振られた彼女の話含めた4つ

 いくつになってもドキドキするし、子供から大人になったとしても悲しい現実には太刀打ちできないだろうし、だったら今のうちにいろんな経験を積んで後世に活かす方が得策だと考えた私は色んなことがしてみたくなった。お酒やタバコに手を出すなんてありきたりで、それはやがてやって来るものだから、だったら自分からドアを開けないと出会えないものにノックしたい。ドラッグとか援交とかそんなアンダーグラウンドじゃなくてもっとポップでキュートな、今どきの女子高生がやらないような、そうだな。キャンプとか原付きドライブとか、楽器演奏とか釣りとかゴルフとか、そんな、人生の後半でハマるような趣味に今から取り組んだとして、よくよく考えればそれも向こうから自然とやって来るので全部ボツであるか。じゃぁ何をすればいいんだろうかと考えた矢先、ふと20代になった自分を想像してみる。大学卒業して就職して、職場恋愛して結婚して子供を産んで家庭を築いて。果たして私にそんなことが出来るものかと不安になるので想像はやめた。今しかできない事をするしかない、子育てなどはあとから来るものだから考えなくて良い、今しかできないことと言えば、高校生と付き合う事だろうか。

 未成年に手を出した大人は捕まるのだが未成年に手を出した未成年は捕まるはずがない。それは何故だ、世界の理である。何なら映画やドラマ小説でバカみたいに描かれる青春群像劇であるから、それを否定するなどおこがましく、絶対に壊れない崇拝すべき事実である。これを経験するとしないとでは今後の人生に大きな影響が出るに違いない。なので昨日告白したことだってその一部であって何ら失敗など落ち込むべきものでもない、むしろ一歩前に進んだのではなかろうか。そうだ、私はこれから青春をしなければ青春が逃げてしまう。せっかくそこにある取り戻しのつかない事実に、うっかり見過ごすところであった。私、三橋叶は青春を掴み取らなければならない使命を受け取りました。




 友人と三橋を付き合わせたい榊の話

 

 思い通りにならないとイライラするのは、きっと自分の能力不足に焦りが出てしまって、それを隠すように怒りや憤りといった分かりやすい感情が覆いかぶさってあるから、本質である己の至らなさ、不甲斐なさが見えにくくなる訳である。確かに、物を破壊することでイライラが収まるのならそれで良いしストレス解消として暴飲暴食に落ち着いたとしても悪くはない。ただやっぱり俺は人間なので、何が悪いのか、どうすれば良くなるのかについて考えたい年頃でもある。彼女いるし友達もそれなりに、人生で何ら不都合など大きな失敗など無いが、じゃぁ、何か成功しましたかと言われたら悩むのも事実。及んでいない、人としての在り方に。答えが出ない、俺という存在がなんのためにあって、どこに向かうかなんて、分かりもしない。だから考えている、これが高校生の行き着く最終目的地であってもおかしくないのに、どうしてこうも無駄なあがきと罵るのか。これは俺自身が俺に対して愚かだと投げかけているのであって世間一般の声などに耳は傾けない。眠りにつく前の軽い妄想など、有って無いような出来事に四苦八苦しておる。俺はなんのために誰のために生きているのかと考え始めたら、ふと二人の顔が思い浮かぶ。三橋さんと如月、俺はどっちを好きになれば良いのだ。

 ふとあいつに頼み込んだ事を後悔し始める俺。よくよく考えたらそんなことをしては、もし俺が今の彼女に振られたら三橋さんと付き合える可能性がグッと低くなる訳で、自分の首を絞めてることにようやく気がつけた。今日の俺はどうかしていた、善人ぶってだらしない、結局いいように見られたい思われたいだけで、後先のことを考えずみっともない。




 コミックボーイ松園の見解

 

