憎しみ、深く(三)

 オルコルカンのようさいこもる、推定三千と鉄仮面は踏んだノルセン・ダウロンの兵に対して(※1)、それを包囲する東部州の兵は八千であった。

 両者はたがいに、平原で行われているであろう戦いの推移を気にして、いくさをしかけることはしなかった。

 ダウロン側は、チノー・アエルツの軍が現れたところで開門して、鉄仮面および東州兵を挟撃し、イルコアにおける争いに決着をつけるつもりだったろう。

 対して、鉄仮面側は、じいさん[オヴァルテン・マウロ]たちが勝つ、もしくは現実的な判断として、引き分けて敵を追い払い、オルコルカンに戻って来るのを期待していた。

 その間、鉄仮面は寝ていたわけではなく、城塞を包囲している土塁と堀の整備をつづけ、猫の子一匹、要塞からることが不可能な状態にした。


 平原のいくさの結果だが、晩春[六月]七日の朝、じんを巻き上げてオルコルカンに到着したのは、七州[デウアルト国]の兵たちであった。

 平原のいくさ[第九次バナルマデネの戦い]は、りょうぐんあいむ激戦となったが、七州側がオルコルカンへのウストレリ軍の突破を防ぎきり、チノーはエレシファへの撤退を指示した。

 オドゥアルデ[・バアニ]どのの話によると、じいさんが想定していたよりも、ウストレリの兵は数が少なかったとのこと。ほかの事情も考えられるが、馬ぞろえの日程が早まったため、兵を集めきれなかったのかもしれなかった。


 じいさんの補佐を受けながら、全軍の指揮をったオドゥアルデ[・バアニ]どのは、世評にたがわぬ手堅い差配を見せ、チノーを苦しめた。

 また、右翼のテモ・コレ、左翼の小ウアスサもよい動きをした。とくに小ウアスサの働きは、人々の用兵家としての彼の印象を大きく良いものに改めさせた。

 問題のファルエール・ヴェルヴェルヴァについては、ノルセン・ホランクとアステレ・アジョウが二人がかりで戦い、何とかいくさの間中、彼を釘付けにすることに成功した。

 アジョウは、やるといった猫の世話もせず(※2)、都合が悪くなると言葉がわからないふりをする悪い女だったが、ヴェルヴェルヴァを退治するうえで鍵となる存在であることを証明してみせた。


 いくさのあと、疲労していたノルセンとアジョウ、それにじいさんと小ウアスサがエルバセータに守備兵と共に残り、オドゥアルデ[・バアニ]どのとテモ・コレがそれぞれの兵を率いて、オルコルカンへ急行してきた。

 これで、オルコルカンの包囲は完成したので、鉄仮面は、大軍に取り囲まれ、救援も望めないダウロンに降服の使者を送った。

 しかし、その返答は、首をひもでつないだ使者を、城壁からダウロン自らが突き落すというものであった。結果、ダウロンに対する鉄仮面の心証は最悪なものに変じた。



※1 推定三千と鉄仮面は踏んだノルセン・ダウロンの兵に対して

 実際は、千五百から二千ほどと推定されている。


※2 やるといった猫の世話もせず

 結局、きれい好きなザユリアイが、えさやりや糞尿の始末をしたとのこと。

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