第13話 Cランク冒険者の肉弾恋物語③

「ふむ。男の方が奥手過ぎるな。全裸で風呂に突入して赤ちゃんプレイでも始めれば良いのに」


 マスタールームにて。

 アイトは中々進展しない508号室のじれったさに歯噛みしていた。


 赤ちゃんプレイをするかどうかは別にして。

 女の方が肉食っぽいし押せば普通にいけるんじゃね?とアイトは考えていた。


 さて、何かアシストは必要だろうかと思案しつつ。


「もしもしレイさん?508号室にビッグサイズのバスローブをよろしく。脱衣所にこっそりと」


 ラブホテルのオーナーとしての仕事はしっかりとする。

 これも部屋をばっちり覗いていて。

 持っている物ごと壁を擦り抜けられるレイさんの存在があっての細やかな心配りである。

 おもてなしの精神である。


 覗かれるか細やかな心配りが無くなるか。

 どちらが良いかと問われたら。

 後者が良い答える者が大多数であろうが。


 だからと言ってアイトが覗きを止めるつもりは無いが。

 覗きはダンジョンマスターの権利であり娯楽なのだ。

 大体行為中だけはエントランスに切り替えるのだからセーフなのである。


「508が評判良さそうなら一面の花畑で開放的な青姦気分が味わえる。花畑の青姦ルームでも作ろうかな?」


「それは斬新なアイデアですね。素晴らしいと思います」


「そうだよな?よし、Aランク辺りの想定で作ろうか。天井まで全面ガラス張りにして。肉眼で見える範囲は全て花で埋め尽くそう。スイッチ一つで香りも変えられる様にしようか」


「流石はマスターです」


「わっはっは!もっと褒めて!」


 こうして話が脱線し。

 盛り上がったアイトはカップルの事など忘れて新しい客室のアイデアを詰めていくのであった。



「ヤバい。扉の直ぐ向こうに裸のプニータがいると思うといつもよりもペースが」


 ナニとは言わないが。

 ソファーに座って30分足らずで5発も白魔法を放ってしまったニック。


 テレビモニターに映像は流しているが音声は消している。

 部屋と風呂との壁が意図的に薄く作られており。

 楽し気で小気味の良いプニータの鼻歌や湯が奏でる水の音が聞こえて来るからだ。


 シュッシュとナニかを擦る音。

 バクバクと高鳴る心音。

 荒い鼻息の音を除けばプニータが風呂で何をしているのか聞き取れるぐらいに静かである。


 ジャバっと大きな水音が立ち。

 プニータが湯船から出た事を感じ取ったニックは。

 白魔法を受ける為に用意していた紙をゴミ箱に放り込んでズボンを上げた。


 このゴミ箱は蓋が付いている上に十数秒もすれば中身が消えて無くなってしまう。

 なのでツンとする白魔法の匂いに気付かれる事も無いだろう。

 より正確に言うならば。

 やや黄色がかった白魔法なのだが。


 スススと衣擦れの音がして。

 ガチャリと風呂の扉が開く。


「いやぁ気持ち良かったよ。石鹸が花の良い香りだったし。風呂に入りながら綺麗な花に包まれてるなんて最高の気分だった。ニックも入りなよ。最高だよ」


 風呂から出て来た濡れ髪のプニータは。

 胸の辺りがざっくりと開けたバスローブに身を包んでいた。


 非常に大きく。

 やや離れた配置の胸がドカンとその存在を主張し。

 それでいて胸以外の部分はゆったりとした作りになっている。


 この胸だけおはだけバスローブ。

 普通の形のバスローブが何者かによって性的興奮を誘う作りに変えられているのである。


 そんなあられもない姿のプニータを見たニックは。


「ああ。そうするよ」


 興奮し過ぎて鼻から垂れた血を拭いながら風呂場へと逃げたのであった。


「ヤバいだろ。破壊力あり過ぎだろ。エロさがドラゴンクラスだろ。裸でも無いのに迫力が違い過ぎる。あんなのって。あんなのって無いよ」


 風呂へと逃走したニックは。

 外にいるプニータに聞こえない程の声でブツブツと呟きながら。

 クチュクチュとナニかを洗っていた。


 既に何度もラブホテルを訪れているニックは知っている。

 体を洗うボディソープなる石鹸でナニかを洗うと滑らかな扱き心地で気持ちが良い事を。


 体を洗って色んな意味ですっきりしたニックは湯船の前に座り。

 花を除けて何とは言わないが縮れた毛が沈んでいないかとチェックしてから湯船に浸かった。

 残念ながら戦利品は皆無であった。


 温かい湯に浸かってほんの少しだけ興奮を鎮めたニックは。

 脱衣所に用意されていたバスローブを着て脱衣所から出る。

 因みにニックも逞しい胸筋がはだけ気味である。


 そして部屋へと戻ったニックが目にしたもの。

 それは。


 ソファーに座ってテレビモニターでニック好みの例の映像を見ているプニータであった。


「成程ね。男共はこれが目当てで塔に入り浸ってる訳かい」


 プニータは横目でニックを視界に入れて。

 少々きつめのトーンで問い掛けた。


 終わった。


 ニックの中で。

 夢見ていたプニータとの甘い関係がガラガラと崩れ去る音が聞こえた。


 プニータは立ち上がり。

 ニックの目の前まで移動した。


 大柄なニックよりも一回り大きなプニータが。

 更に何倍にも感じる程の威圧感を感じ。

 ニックは蛇に睨まれた蛙の様に身を固くする。


 眉間に皺を寄せ怒りを孕んだ様な表情。

 大きく、強さを感じさせるド迫力の肉々しい体躯。

 フシューと荒々しい呼吸がニックにかかり。

 ニックはますます小さく縮こまるのであった。

 しかし。


「あれの真似してやってやろうか?」


 プニータの口から出たのは。

 全く予想外の言葉だった。


「へ?」


 あまりの急転直下に頭が追い付かず。

 情けない言葉を出してしまったニック。

 表情も緩急が付き過ぎてだらしなくなっている。


「だから。あれの真似してやってやるって言ってるんだよ。さっさと来な!」


 そう言ってバスローブの紐を解き。

 男らしく全裸になったプニータは。

 ニックをベッドへと押し倒し。


「あたしをその気にさせたんだから責任は取って貰うからね」


 捕食者の目で舌なめずりをしたプニータは。

 ニックのバスローブも力ずくで剥して。


「あ、あぁぁぁぁああ!」


 猛烈に激しい苛烈な肉弾戦を展開したのであった。


 そして。


「お姫様の気分になれる最高の部屋だったよ。また利用させて貰うからね」


「そう言って頂けると嬉しいです!ありがとうございました!」


 プニータは受付で礼を言ってラブホテルを後にした。


「全く情けないね」


「は、、、ははは。仰る通りで」


 ヤーサンの街への帰り道。

 ニックは情けなくもプニータの大きな背中に背負われていた。


 508号室で行われた肉弾戦によって。

 ニックは完全に腰砕けになって歩けなくなってしまった。

 プニータは見た目に違わぬ獰猛な肉食獣であった。

 それも飛び切り豊満で可愛く魅力的な。


「プニータ」


 ニックはプニータの背中から声を掛け。


「何だい?」


「愛している」


 プニータへの愛を告白した。


「あたしを満足させられる男になるんだよ?」


 プニータの返事ははっきりとしたものでは無かったが。


「なるさ。必ず」


 ニックはプニータの体に強く抱き着き。

 いつの日か自分がプニータを背負ってこの道を帰るのだと。

 決意を新たにしたのであった。

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