異世界ダンジョン【ラブホテル】~ダンジョンマスターに転生したので異世界でラブホテル経営してみる。破茶滅茶転生者のちょっとエッチなスローライフ
負け犬の心得(眠い犬)
第一章 ラブホテル in ヤーサン
第1話 開店ラブホテル①
ランドソープ王国南部にあるヤーサン。
そのヤーサンの領都から程近い森の中に突如としてピンク色をした塔が出現した。
まずはその内幕を紹介しよう。
「まずはどうにかオープンまで漕ぎ着けたな」
男の名はアイト・シュクノ。
異世界から転生した元日本人で塔のオーナー。
見た目は二十台後半で漆黒の髪に黒目。
容姿はそれなりに整っているが常に眠そうな目をしているのは非常に惜しい。
正式な肩書はダンジョンマスターである。
「おめでとうございます。まさか短期間でここまでの物を作り上げるとは想像していませんでした」
女の名はヒショ。
異世界から転生してきたばかりのアイトが初めに出現させたダンジョンモンスターで種族は魔族。
病的なまでの青白い肌。
黄金の瞳に濃紺の長い髪。
頭には二本の角があり。
容姿は整い過ぎと言って良い程に整っていて“美人な秘書は眼鏡を掛けているもの”というアイトの謎の拘りから伊達眼鏡を掛けている。
正式な肩書はダンジョン深部のフロアボスである。
元日本人アイト・シュクノは異世界にある日本と言う国で死んで。
多種多様な人種族や魔物が存在する世界に転生した。
前世での死因は心臓麻痺だったのだが、そんな事はどうでも良いとして。
異世界に転生したアイトが目を覚ましたのは薄暗い地下空間だった。
そこでは前世で言うゲームの世界の様にステータス画面が表示されていて。
親切にもダンジョンマスターとしてのチュートリアルが始まった。
そのチュートリアルをサポートするダンジョンモンスターとして選んだのが女魔族ヒショだった。
因みに数多くのモンスターの中からヒショを選んだ理由は見た目が好みだったからである。
ヒショとのチュートリアルと説明で自分が転生してきた世界の事とダンジョンの事を理解したアイトは考えた。
ダンジョンは人種族に占拠されて最深部にあるコアを強奪または破壊されると消滅してしまう。
その時は当然ながらアイトやヒショも一緒に消滅する。
前世の日本は国民の多くが平和ボケしていて荒事を好まない国民性だった。
勿論その限りではないのだがアイトもどちらかと言えば平和ボケした人間だった。
そんな人間がダンジョンマスターになったからと言って人種族を殺して。
蹂躙して。
追い帰す様な真似が出来るであろうか。
「いいや、出来る筈が無い!」
何故か当時の発言をタイミング良くぶっこんで来たアイトだが。
アイトはダンジョンマスターとしてダンジョンをどの様に発展させていくか考えに考え。
3秒で決めた方針が。
そうだラブホ、作ろう。
人種族と争う事無く可及的速やかに共栄共存を図る手段として。
ラブホテルを作る以上の一手は存在しない。
そんな謎の思考を振り翳したアイトはせっせとダンジョンを発展させる為のポイントを溜め。
怪し気ですけべな印象を与えまくる、見事なピンク色の塔を勃てる、、、建てる事に成功したのであった。
そんなラブホテルに最初の客が訪れたのは。
ピンク色の塔が建った翌日の事である。
「あの塔は新しく出現したダンジョンって事で良いんだよな?」
四人組のCランク冒険者パーティー“蒼剣の誓い”は冒険者ギルドから依頼を受け。
昨日森に出現した染肌色をした塔の調査に向かっていた。
リーダーである剣士ネイトの問い掛けにはっきりと肯定を示す者はいない。
何故ならダンジョンとは洞窟や地下へと続く階段が入口になっているのが普通であり。
建物の内部に広がっているダンジョンなどはほんの極一部しか知られていないのだ。
しかしながら。
