第3話 『友達』
そしてあの日から俺は……
「あー。稔の弁当美味そう!おかず交換しようぜ?」
二人っきりで食べている。俺は何も言えないまま弁当を差し出した。上原悠馬は俺の弁当のおかずをパクリと食べながらも、
「稔ってウインナー好き?」
「え?す、好きだけど……」
「なら、やるよ!」
と、俺にウインナーを押し付けてくる。何か凄く目をキラキラさせている。……まぁ、くれるのは嬉しいから貰うけど……
「……あ、ありがとう……」
俺は小さくお礼を言った。すると、上原悠馬は凄く嬉しそうに、どういたしまして!と答えながら、
「てゆうか、俺と稔って同級生なのに何で敬語なの?タメ口でいいからさ、敬語はやめてくんね?」
と、言ってきた。……これは癖でタメ口にできないんだよな……と、思いつつ。あのキラキラとした目を見ていると断りずらい。
「う、うん。わかったよ……」
俺は小さく頷いた。……そうとしか言えなかった。……上原悠馬はその答えに満足したのか、ニコッと笑った。
△▼△▼
俺……氷室稔は一人が好きだ。それは幼少期の頃からずっと。……一人で本を読んだり、絵を描いたり、音楽を聴いたりするのが好きだからだ。
でも、人は一人じゃ生きていけないから友達を作ったりしていた。
最初のころは楽しかった。放課後や休みの日に皆で集まって、色々な話をしたりするのが楽しかった。
……でも、段々と苦痛になっていた。
「なー。氷室は彼女いねーの?好きな子とか、気になる子とかさ」
いつからだろう。みんなが彼女を作るという話についていけなくなったのは。そこに俺が入っていくことに、ためらいを感じてしまうのは。
「いないよ」
そう言えば、決まって皆はからかうように笑う。
好きな子ぐらい作れよ。気になる子の一人や二人いねぇの?と。
そう言うが、本当にいないんだ。
女の子を好きになるより、友達と遊んでいるほうが楽しいから。
そう言えば、また笑われる。
氷室は変わってるなーと。
その笑いに、ほんの少しの違和感を感じたのはいつだろう。
そしてみんなとクラスが離れてぼっちになったときに気付いた。
「(……あぁ、そうか)」
みんな、俺のことなんて見てなかったんだ。クラスにいたから仲良くなってくれただけ。ただ、それだけだったんだ。
そう気付いた時、俺は初めて気がついた。
友情というものには、初めから中身なんてないんだと。ただ、適当にその場のノリと勢いで、一緒にいるだけなのだと。
そして気が付いたら、俺はみんなとの間に見えない壁を張っていた。
これなら一人のほうが楽だと……そう思った。そう思っていたのに。
「俺、お前のことが好きだ!付き合ってくれ!」
……そんなこと言われるまでは。
「…はっ!」
目が覚めて、俺は体を起こした。……そう、今は夢を見ているんだ。……なんだかリアルで懐かしい夢を。最後の方は最近だが。
「稔ー?いつまで寝てるのよ」
母の声が聞こえてくる。時計を見ればもうとっくに朝だ。……急いで準備しないとな。俺は立ち上がり、寝癖を治して下に降りていった。
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