当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

かのん

乙女ゲームの世界に転生しました

目を覚ました。

見慣れた部屋、豪勢な自室だ。


ベッドから起き上がって、窓の外を見た。

そこには、美しい庭園と豪華な屋敷が広がっていた。


この世界に住んで、もう随分経つ。

でも、今でも時々不思議な感覚に襲われる。


それも当然だ。

私は元々、別の世界の人間だったからだ。



私は生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。

名前はレイナ・ベルモント。富豪の一人娘。

しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。


そんな運命を回避するために、王子達と遭遇しないように工夫していた。

イベントをスキップして、自分の家に引きこもっていた。

せっかくの金髪も青い目も白い肌も、深紅のドレスも、メイドにしか見られない。


そんな私にも、一つだけ希望があった。

向かいに住むモブだった。



彼は私と同じくらいの年齢だった。

ゲームではほとんど登場しなかったが、前世でも彼のことが気になっていた。


濡れたような黒髪、大きな漆黒の瞳。彼はとてもかっこいい。

周りの人と話している様子から、優しくて、面白くて、魅力的なことが分かる。


私は時々、窓から覗いてみることがあった。

彼が気づいてくれるかもしれないと思って。


「おはようございます、お嬢様」


突然、声が聞こえた。

振り返ってみると、メイドのアンナが笑顔で立っていた。


「おはようございます、アンナ」

「今日もお元気そうで何よりです」

「今日は何か予定がありますか?」

「ええと……」


私は考え込んだ。特に予定はなかった。


「それなら、お散歩でもいかがですか?向かいのお屋敷に住む若様がお庭でお花を摘んでいますよ」


アンナは言って、窓を指さした。

窓から見てみると、本当にモブが庭で花を摘んでいた。


彼は白いシャツに黒いズボンというシンプルな服装だったが、

それが彼の色白な肌と黒髪を引き立てていた。


彼は花を一つ一つ丁寧に摘んで、バスケットに入れていた。

彼は時々顔を上げて、周りを見回していた。


その時、彼の目が私の方に向いた。


「あ……」


私は思わず声を漏らした。

彼も私に気づいて、目を見開いた。そして、彼は微笑んで手を振った。


「こんにちは」と彼は口パクで言った。

「こんにちは」と私も口パクで返した。


私達はしばらく窓越しに見つめ合った。

アンナが心配そうに言った。


「お嬢様、どうされましたか?お顔が赤いですよ」

「あ、いえ、何でもありません」


私は慌てて言った。


「それならよかったです。では、お散歩に行きましょうか」


アンナが私にコートを持ってきた。

全身を覆うコート。私だと王子達にバレないように。


「あー、外に出るの面倒だなー」

「だめです。せっかくの美しさも、日光に浴びなくては維持できませんよ」


私はアンナに押されて、玄関に向かった。

扉を開けようとすると、「号外だよ!」と外から声が聞こえた。



「王子達が婚約した!しかも5人、全員だ!」


私は驚きと同時に、安堵した。

そしてコートを脱ぎ捨てた。


「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」


私は家を出て、全速力でモブに会いに行った。


モブの名前はローランという。

彼と仲良くなるのに、時間は必要なかった。



数ヵ月が経過した。

私たちは互いの家を行き来しつつ、新たな人生を歩み始めていた。


ローランは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。

前世でもなかったほど、愛情に包まれた温かさと幸福感で満ち溢れていた。


ある日、私はアンナの部屋に入った。

野良猫が迷い込んでしまったのだ。


「え、日誌?しかもベッドの下?」


ベッドの下から、猫が日誌を加えて出て来た。


「ちょっと読んでみようかな……何々、え、アンナも転生してきたの!?」


彼女とは前世で親友だった、クラスメイト。

しかも、私を越える乙女ゲーム好きだった。


「あの子、ゲームの攻略本を書いてたけど、私には見せてくれなかったよねー」


出来心で、ベッドを覗く。

彼女によって書かれた、ゲームの攻略本があった。


「え、まじで?」


そこには、驚くべきことが書かれていた。


『当て馬の悪役令嬢レイナの向かいに住むモブは、最強の魔術師だった。ローランは王国の危機を救うべく、裏で暗躍していた。王子達の婚約者となったヒロインも、実は魔族のスパイだった。ヒロインは王子達を騙して魔族の手先にしようとしている。ローランは魔族と戦うべく、正体を隠して王国で過ごしている』