「誰かが作ってた訳でも無く突然だからね。森の木よりも高い建物を瞬時に作り上げるなんて人間技じゃないからダンジョンの可能性が高いんじゃないかな」
蒼剣の頭脳派である弓士モルトが答えた通り。
一瞬で見上げる高さの建物を作り上げるなど明らかに人の仕業ではない。
となればダンジョンとしか考えられないのであった。
「けどよ、ギルドも無茶言うぜ。幾ら俺達がヤーサンで一番高ランクだからって難易度も分からないダンジョンに潜らせるなんてよ」
盾剣士ニックが冒険者ギルドに対して文句を垂れる。
世界中に幾つも存在するダンジョンは。
ダンジョン内に存在するモンスターの強さや仕掛けられている罠の悪辣さがまちまちである。
故に冒険者ギルドではダンジョンに難易度を設定していて冒険者への目安としているのだ。
今回は出現したばかりのダンジョンと思われるので当然難易度は設定されていないが。
「その分誰にも荒らされていないダンジョンに潜れるんだから良いじゃないか。危険はあるかもしれないが見返りは大きいぞ」
魔術師ルイスは前向きな言葉でニックを諫める。
実際にダンジョンから産出されるアイテムには高額になる物も多い。
誰の手も入っていないダンジョンであれば浅い階層の宝箱からも金目のアイテムが出てもおかしくはないのだ。
ヤーサン近郊の森は比較的平和でモンスターの数も多くは無い。
特にここ数年はスライムやゴブリンなど害獣と呼ばれるモンスターが激減していて。
近場を散策するぐらいなら護衛を雇わなくても問題が無い程だ。
蒼剣の誓いはモンスターと遭遇する事も無く染肌色の塔へ到着した。
見上げてみるに五階建てぐらいはあるだろうか。
ダンジョン内は大抵、外観よりも広大なので外観は参考程度にしかならないのだが。
「一応突入前に武器を構えて行くぞ。ルイスは詠唱準備もしておいてくれ」
ニックと共に先頭を歩いていたネイトが振り向いて声を掛け。
三人は頷いて準備をする。
ネイトとニックは剣を抜き。
モルトは矢筒から矢を取った。
ルイスは火魔法ファイヤーボールの詠唱を済ませた状態で止めておき。
「行くぞ」
ダンジョンには不釣り合いな重厚で高級感のある扉を引いて塔の中へと突入した。
突入した四人を待ち構えていたのは。
カランカランカラーン
街の時計台に設置されている時刻を知らせる鐘を随分と小さくした様な手持ちの鐘の音と。
「おめでとうございます!ありがとうございます!貴方方が休息宿ラブホテルにご来店下さった記念すべき一組目のお客さんになります!」
冒険者ギルドの受付の様なカウンターに立っているのは恐らく人族の女。
濁った色のガラスが貼られていて口から上は見えなくなっている。
蒼剣の誓いは呆気に取られた様子だが。
敵意は感じないので武器は構えたまま女の対応を見守った。
女は清潔感のある真っ白なカウンターに手持ちの鐘を置くと上から垂れ下がっている何かの紐を引っ張った。
すると頭上にある金色の玉が割れ。
『歓迎!ラブホテル来店一組目!』と書かれた布が垂れ。
キラキラと輝く小さな何かが舞い落ちた。
「まずはウェルカムドリンクをどうぞ!」
カウンターにいる女は珍しい形のボトルを取り出し。
曇り一つ無い透明で珍しい形をした薄いガラスのコップに液体を注ぐ。
液体の色は塔の外装よりも薄くて透明な染肌色だ。
「こちらオーナーが用意したシャンパンと言うお酒です!どうぞどうぞ!グイっとどうぞ!」
カウンターに4つ並んだコップ。
酒と聞いて4人はどうしようかと非常に迷う。
内装は床が城や貴族の屋敷でも見ない様なピカピカの石材。
壁は外装と近い染肌色だが美しいシャンデリアから夕焼け色の暖かみのある光が降り注ぎ。
カウンターはシミ一つ無い白。
女の顔を隠す濁ったガラスもコップの透明なガラスも見た事も無い。
どんなに腕の良い職人に頼んだとしても作れそうもない技術の数々。
