっておらず、農作業を手伝うただの村娘であったブレンダ。


 同じ村の同年代は村の中で結婚相手を見付けて直ぐに所帯を持った。

 同い年の友人に子供が生まれたとか、年下の子が妊娠したとか。

 両親に早く相手を見付けなさいとせっつかれる事も多かったが。

 ブレンダは誰とも恋仲にならずにいた。


 言い寄って来る男がいなかった訳ではない。

 中性的な見た目ではあったが、当時のブレンダは今と違って女らしい格好をしていたし。

 髪も今の様に短くしてはいなかった。


 何処にだってブレンダの様な見た目が癖に刺さる人間はいる。

 気が強かったのも相まってマゾヒストには局地的に、熱烈にモテた。

 会う度にケツを蹴って欲しがるので滅茶苦茶引いていたが。

 だから一日三発しか蹴らなかったが。

 どれだけ欲しがっても四発目は蹴らずにナニかを踏むまでに留めていたが。

 それはそれでとても嬉しそうだったが。


 当時、ブレンダには好きな男がいた。

 より正確に表現するならば好きな男の子がいた。

 18人いた。

 18人全員を分け隔てなく同じだけ好きだった。


 ブレンダは6歳から12歳ぐらいの男の子が全員大好きだった。

 好きで好きで堪らなくて、愛してすらいた。

 襲いたくって襲いたくって仕方が無かった。


 そんなブレンダはある時、偶々隣の家に侵入していた。

 自らの意思で侵入した訳ではない。

 目覚めたら隣の家にいたのだ。

 そしてブレンダの目の前には服を開けさせたお隣さんの男の子がすやっすや眠っていた。


 ブレンダは恐くなった。

 自分は眠っていたのに隣の家に無断で侵入していた。

 ブレンダは恐くなった。

 そのまま自分が目を覚まさなかったらこの子を襲っていたのだろう。


 少年を愛するが故に尊い犠牲を出す所だった。

 愛する少年に忘れがたい深い傷を負わせる所だった。


 ブレンダは恐くなって。

 空が白み始める時間まで少年に添い寝をして着の身着のまま街を出たのであった。

 あれは素晴らしい経験だった。

 リスクを犯すに値する経験だった。


 その時の温もりと。

 少年の匂いと。

 軽舐めした皮膚の味を思い出して。


 ブレンダは冒険者となり、少ない稼ぎでも添い寝の思い出をオカズにして硬いパンを食べ。

 添い寝の思い出をオカズにしてスッキリしたのであった。


 そして何だかんだあって今日に至る。


 ブレンダ、涎垂らし過ぎである。


 今は合法的に合法ショタと手を繋いでいる。

 ああ、襲いたい。

 今すぐ襲いたい。

 襲って、ラブホテルに通って磨いたテクニックでナニとは言わないが磨きたい。

 きっと小指の先程の大きさだろう。


「うわぁぁ!凄い凄ーい!」


 ナニも知らないチャドはラブホテルの部屋を見て燥いでいる。

 ここはまだ車両部屋では無く普通の客室だ。

 普通と言っても街にある宿とは比べ物にならない程に広くて清潔で贅沢な部屋なのだが。


 チャドは先程まで恐がっていたのも忘れて部屋の中を無邪気に走った。

 その姿はまるで本物の少年の様で、ブレンダは最早吸水力が限界を迎えたズボンから床に糸を引く粘液を滴り落とした。

 しかしブレンダは動かない。

 燥いでいる男の子だなんてブレンダの大好物である。

 見ているだけでパンを18個食べられる。

 いや、23個はイケるかもしれない。


 ブレンダはフロントに電話をして食事を二人分注文した。

 部屋を見ただけでこれだけ燥ぐチャドの事だ。

 ラブホテルの美味しい料理を食べたら、今以上に燥いで「僕の事も食べて下さい♡」なんて言って来るに決まっている。

 ラブホテルでそういうのを見たし。

 「僕の事も食べて♡」って言っていたし。


「美味しいです!凄い凄ーい美味しい!」


 ブレンダの狙い通りチャドは料理を食べても燥いだ。

 そしてブレンダの死角から予想外の一撃を放った。


「一口ずつ交換こしませんか?」


 上目遣いの可愛らしい顔でブレンダを見つめ。

 使っていたスプーンをブレンダの方に差し出したチャド。


 こ、、、これは間接キスじゃないか!


 チャドが食べているのはビーフカレーだ。

 既に何口も食べているからまずチャドの唾液が付着しているのは間違いない。

 その上で、さっきチャドはスプーンの内側に残ったカレーをペロペロしていた。

 こんなのガッツリ唾液が残っているに決まっている。


 ブレンダは口を開きスプーンを口に迎え入れる。

 スパイシーな辛みと米の甘みが素晴らしいハーモニーを生み出す、香りの良いビーフカレーの味わい。


 そんな事はどうでも良い!唾液だ唾液だ!ショタの唾液だ!ひゃっほーい!


 ブレンダのテンションは上がりに上がる。

 心音は更に激しくなり。

 最早ズボンはびっしゃびしゃだ。

 え?お洗濯しました?ってぐらいにびっしゃびしゃだ。


 ブレンダは差し出されたスプーンをぱっくんちょし。


 背中から倒れて卒倒した。


 そして0秒台という驚異的な早さで意識を取り戻し体勢を立て直した。

 こんな色んな意味で美味しい場面で気を失って堪るかと。

 どうにか気合いで立て直した。

 但し両鼻血がだっくだくだが。


「おいひいよ。あたいのもお食へ」


 今度はブレンダのチキンカレーを掬ったスプーンを差し出し。

 チャドは迷わずそれをぱっくんちょした。


「美味しい!ブレンダさん、こっちも美味しいね!」


 満面の笑みを向けられてブレンダは壊れたメトロノームの如く卒倒と起き上がりを繰り返したのであった。



「これは、俺の杞憂だったな。もしもしレイさん?警戒は解いて良いよ」


 マスタールームにて。

 315号室の警戒でじっとり覗き行為に耽っていたアイトはレイさんに内線を繋いで警戒を解かせた。


「私にはまだ警戒が必要に思えますが、解いてしまってよろしいのですか?」


 ヒショは10割方アイトの言動を肯定と称賛するが、疑問に思った時にはまず質問をする。

 質問をして、その答えを聞いて称賛するパターンも得意技である。


「ああ、それは見てのお楽しみとして。レイさん、今から指示する物を315号室に持って行って貰える?まずはアレとソレとコレと」


 ここでアイトはレイさんに指示を出して必要と思われるアイテムを客室に運ばせた。

 果たしてこれがアイトの狙っていたアシストに繋がるのであろうか。


 碌でもない事にしかならない気がするのだが、果たして。

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