第4話 『命令とときめき』
目が覚めて、俺は体を起こした。……そう、今は夢を見ているんだ。……なんだかリアルで懐かしい夢を。最後の方は最近だが。
「稔ー?いつまで寝てるのよ」
母の声が聞こえてくる。時計を見ればもうとっくに朝だ。……急いで準備しないとな。俺は立ち上がり、寝癖を治して下に降りていった。
「おはようー!稔!」
「あ、お、おはよう…」
学校に行くと上原悠馬がいて、いきなり笑顔で挨拶をしてきた。俺はその勢いに押されながらも、挨拶を返しながら教室に入り、スマホをいじっていると、
「(……24歳の女性が死亡……しかも海で……!?)」
こんなニュースが目に飛び込んできた。死因は溺死……最悪だ。
その女性とは面識はないが、何だか他人事に思えなかった。何故って言われたらわからないけど。
「(苦しいだろうな……)」
この前は女子高校生が事故で亡くなったとか聞くし、嫌なニュースが最近多いな。
そう思いながら、俺はその記事を閉じるのと同時に先生が入ってくる。そしてホームルームが始まった。
△▼△▼
今日も今日とて。上原悠馬とお昼を食べている。上原悠馬は相変わらず俺の顔を見ている。……そんなに見られると困るんだけど……。
「あ、あの……俺の顔に何か?……」
「いやー?今日もかわいいって思っただけだよ?」
かわいい……?何を言っているんだ。こいつ……
「何を言ってるの?俺がかわいい……なんてこと……」
「んー、じゃあ、かっこいいの方がいい?」
何を言っているんだこいつ。かっこいいのは……、
「かっこいいのは……う、上原くんの方でしょう?」
思わず溢れた本音。だって本当にそう思っている。だって上原悠馬はいつも人気者だ。人当たりが良く、普通に話しているだけで自然と輪の中心になってしまう。そんな上原悠馬が、俺の目には輝いて見えた。
友達作りという概念がないというのは羨ましい、とさえ思う。
まあ、こんなことは絶対に言えないけど……そんなことを思っていると上原悠馬の反応がないことに気付き、上原悠馬の方を見る。
するとそこには顔を真っ赤にさせた上原悠馬がいて。
「え……どうした……?」
「あ、いや……うん……俺はお前…稔に告白してきたやつなんだよ?そんな簡単にかっこいいとか言っちゃダメだ」
「あ、ご、ごめん……でも、本当のことを言っただけで……」
「そういうところ。俺以外にそういうこと言うのは禁止な。後、命令……今日の放課後。絶対に一緒に帰ろう?」
顔を真っ赤にさせたままの上原悠馬がそう言う。その勢いに圧倒されて思わず頷いてしまった。
△▼△▼
放課後、俺はいつも通り帰る支度をしながらため息を吐いた。別に上原悠馬と一緒に帰るのはいい。だけど……。
「おーい。稔!こっちー!」
手を振り、笑顔で俺を呼ぶ上原悠馬。……目立つから本当にやめてほしい……。
そう思いながら、俺は重い足取りで上原悠馬の方に向かうと、
「おー。こいつが噂の氷室稔くん?」
ひぇ……俺の目の前には上原悠馬以外の男子生徒がいる。その人たちは俺を見るなり、好奇な目で見てくる。陽キャ怖い……
「お前。稔が怖がるだろ?」
「えー。何もしてねーじゃん。ねー、稔くん?」
「は、はい……」
おうむ返ししかできねぇ……。怖いのもそうだが、陽キャオーラが強すぎて萎縮してしまうのだ。
「ほら!散った!散った!ほら、稔が怖がってる!」
「ちぇー。ま、いいや。んじゃな!悠馬!」
そう言って陽キャの人は去っていった。……よ、よかった……助かった……
「……はあ、ごめんな?あいつらしつこくて……」
「だ、大丈夫………あ、ありがとう……」
そういう俺に、上原悠馬は嬉しそうに笑いながら隣を歩く。……未だに何でこいつが俺のことが好きなのかは不明。だけど……こういう風に近くに誰かがいるのは本当に久しぶりだ。
そのせいなのか、胸が高鳴る。……さっきから心臓が鳴り止まない。
「(……え?まさか……俺、こ、恋とかしてる……?)」
いやいや!まさか!こ、これは……あれだ!久々に人と話したから……!緊張してるんだ! そう自分に言い聞かせる。だけど……この高鳴りは……正直、抑えられなくて……
そこから俺は悶々としながら、上原悠馬と下校したのだった。
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