沈没できる場所

 以前、転勤である地方都市に二年間住んでいた。事務所の同僚以外に知り合いも増えず、学生時代の友達は周りにいないため、休日は時間を持て余していた。近くに温泉が多かったので、ひとりでドライブに出掛けて、目についた日帰り温泉に入ることをよくやっていた。

 ある土曜日、いい感じに寂れた温泉に寄った時、建物をうろついていたら二階に休憩所があったので入ってみた。そこは旅館の大広間のような何十畳もある広いスペースで、長机がいくつかあり座布団が敷かれていた。しんと静かで、一角に本棚があり、ボロボロの背表紙の美味しんぼやクッキングパパ、はじめの一歩、ドカベンなどが全巻揃っていた。誰もいない、無駄に広くて寂れた、素晴らしく気楽な場所。そこを見つけてからは月に一度くらいのペースで訪れて美味しんぼや島耕作を読み、座布団を枕に昼寝する、といった適当な休日を過ごすために利用した。なんとも居心地の良い場所だったと思う。あの温泉、今もあるのだろうか。時々思い出す。

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