第33話 ネイトa.k.aスミスの嫁探し①

「えーと、外に転移しましたね?」


「外に転移したな」


「契約は大丈夫ですよね?」


「契約は大丈夫じゃないかな。署名もしていたし」


 ワンポのゴロンと追い出しボタンによって塔の外へと放り出されたネイト改めスミスとタスケ。

 外には出されたが金を払わない不届き者を追い出す時と違って服は着ているので何か問題をやらかした訳ではないのだろう。

 全裸で街まで戻って来る者が時々出るので、不届き者に対するラブホテルの所業は利用者の間で結構有名だったりする。


 念の為フロントに戻ってエマと名乗った女店員に確認を取って貰った所。


「オーナーが追い出しボタンとか言う変な物を作ってワンポが誤って押しちゃったみたいです。取引についてなんですけど、取引する作物の運び出しは木箱に詰めて外に追い出すそうなので荷物を積み込む人を連れて馬車で来て欲しいとの事です。それからこちらはスミスさんへの報酬です」


 カウンターの上に置かれたのは謎の素材のカード。

 プラスチックで出来たAランクまでの部屋が一日無料となるサービス券だった。


「いよっしゃぁぁぁああ!」


 カードを受け取って思わず雄叫びを上げたスミスは。

 この休養日の間にどうやってサービス券を使ってやろうかと思案しながら。

 タスケを護衛してヤーサンの街へと帰ったのであった。


 その日の夜。


「はっはっは!お前ら!これを見ろ!」


 行きつけの酒場に集まって酒を飲んでいた蒼剣の誓いの3人の前に現れて自慢気にカードを掲げたスミス。


「ん?何だよそれ」


 最近ちょっと大人になったニックが首を傾げて応える。

 残りの二人も何だか面倒臭い奴が来たなと渋い表情を浮かべたが。

 そのカードに書かれた【スミス君専用 休息宿ラブホテル ランクA客室24時間利用 無料サービス券】の文字を見た3人は。


「「「お前何それ!何処で手に入れたん!?」」」


 思わず地元の方言で見事なハモりを披露したのであった。


「マジか。朝の内にラブホテルに行ってれば俺にもチャンスがあったのか」


「そんなアーティファクトが手に入るなんて思わないだろう」


「もふもふ触り放題とかふざけるなよ!」


 弓士のモルトだけ主旨がずれてしまっているが。

 3人ともしっかりと悔しがってスミスは愉快に気分になった。

 譲ってくれなんて言われるがとんでもない。


 このサービス券は信頼の出来る商人を紹介する依頼の報酬で手に入れたものだし。

 街の往復やアポイントメントを取らずにタスケを訪ねたりで、それなりに手間が掛かった。

 それに加えてヒショに脅されて怖い思いをしたし。

 ワンポを撫でるのも食われないかと滅茶苦茶恐かった。

 その上で何故か苗字が生えて改名し。

 スミスを名乗る事になったのだから、このサービス券そういった諸々の対価だ。

 モロ出しの対価だ。

 実質不浄負けだ。

 それでも安いと言わざるを得ない程に魅力的なアイテムをおいそれと手放す筈が無い。


 その日は夜遅くまでスミスのサービス券マウントが続き。

 3人は渋い顔で最後まで突き合った。

 おっと付き合った。

 蒼剣の誓いは付き合いが長くても未だに仲の良い冒険者パーティーなのだ。

 互いの尻で慰め合ったりはしない冒険者パーティーなのだ。


 翌朝。


「折角タダ券があるんだし誰かを誘って行きたい!けれど誘う相手がいない!俺は一体どうすれば良いんだ!」


 スミスはラブホテルの部屋で嘆き、頭を抱えていた。

 言葉通り、ランクAの部屋を24時間貸し切れるなんて途轍もなくプレミアムだ。

 だから誰かを誘いたい。

 けれども誘う相手がいない。


 蒼剣の誓いのリーダーとしてスミスは女性との関わりは多い。

 関わりは多いのだが。

 どうにも恋愛関係にまでは発展せず、関係を持った女性と言えば娼婦ぐらい。

 ニックだけは最近リア充に転身して調子に乗っているが。

 蒼剣は皆ラブホテルのテレビモニターに流れるエロい映像で一人遊びに耽ってしまう人種で構成されているのであった。


「と言う訳で、俺とラブホテルに行ってくれないか?」


「何がと言う訳なの?」


 と言う訳で娼館へとやって来たスミス。

 相手の女性は馴染みの娼婦である。


 金髪碧眼で細い体躯。

 見た目はパッとしないが、喋りやすく。

 経験豊富で愚痴も聞いてくれて友人といる様な気分にさせてくれる。

 そんな。

 あ、そんな娼婦だ。


「いや、森の中に出来た例の塔の話は聞いているだろう?あのラブホテルの上の方のランクの部屋を一日貸し切れる事になったから誰か一緒に行く相手を探してるんだよ。休養日が三日後までだから都合が良い時に行かないか?」