 はい。コミックボーイの松園です。突然ですが皆さん、肩書というのをご存知でしょうか。例えば今日とんでもない提案をしてきた榊君は、彼女持ちの榊君です。リア充の君ともいいます。対して僕の肩書はコミックボーイでございます。これは僕の大親友があだ名として小学生の頃に言い始めたのがきっかけで、それ以来僕はコミックボーイとして生きているのです。高校に入ってから彼から一度もそのあだ名で呼ばれることはないのですが、僕が大事にしている肩書です。ソーシャルネットワークのアカウント名はすべてコミックボーイにしています。さて本題ですが、彼が勧めてきた彼女、名前は三橋叶さんと言いましたかな、彼女の肩書は何でしょうか。同じ高校の三橋さん、隣のクラスの三橋さん、放送部の三橋さん。位でしょうか。対して榊の今カノ、如月弥生さん。僕が片思いをしている、していたとされる彼女。肩書が何とですね、コミックガールなんです。コミックガール如月。すごいでしょ、僕とそっくり。と言うのも、もともと僕、榊、如月さんは同じ小学校で仲が良かったはずなんです。僕は漫画が好き、彼女も同じく漫画が好き。榊がつけたあだ名はコミックボーイとコミックガール。覚えたての英語を使いたいばっかりにそんな単純なあだ名になってしまって、そういうところが憎めないんですね。ところが月日が経つにつれて疎遠になり、中学の時には三人ともバラバラになってしまい連絡も取らなくなってしまい関係が終わったかに見えた。高校になって奇跡の再開を果たすもお互いが当時のテンションのまま仲良くなるはずもなく、何となく、ふわふわとした、ただ小学校の時にちょっとだけ遊んでた関係という、何の効力もない共通の肩書が三人にあるだけ。それだけ。

 ただ私、じゃないや、僕が言いたいのはですね、コミックガールがずっと好きだったんです。おんなじようなあだ名をもらって、浮かれちゃって、意識しちゃって。もしかすると向こうも僕を意識してくれてるんじゃないかと期待しちゃってて。でもそれがどうも僕じゃなくて榊の方に向いているんじゃなかろうかと気付いてしまって。それが僕の始まりと終わり。具体的なイベントがあったわけでもなく、面と向かってはっきりと、私、榊くんが好きなのと言われたわけでもなくて、ただ、僕にやってきたのは、コミックガールと親友が付き合っているという事実だけ。その衝撃は好きな漫画が打ち切られた時よりも大きかったわ。


 


 そのコミックガールの意見

 

 彼が帰ったあと、どうも自分の恋心が偽物ではないかと疑った罰として、好きだった漫画の断捨離を始めた。と言うのも、自分の気持に素直になれないという考え方は、漫画の影響である。具体的な作品名とかは言えないが、とにかくそれは私の気持ちではないことは明らかだ。だってそうでしょう。好きでもない人に告白するわけもなく、付き合ったあとも自分の気持ちが本物かどうか疑う義務もなく、ただ今を楽しめば良いものを、無下にするような考えを持って、そんなヘンクツな考えは偏屈な漫画家がうまくまとめて絵に書いたせいであって、私のものではない。押し入れにしまった部類漫画を一冊づつ手に取り、思い出を捨てるように軽く紐でまとめた。その中には小学校の頃から読んでた物もあった。懐かしいと言うより、度重なる引っ越しの中でなんで捨てなかったんだろうという思いのほうが強い。そういえばいま手に持っている漫画、これが好きだって言ってた男の子が隣のクラスに居るなぁ。名前は、何だっけ。あだ名があったような気がするけど、忘れてしまったなぁ。たしか私もおんなじ様なあだ名をつけられてたような気がする。そもそも誰につけてもらったんだっけか。忘れてしまったなぁ、忘れるほど中学校生活、ひどかったなぁ。全て忘れなければここにはたどり着けなかったから、だから私の過去はそのために精算した。だから私は先に進むために過去を捨てなければならない。その時好きだったはずのものを抱いて、今が好きかどうか分からない現実から目を背いて、未来へ向かう。それは責任でもあって、課せられた使命でもある。

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