波に飲まれて

あんちゅー

消えていく

きっかけなんてなくて


それは突然の事だった


失礼かもなと思った


けれど目が離せなくなってしまった


どうせあなたには見えていないのに


憧れだけが強くなった


あなたは波に揺られている


時折見えたその表情は


可愛かった、美しかった、綺麗だった


ため息で目の前が曇った


冬はそこまで迫っているらしい



いつだって世界は暗かった


だから明るい顔をしている人が全て


幸せなんだと思った


勝手だと分かっているけれど


泣いていて欲しかった


その傍で手を取りたかったから


凍えて固まった夢の話


あなたがいつか波にさらわれてしまう


そんな日が来ても大丈夫なように


声を掛けて、笑いあって、泣きたかった


希望を口にする時のように


それは恥ずかしい気持ちだ



目の前の冬に気を取られて見失った


いつか消えていってしまうだろう


どうして都合の悪いことばかり


その通りになっていくんだろう


世界はいつだって非情で


世間はいつだって無常だ


期待は記憶の底に埋もれて


目まぐるしく変わる季節が心を殺していく


きっと忘れれば辛くないよと


世間知らずな心の声が私を飲み込もうとする


そんなのは誰かの真似事だって分かってるのに



あなたがさらわれてから随分経って


私は波にお願いをした


どこへなりともさらって欲しいと


いつかあなたに辿り着けますように


けれども波はいつものように


春の波は私のように


私の心は穏やかに


消えたみたいに凪いでいる









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波に飲まれて あんちゅー @hisack

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