第10話 『上原悠馬の恋愛事情①』
――普通の人生だった。
みんなと騒ぎ、勉強し、時には喧嘩もして、時には泣いたりした。友情が高まっていく感覚は何とも言えない幸福感を俺に与えてくれた。
〝恋愛〟は分からないし、まだ早いと思っていた。だけど、最近気になっている奴がいる。
それは隣のクラスにいる氷室稔という男だ。話したこともないのに、何故か気になる。別に驚くほどカッコいいわけでもない。どちらかと言えば、地味で冴えないタイプだと思うし、友達と喋っているところなんて見ないし、いつも一人だし。
「悠馬。どうしたんだ?ぼーっとして」
そんなことを思っていると、親友である純が話しかけてきた。ぼーっと考えごとをしている間に授業は終わっていたようだ。
純とは小学校からの付き合いで、もう十年以上の仲になる。高校まで一緒になるとは思ってなかったけど。
「ああ……すまん。考えごとをしていた」
慌てて返事をすると、すると純は呆れたような顔をしながら、
「またか?お前、最近変だぞ?ぼーっとしていること多すぎだろ」
そう言われて少し考える。確かに最近はよくボーッとしていることが多いかもしれない。でもその理由ははっきりしている。
「……いろいろあるんだよ」
この理由を話すことはできないから適当にはぐらかすことにした。まあ実際話すことなんてできないんだけどな……
「そうなの?何か悩み事か?それなら相談に乗るぜ?」
ツナマヨおにぎりを食べながら言う純を見て、俺は笑みを浮かべる。こう言った純には俺は逆らえる気がしないのだ。俺は純の目には弱く、嘘や隠し事をしてもすぐにバレてしまう。だから素直に相談することにした。
「……隣のクラスに……氷室稔ってやついるじゃん?そいつのこと考えてた。あいつって……どんな奴なのかなって……」
正直に話すと、純は驚いたように目を見開く。そしてツナマヨおにぎりを咀嚼しながら、 純はしばらく黙り込んだ後に口を開いた。
「んー。氷室のこと?あいつ、小学校のころ一回だけ一緒のクラスになったことあるよー。いつも無口で何を考えているのか全くわからない奴だったかなぁ。後、近寄りがたい雰囲気があってあんまり関わりがなかったから覚えてるのはそれくらいだよ」
「そっか……」
その話を聞いて心の中に黒いものが渦巻く。何なんだこれは?今までこんな気持ちになったことはなかったはずだ。何でこんな話を聞いた後にこんな感情を……?
「んで?何でそんな話を俺にしたんだ?氷室と話したいのか?」
「うーん、そう言うわけじゃなくて…ただどんな人間なのか知りたかっただけだよ。特に意味はない」
本当はもっと別の理由があるけど、さすがに本当の理由は言えない。だから誤魔化すために適当なことを言うしかなかった。
しかし純は納得していないようで首を傾げている。
俺は純の視線から逃れようと窓の外を見る。そこには青い空が広がっている。その青さを見ていると、何故か気分が落ち着く気がする。
きっとこのモヤモヤとした感情もいつかは晴れてくれるだろう。俺はそう自分に言い聞かせていた。
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