46 テンプレ?
「あれ、
コーンを運ぶのに、扉を閉めてしまう必要性はないように思えるのですが……?
「い、いや、ちょっとねっ?」
「えっと、何がちょっとなんですか……?」
扉を閉められてしまったため、陽の光は閉ざされています。
小さな窓から差し込んでくる光だけでは、この倉庫内を照らすには至りません。
「その、さっきの二人三脚で知りたいことがあると言うか……」
「二人三脚ですか?わたしが華凛さんに?」
運動が得意な華凛さんに教えられることなんて何もないように思えるのですが……。
「いや、その
「どうと言われましても……?」
「何か感じることはあったでしょ?」
薄暗い部屋の中、足音が聞こえてくるので少しずつ華凛さんが近づいているのが分かります。
どこか勿体ぶるように、躊躇いがちに距離を縮めてきます。
「感じるって言っても……強いて言うならわたしより腕細くていいなぁ、とかですかね?」
冴月さん、実はスタイルがいいです。
月森三姉妹のような天性の美貌とスタイルとは違いますが、それでも元々の恵まれた体に努力の上で成り立った線の細さや肌のきめ細かさは、触れ合う機会がなければ感じることはなかったでしょう。
「ほら、それっておかしくない?」
「おかしいですか?」
特におかしなことは見当たりませんけど。
「それって、冴月も
「あー……。まあ、そうかもしれませんけど。“肉付きいいな、こいつ”とかくらいにしか思われてませんよ」
はは、悲しきかな。
わたしは月森三姉妹の義妹になってから、実は体重が増加しているのです。
ご飯が美味しいせいでしょうか……。
食生活に関しては、完全に甘やかされているような気がしますし……。
それが冴月さんにバレているんじゃないかと、実は気にしていたのは内緒です。
「でも、そんなの
「あの、わたし的には知られたくないんですけど……」
出来ることならわたしの体重も肉付きに関しても、トップシークレットにして欲しいです。
誰が気にするでもない情報ですが、それゆえに知られる必要もないのです。
「でも、あたしの方が
その声の近さで、華凛さんが目の前に立ったことにようやく気付きます。
薄暗い部屋の中、華凛さんのシルエットが浮かび上がります。
「いや、これに関してはむしろ華凛さんの方こそ、知られたくないのですが……」
わたしを目の敵にしている冴月さんはともかく。
推しで大尊敬している月森さんたちに、わたしの肥えてしまった事実なんて絶対に知られたくありません。
可愛いと思われたいとか、そんな贅沢は望んでいませんが、醜くなっているのをわざわざ知られたい女子もいないですよね。
「でも、あたしは知りたい」
――ひたり
と、腕先に触れられる感触。
目は見えずとも、それが華凛さんの手によるものだというのはすぐに分かります。
「華凛さん……?」
「あたしより明莉のことを知っている他人がいるのは、嫌なんだけど」
華凛さんの手はわたしの前腕を握り、徐々に上へと伝って二の腕にまで達してきます。
二人三脚で熱くなってしまって、ジャージの上着を脱いでしまったのがいけなかったです。
Tシャツ姿のわたしの腕は素肌を晒していました。
「あ、あの、華凛さんっ。わたし走って汗かいた後なので汚いですよっ?」
いけません。
あんなに綺麗で神々しい華凛さんが、わたしの薄汚れた体に触れてしまうなんて。
穢れてしまいますっ。
「汚くないし。それに冴月は、その腕にも触れたんでしょ?」
「いや、そうかもしれませんけどっ。というか冴月さんがわたしの事を知ったところで、華凛さんまで知る必要はないですよっ」
そもそもなぜ、華凛さんはそんなことに執着するのでしょう。
義妹として、わたしのことを気遣ってくれるのは嬉しいですけど。
そこまで把握しようとする理由が分かりません。
「腕だけじゃなくて、体も密着させてたんだから。冴月は明莉の体のことも知ってるんでしょ?」
「それこそ禁断の領域なんですよっ」
たしかに密着はしました。
その時、冴月さんの体の細さを感じましたよ?
それはつまりお互い様。
わたしの肉を、向こうも感じたということでしょう。
でも、それは二人三脚だから仕方なく甘んじたことであって……。
「なら、あたしだって知ってよくない?」
「いやいや!おかしいですよっ!そんなことしたら、わたしも華凛さんの体のこと分かっちゃいますよ!?」
なんですか、この展開っ。
ちょっとよく分からなくてパニックになりそうなんですがっ。
「あたしはいいけど?」
ちょっと知りてぇー!
……じゃないっ!!
「それは華凛さんが普段から運動していてスレンダーで自信があるから出来るんですよっ!わたしみたいな放し飼いで熟成された肥満ボデーとは釣り合いがとれないんですよっ!」
何を言ってるのか分からないと思いますが、要するに羞恥心の度合いが違うということですね。
鍛え抜かれた華凛さんの体は、知られることへの羞恥心は少ないでしょうけど。
わたしのような怠惰を溜め込んだような体は、ただの恥。
それをお互い知っても、恥の量はわたしの方が多いから釣り合わないという理論ですねっ!
いや、そもそもそういう問題なのかというのは置いといてっ!
とりあえず、なんか普通に抵抗感ありますよねっ!
「明莉が思ってるほど、あたし自分に自信ないし」
「いやいやいやっ、華凛さんで自信なかったらわたしなんかはどうすればいいんですかっ?日陰をずっと歩いて生きて行くしかないじゃないですかっ」
あ、いつも通りのわたしですね、それ。
「いいからっ、とにかく冴月だけとかズルいって」
ぐいっ、と腕を引っ張られます。
ですが、い、いけません……!
こんな事でわたしのだらしなボディを華凛さんに知らせてしまっては……!
これからお家で一緒に生活するのに、華凛さんとのギャップをより感じて今以上に肩身が狭くなるじゃないですか……!
知らなくてもいいことって、たくさんあると思うんですよねっ。
いや、華凛さんのことをわたしが一方的に知れるのならいいんですけどっ。
わたしのことを華凛さんに知られるのは嫌なのですっ。
「や、やめてくださいっ!」
わたしは掴まれた腕を、強く引き返します。
「え、いきなり抵抗!?」
「わ、わわっ……!」
わたしに引っ張られた華凛さんは覆いかぶさるように倒れ込んできます。
それは暗闇の中では接触してからようやく分かることで、いきなり重みが加わると反応が遅れ、足をもつれさせてしまいます。
――バタンッ!
と、二人で一緒に倒れ込んでしまいました。
「あいたた……」
運が良かったのか、ちょうどマットレスが敷いてある所に倒れ込んだようで怪我はなさそうです。
「明莉……」
「……え、あのぅ」
しかし、目を見開くと、目の前には華凛さんのご尊顔が。
さっきまで薄暗がりで分からなかったのに、こうして見えるということは、それだけ距離が近いという証です。
わたしは下で、華凛さんが上で四つ這いに……。
ギシギシッと華凛さんが距離を縮めようと腕を動かす度にマッドレスが沈み込んでいきます。
「あたし、負けないから」
な、何に……?
ていうか、なんかこんなの漫画で見た事あるような……?
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