最後の教室

 3年に一度、十日町市周辺で開催される「大地の芸術祭」が好きで、何度も訪れている。会期に縛られずに恒久的に展示されている作品もあって、その一つに廃校を使った『最後の教室』がある。入ってすぐ、照明を絞った暗い体育館がある。何故か風がそよめいていて、目が慣れてくると何台もの扇風機が風を送っていることがわかる。不気味さとワクワクさを感じながら先へ進むと、暗くて長い廊下の先から強い光が発せられている。途切れ途切れに光る廊下の端まで歩いていく。廊下には何も描かれていない真っ黒な額縁が飾られている。人間の心臓の鼓動が聞こえてくる。その音は光に近づくにつれどんどん強くなり、かなりの恐怖を感じる。何かの深淵に触れるような、崇高な気持ちになる。光源には回転するファンが設置されていた。

 上階には青白い光に照らされた棺桶のような入れ物が並んでいる。ずっと誰も居ないのに、人の気配のようなものを感じた。一番奥の部屋に、この学校の昔の生徒のものか、卒業証書や連絡網などの書類が置かれている。かつてこの場所が生きていた頃が偲ばれる。人間の不在を浮き立たせる演出に感動した。田んぼばかりの田舎の片隅に、異世界のような芸術作品がある、という不思議な感じも気に入っている。

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