スライムは食べ物です

華タクロー

スライムは食べ物です

ある日、偉大な勇者が言った。

「スライムは食べ物です」

動画の冒頭で勇者は笑顔で言った。

『簡単、スライムの取り方さばき方』

勇者の動画は大いにバズった。

その日を境にスライムは人々から恐れられなくなった。

老若男女を問わず誰もがスライムを食べ始めた。

ちょうど食糧難の時代、野生のスライムを見かける事はほとんど無くなった。

たまに魔王がスライムを集団で送りこむが、みなが我先にとスライム狩りをして、あっという間にいなくなった。


「何とかせねばならん。」

魔王は頭を抱えていた。

たかがスライム、されどスライム。

軍隊はそういう雑兵によって支えられている。魔王軍は強大とはいえ、その8割はスライムなのだ。彼らが機能しなければ、魔王軍の力は激減する。

魔王は一計を用いる事にした。


魔王城から町へと続く道を禍々しい黒色をしたスライムが進んでいる。魔王が化けたスライムである。

魔王の作戦はこうである。

スライムに化けた魔王が町を襲う。

人々はスライムに手も足も出ずにやられる。

スライムはやはり強くて怖いと思う。

「我ながら完璧な作戦だ」

魔王はウキウキしながら道を跳ねて行った。

その時だった。

草むらからひのきの棒を装備した爺が飛び出してきた。

魔王は驚いた。爺の目はウサギでも狩るかのような目で、恐怖心は微塵もない。

「俺は魔王だぞ?勇者にですらそんな目を向けられたことはない!」

魔王は叫んだが、爺にスライム語が分かるはずもなく、爺のひのきの棒が魔王の頭の上に振り下ろされた。魔王は素早く横に動いたが、爺が爺とは思えない速度でひのきの棒を横にはらってくる。魔王は草むらに転がされた。屈辱に震えながら魔王が草むらから飛び出そうとした、その時だった。

頭に強い衝撃を感じて魔王は地面に倒れこんだ。薄れゆく意識の中で魔王が見たのは、いつの間にか後ろに忍び寄ってきていた、ひのきの棒を装備した婆の姿だった。

「そ、そんな馬鹿な...」

魔王の意識は漆黒の闇の中に溶けていった。


ひのきの棒に縄で吊るされたスライムを二人で担ぎながら、爺と婆は家へと帰っていく。

彼らは懸命に歩いていた。まもなく陽が暮れる。日が暮れるとこんな街はずれには盗賊が出没するからだ。ひのきの棒で盗賊に勝てるはずがない。大事な食べ物を盗賊に取られる訳にはいかないのだ。


彼らの事をきれいな夕日が照らしていた。

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スライムは食べ物です 華タクロー @takurocky

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