どう考えてもここはダンジョンだ。
ダンジョンとなればあの酒は罠である可能性が高い。
あんな染肌色の液体は見た事が無く。
恐らくは毒でも入っているのだろう。
しかしシュワシュワと泡が発生するあの酒は。
酒好きの勘が盛大に告げている。
旨そうだと。
冒険者とは旨い酒を飲みいい女を抱く為に仕事をしている者が多く。
蒼剣の誓いも例に漏れず酒と女にはとんと弱い。
「オーナーが言うに炭酸が抜ける?とかで早く飲まないと美味しさが逃げてっちゃうそうですよ?」
女の言葉に。
「俺が試しに飲んでみよう」
一歩踏み出したのは魔術師のルイス。
パーティーの中では一番大人しそうな顔をしているこの男。
実はパーティーで一番の酒好きである。
「おい!流石にもっと警戒しろ!」
リーダーのネイトが止めに入るが。
「幸いにも俺達はギルドから念の為にと毒消しポーションを受け取って調査に来た訳だ。もしも毒だったとしても直ぐにポーションを飲めば大丈夫だ。寧ろ毒消しポーションが役に立ってギルドとしても用意した甲斐があったと言うものだろう」
何を言っているのか良くわからないが、一言に纏めるとさっさと酒を飲ませろといった所だ。
ルイスは酒の入ったコップの謎に細いガラスの所を持ち。
グイっと一気に酒を煽った。
「うっ!」
そして呻く様な声を上げたルイスにやっぱりかと身構えた三人だったが。
「うまい!」
何故だろう。
何だか懐かしさを覚える様な反応を見せたルイス。
「いつも飲む安酒と違って爽やかで。でも複雑で。冷たく冷やされた酒のシュワシュワとした口当たりもすっきりとしていて。良く分からないが兎に角旨い!お前ら飲まないなら全部俺が飲んじまうぞ!」
酒好きのルイスが絶賛し。
毒が入っている様子も無いので我先にとコップを手に取った三人は。
今までに無い味と口当たりに衝撃を受けた。
「美味しいですよねこれ。もう一杯ずつ飲まれます?」
女に勧められるまま酒を飲んだ蒼剣の誓いは。
先程までの警戒はどこへやら。
結局瓶に入った酒を一本飲み干したのであった。
「いや、旨いな。所で休息宿?とか言ったがここはどういう所なんだ?」
ネイトの問い掛けに。
「それは口で説明するよりも体験して頂いた方が早いですね。今回は一組目を記念しましてランクCのお部屋を2時間無料で使って頂けますので。あちらの扉から客室に入ってみて下さい。食事も一人一品まで無料ですので是非注文してみて下さいね」
女が手振りでネイト達から見て右手側にある扉へと案内する。
四人はかなり強めの酒を飲んで警戒心が弛んでいたが。
どうにか引き締め直して盾持ちのニックが扉を開き。
四人はラブホテルのエントランスから客室へと転移した。
「今のは転移か?」
ネイトが転移に気付いて一層の警戒を促すが。
やはり罠だったのかと気がついても。
既に転移は終わっているので後の祭りだ。
部屋の廊下と思われるその場に留まって警戒を続けるが。
待てども待てども何も起こらないので警戒をしつつそこを見て回る事にした。
「503号室?ここの番号か?」
転移した場所の背後を見ると扉に503号室と書かれた木札が嵌められていた。
扉には他にも文字が彫られた木札が嵌められていて。
『お帰りの際はフロントに連絡の上、清算をお済ませ下さい』と書かれている。
「これってダンジョンはダンジョンでも罠の無いダンジョンなんじゃないか?入口の所にいたのも普通に人族だったぞ?」
旨い酒を飲んで最も警戒心の薄れているルイスがそう言って無警戒に部屋の中へと進んでいった。
「何じゃこりゃあ!」
そしてルイスは。
続いて三人は驚くべき光景を目の当たりにしたのであった。
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