 スミスはスミスのスミスと同じ様に先っちょ以外を包み隠して話す。

 因みに休みの間にサービス券を利用する事は心に決めている。

 それに関しては梃子でも動かないし、最悪一人遊びになる事も辞さない。


「へえ。それって珍しい事なんでしょう?だったら私みたいな女じゃなくて、気になってる女の子と行けば良いじゃない。私は無理よ。三日後まで毎日予約が入ってるもの」


 それなりに意気込んで誘いに行ったのだが、あっさりと断られてしまった。

 その後色々あってすっきりした表情に変わったスミス。

 ラブホテルの映像で見たあんなことやこんなことをやって貰って上機嫌である。


 娼館で敗北を経験したスミスはラブホテル通いを始める前までよく昼食を摂りに来た定食屋へと足を運んだ。

 ウサギのお肉亭はシンプル過ぎる名前の通り、美味しいウサギ肉の料理を食べられる定食屋である。

 スミスが店内に入ると。


「いらっしゃいませ!ネイトさんお久しぶりですね!お元気でしたか?」


 店の看板娘メイアが弾ける笑顔で迎え入れた。

 メイアは平均的な成人女性と比べて頭一つ分も背が低くて幼げな金髪碧眼の女の子である。

 見た目は幼いが成人済み。

 しかし女性のシンボリックな部位も幼いので大いにロリコン受けする見た目をしている。


 暫く足が遠のいていた自分を覚えていて、笑顔で迎え入れてくれたメイアに嬉しくなったスミスは。


「俺とラブホテルに行ってくれないか?」


 無条件反射でメイアを誘い。


「ネイトさんはあの塔に浮気したから嫌です」


 脊髄反射で拒絶されたのであった。


 ウサギのお肉亭でも見事な敗北を喫し。

 ラブホテルでは食べられないウサギ料理でお腹一杯になって満足そうな表情を浮かべるスミス。


 まだだ。

 まだ負けていない。


 既に2連敗中なのだがサービス券を強く握りしめて気合いを入れたスミスは。

 3戦目にして遂に本命のカードを切る事にした。

 向かう場所はそう。


 蒼剣の誓いのホーム、冒険者ギルドである。


「あれ?ネイ、、、あ、スミスさん。まだおやすみじゃありませんでしたっけ?どうされました?」


 ギルドに入って一直線に受付へ向かうと金髪碧眼で美人と評判の受付嬢ステイシーがスミスに話掛けた。

 改名が昨日の今日なのでスミスと言う呼び方は定着していない模様だ。


 ステイシーは冒険者からの人気が高く、背も高く、プライドは案外高くは無くて。

 気が利くし優しくて人当たりも良いウルトラパーフェクト受付嬢である。

 その上、出る所は出ているし、ウエストはキュキュキュッっと締まっているしでマジ超人気で冒険者の間で俺の嫁戦争が起きている状態だ。

 本人はそんな事どこ吹く風で誰にも靡いていない様子だが。


 だが。

 だがしかし。


 スミスには勝算があった。

 ステイシーは人当たりが良く、誰に対しても優しく接するが。

 中でもスミスに対しては特別に優しく接していると確信している。


 依頼を受ける時に向ける柔らかな笑顔。

 依頼を終えて帰って来ると心の底からホッとした様子を見せる。

 その時の安心しきった表情は。

 誰がどう見たって愛する者が怪我無く戻って来た時に見せるそれだった。


 だからスミスは確信を持って。


「俺とラブホテルに行ってくれないか?」


 互いに想い合っているステイシーをラブホテルへ誘った。


 スミスもステイシーの事を想っていた。

 しかし今まで彼女と恋仲にならなかったのは。

 恋仲になり、いずれ家族となって家庭を持ち。

 幸せな夫婦生活を送る様になれば冒険者として、それまでと同じ様に仕事を熟す事は出来ないと思ったからだ。

 実際に家庭を持って冒険者を引退したり危険な依頼を受けなくなる者は多い。


 だから蒼剣の誓いでの活動を優先して。

 ステイシーを待たせてしまっていたのだ。


 しかし折角手に入れたラブホテルの一日利用サービス券と言うアーティファクトは。

 愛するステイシーと共に使いたい。

 先程までの2連敗は忘れる事とする。


 今までそんな素振りを見せなかったスミスの誘いを受けたステイシーは目を見開きはっと息を飲んで。


「特定の冒険者の方とプライベートでお会いするのはちょっと、、、」


 スミスが傷付かない様にやんわりと断った。


 どうやらスミスの勘違いだった模様だ。

 ステイシーはどの冒険者に対しても分け隔てなく接している。

 だから皆、自分がステイシーにとって特別な存在なのではないかと勘違いをするのだ。

 スミスもそんな勘違い野郎の一人だったのである。

 ステイシーは副ギルドマスターのグレゴールとガッツリ不倫関係にあるので、冒険者の誘いには靡かない。


 スミスの受難は続く。

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