私は信じられなかった。

ローランが魔術師だなんて。モブだと思っていたのに。


「てか、裏ルートなんてあったの?」


じわじわと不安が襲う。

玄関のドアが開く音がして、私は慌てて部屋を出た。



玄関で出迎えた私を、アンナは心配そうに見た。


「お嬢様、どうされましたか?お顔が青いですよ」

「な、何でもないわ」

「それならよかったです。では、お昼ご飯を用意しますね」


アンナは部屋へ入って行った。私は猫を撫でた。

ごろごろと喉を鳴らす音だけが、玄関に残された。



何を食べたかも覚えていないまま、ローランの家へ向かった。

午後にお茶を飲む約束をしていたのだ。


「こんにちは。今日も綺麗だね」


テーブルに座ると、彼はネックレスを見せてくれた。

そして、嬉しそうに笑った。


「君のために作ったんだ。白い肌を引き立てるのに、似合うと思ってね」

「ありがとう。何てお礼を言えば良いのかしら」

「レイナの笑顔が見たくて、勝手にしたことだからね」


ローランは私の手を握った。

彼はいつも、私のことを愛してくれる。


「その割には、さみしそうな顔をしてるね?」

「……何か私に隠していることはない?」


完全な沈黙が、場を支配した。

彼は私の手を握って、優しく微笑んだ。


「ごめん、隠してるつもりはなかった。俺は魔術師なんだ」


彼はそう言って、私にキスをした。


「でも君のことを愛してる。これは嘘じゃない」」


私は彼に抱きついた。

彼は優しく受け止めて、頭を優しく撫でてくれた。



あの日から、ローランは魔法を使うようになった。

最強の魔法使いと呼ばれるだけあって、彼に不可能はない。


何でも願いを叶えてくれた。

もちろん私の溺愛に変わりはない。


しかし、平穏な日々は長く続かなかった。

王子達が押し寄せてきたのだ。



「レイナは俺の婚約者だ!」

「いえ、貴女は僕の初恋です!」

「ははは。彼女は私の運命ですよ?」


王子達は私に執着して、もう何時間も食堂で口論している。

騒ぎを聞きつけたローランが、家にやってきた。


「何だい、これは?」

「どうやら彼らは私に惚れていたらしいわ」


困惑する私と反対に、ローランは冷静だった。


「レイナは俺のものだ」


ローランは私を強く抱きしめた。

王子達が凍り付く。剣を抜こうとしている者もいる。


見せつけるように、ローランは私を抱きかかえた。

いわゆる、お姫様抱っこだ。


私たちは宙へ舞い上がり、

窓から、大空へと逃げ出した。



しばらくローランに抱きかかえられて空を飛んだあと、

森で休むことになった。


「どうしてこんなことになってるの?」

「ごめん。俺が悪いんだ」

「どういうこと?」

「実は……」


ローランは深呼吸して、話し始めた。


「王子達の婚約者達は、実は魔族のスパイなんだ。彼女たちは王子達を騙して、魔族の手先にしようとしている」

「うん、知ってる」

「知ってる!?」

「あ、いや。でも、どうしてローランのせいなの?」

「俺が魔法で王子達にレイナへの興味を失わせたんだ。俺はレイナのことが、ずっと好きだった」


それは知らなかった。

婚約破棄ルートを脱出する鍵は、ローラントの接触だったらしい。


しかし私には、まだ分からないことがあった。


「どうして王子達が、また私に執着してるの?」

「魔法が解けたからだろうね。その反動で、彼らは君に熱を上げているんだ」


彼は続けた。


「ごめん。でも、俺は君のことを本当に愛している。君を手放したくない。だから、どうか、俺を許してくれ」


ローランは私の目を見た。

吸い込まれそうな青い瞳からは、彼の気持ちが伝わって来た。


彼は心から私を溺愛している。


結果として、魔族の女たちが婚約者になったけど、

王子達の目をそらしてくれたおかげで、私は生きている。


「分かったわ。私もローランが好き。許すも何も無いしね」

「本当かい?ありがとう。君は優しいな」


彼は微笑んだ。

あたたかく、深い笑みだった。


「でも、これからどうする?王子達は私達を追ってくるわよね」

「大丈夫だよ。俺が君を守るから。俺と一緒に着いてきてくれるかい?」


ローランが言って、私の手を引いた。


「あなたと一緒なら、どこでも」


その直後、私たちは光に包まれた。



あの日から、私の日常は一変した。

ローランと共に向かったのは、なんと魔界だった。


「まるで裏ルート探求の旅ね」

「何か言ったかい?」

「いや、何でもないわ」


私たちは魔界の隅々まで探索した。

ローランが魔術師としての腕前を存分に発揮したからだ。


忌まわしき過去の謎や、魔界に秘められた真実を解き明かすため、

私たちは危険と向き合いながらも前に進んでいった。



そして、辿り着いた場所で私たちを待ち受けていたものは―――

伝説の秘宝、「世界地図」だった。


全てを思いのままにできる、魔法の地図。

その力は世界を変えてしまうことになる。


かつて魔族と人間の間で、

これを巡って争いが起きたともいわれている。


「君が好きにして良いよ」

「じゃあ、最も平和になる道を選ぶわ」

「良いのかい?」

「ええ。ローランがいれば幸せ。あなたに何でももらえるしね」


レイナ・ベルモントが一番欲しいもの。

前提として、ありのままで生きていけること。


そして愛する人からの、溺愛だった。



その後、私たちは人間界に平和をもたらした。

王子達との関係は修復され、互いに尊重し合うようになった。


王国の皆に祝福されながら、私はローランとの結婚を果たした。

二人の愛は永遠に続いた。


……これがクソゲーの真の結末である。


私たちの物語は、乙女ゲームの枠を超え、

永遠のロマンスファンタジーとして刻まれることとなったのだ。


次のページには、愛と勇気に満ちた新たな物語が待っている。

私たちの冒険はまだ終わらない。


私たちの愛も、彼からの溺愛も、永遠に続くのだろう。

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当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。 かのん @izumiaya

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