25 気持ちは一つなんだけど


 さて、日も変わり朝を迎えました。


 昨夜、三姉妹の予定がブッキングしてしまった件に関しては、一度なかったことになりました。


 三姉妹と生活すると、こういう事もあるのかと驚きですね。


 それでは、今日もまた変わらぬ平穏な一日を過ごしましょう。


「そう言えば、貴女はいつも支度が遅いわよね」


 朝食の場にて、千夜ちやさんに開口一番でそんなことを言われました。


「あ、はい……皆さんよりちょっとだけゆっくりさせてもらってます……」


 なんせ、三姉妹の皆さんは一緒に登校されてますからね。


 同じ家に住む身としては、その後に家を出るので遅くせざるを得ないのです。


 先に行くのは生活サイクル的にちょっと大変ですし。


「今日からは私達に合わせなさい」


 その発言にぴくりと日和ひよりさんと華凛かりんさんが肩を震わせます。


 何か共鳴したかのような反応です。


「えっと、それだと皆さんと一緒になっちゃうんですけど……」


「だから、そうしなさいと言っているのよ」


 ん、それってつまり……?


「そうですねぇ、それがよろしいかと思います」


「うんうん、そうね、そうするべきねっ。あたしもそう思う!」


 そこに日和さんと華凛さんが、うんうん頷いて共感してくれます。


 こ、これってまさかの……?







 家の扉を開けると、朝陽の眩しさと涼やかな風が頬を撫でる。


 その先には三人の美少女が立っていて――


「さあ、行くわよ」「行きましょうか」「行こうっ」


 と、わたしを誘ってくれるのです。


 そう、一緒に登校です。


「ひぃえええええっ」


 嬉しいを通り越して、恐れ多いんですけどぉ……!?


「斬新な反応するわね……」


 千夜さんには冷ややかな眼差しを向けられますが、そりゃこんな反応になるに決まっています。


あかちゃんって、学校へ行くのにこんな過敏な反応をするのですか?」


「いや、あたしと一緒に行った時もちょっと変だったけど。さすがにここまでヒドくなかったかな……」


 いやいや、お二人とも自分事だから分からないでしょうけど。


 これは大変イレギュラーな事態なんですよ。


「皆さんのようなクラスカーストトップの中に、底辺のわたしが混ざると違和感がすごいです……」


「変わったことを言うのね。いつも一緒にいるのに」


 家ではですよねっ。


 家と学校では違うんですよっ。


「クラスカースト?それって本当にあるんですか?」


「さあ?漫画とかの話じゃない?」


 首を傾げる三姉妹っ。


 嗚呼……っ!


 トップの方々はそんなヒエラルキーを意識しないからこそトップなのだ。


 そこが輝かしいのだけれど、そこにわたしが入るとまずい。


 何というか、大衆の目線的にまずい。


「きっとですねぇ、三人の皆さんを見たいと思ってる方たちも少なくないと思うんですよぉ……だからわたしは一緒に行かない方がいいような……」


 これは推しだからこそ分かるファン心理。


 この三姉妹は、三人でいるからこそ美しいのだ。


 気だるい朝、三姉妹のかしましい美麗な姿を心の清涼剤として心待ちにしている人たちは少なくない。


 そこにわたしのような異分子でも入って見なさい。


「『だれ、アイツー?チョー場違いなんですけどぉ。マジ調子のんなし』って思われるのが目に見えていますっ」


「誰よ、その変な話し方の人……」


「どことなく華凛ちゃんのような?」


「あたし、あんな変なイントネーションで喋ってないけど!?」


 わたしの脳内陽キャですけど。


 いやいや、問題はそこじゃなくてですねっ。


「いいこと、貴女は他人の視線を気にしている様だけど。それは余計なお世話よ」


「はい……?」


「私達がそうしたいと言っているのだから、それが全て」


 千夜さんは事もなげに言い切ります。


 他のことはどうでもいいと。


「そうですよぉ。皆さんそんなこと気にしてませんから」


「そうそうっ。明莉も変に考えすぎだって」


 三姉妹が全員同意の上でわたしのことを受け入れてくれています。


 皆さんが気持ちを一つにしてくれる姿はとても心穏やかになる光景です。


 だから、わたしは――


「あ……じゃあ、三人の後ろに付いて行くので先を歩いてもらっていいですか?」


 考え得る最大限の譲歩案を提示したのでした。


『……』


 三人の無言の間が、数拍開いて。


『却下』


 と、息を揃えて返されるのでした。



        ◇◇◇



 というわけで、まさかの月森三姉妹との登校が始まったわけですが……。


「四人揃って横並びは迷惑でしょう?」


「ええ、ですから2人1組で歩くべきですねぇ」


「じゃあ、千夜ねえと日和ねえは先にどうぞ。あたしは明莉と歩くから」


 なぜか言い争いを始める三人……。


「その分け方は上下で決めているようで違和感が残るわね」


「よく分からないことを言っているので却下ですねぇ?」


「いやいや、全然分かるじゃない!年功序列でいいじゃない!」


 な、なんでだ……。


 こういう時って、その場の空気で分かれるものじゃないんですか……?


「さっき華凛は一緒に行ったことがあると言っていたから、その組み合わせじゃない方が良さそうね」


 すると、わたしの右隣りに千夜さんがっ。


「問題ないわね?」


「あ、はっ、はい……!」


 クールな眼光で行き先を見据えている横顔は、鼻筋が通ってとっても綺麗です。


「あらぁ?あかちゃんが車道側を歩いて何かあったら心配ですので、ここはわたしが……」


 すかさず左隣に日和さんがっ。


「お隣、よろしいですか?」


「は、はいっ、勿論ですっ!」


 ふわふわと溶けるような眼差しは、朝から心の芯をほぐしてくれます。


「なんで、あたしが一人になるのよっ!?」


 すると後方に位置していた華凛さんの叫びと同時、背中から包まれるような感触が?


「そもそも2人1組って言ってたのに。ルール変わってるじゃないっ」


「はわわわっ!?」


 突然の浮遊感、どうやらわたしは華凛さんの腕に抱かれているようです。


 華奢な腕付きなのに、芯のある体躯が密着することで安定感をもたらします。


 こんな身体接触……す、すごすぎるっ。


 わたしは持ち上げられ、千夜さんと日和さんの間にはすっぽり穴が開くことに。


「またそうやって強行手段に出るのね、華凛」


「危ないのは良くないですよぉ?」


「だって、あたし一人のけ者はおかしいじゃないっ」


 朝から言い合いが止まらない三姉妹。


 それより、お気づきでしょうか皆様……。


「あ、あの……全然進んでないんですけど……学校に行かなくていいのでしょうか?」


 並びを決めるのに必死で、一歩も先へ進んでいません


『誰のせいだと思って――いて・いるんですか・るのよ?』


 ひょえええ……。


 わたしは何もしてないですよねぇ?



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