第17話 和樹が部活を辞めた理由
これは僕が中学の時の話だ。
綾香のおかげで人と関わることが楽しくなり中学は普通にみんなと話そうときめていた。
人見知りもあるので自分からは話しかけられなかったがちょっとした事がきっかけで友達を作ることが出来た。
お馴染みの悠真、そして翔太というやつとも仲良くなることが出来た。
そうして二人に陸上部に入ろうと誘われ、特に入りたい部活もなかったのでその誘いに乗ることした。
陸上部は思っていた以上に楽しかった。部の仲間とも良い関係をもてたし、みんな練習も真面目にしていて良い雰囲気の部活だった。
でもそんな良い雰囲気は一年ほどで崩壊した───。
陸上部の中に山田という奴がいた。性格は大人しめであまり発言をせず僕も数えられるぐらいしか話したことの無い奴だ。足の速さは部内でもそこそこ上の方でありリレーのメンバーに選ばれていたそんな奴だ。
中二の夏にあった大会でリレーのチームは勝てば県大会に出場できるというところまで来ていた。部内も期待と緊張がひしめき合い皆その試合に釘付けになっていた。
そうして始まったリレーで山田が転けてしまったのだ。そうなれば当然上位をとることなど不可能となり県大会には出れなくなってしまった。
山田は全員の前でちゃんと謝っていた。他のみんなも完全に納得はしていないようだったが山田を許したはずだった。
次の日から部内の雰囲気がガラッと変わり始めた。なんというかすごくギスギスしていたのだ。皆異常な程に山田を睨みつけているのがたまに目に入った。
それからしばらくして山田は部活に来なくなりついには学校にすら来なくなっていた。
それから数日後ある出来事が起きた。
僕が教室に入った時皆席を立ち誰かを囲っているような形になっていたのだ。僕はその隙間から何が起きてるのかを見た。
嘘だろ………。僕は目を疑った。なぜなら悠真が翔太を殴っているのが見えたから。
「悠真!何してんだ!」
僕は無理やり体をねじ込み悠真の所へと向かった。
「おい、助けてくれよ和樹」と腫れた顔の翔太が言った。
「悠真何があったんだ?」
「山田が急に学校に来なくなったの覚えてるか?」と怒りのこもった口調でそう言う悠真。
「ああ、覚えてる。でもそれがどうしたんだ?」
「あいついじめられてたんだ。部の奴らから。暴力も振られてたらしい………」
「───えっ………」
僕は言葉を失った。
いじめられてた....?
「いじめをやってた奴らの中に翔太もいたんだ」と衝撃の事をいう悠真。
「ちょっと待て………何でわかったんだ?」
「俺ん家の近くに山田が住んでんだ。それでよこの前様子見に行ったらあいつの親が出てきてそう言われたんだ」
確かに悠真は他の部員と比べてもよく話していた…………。まさか家まで知ってたとは。
「それで翔太に謝れって言ったんだ。そしたらこいつ何でとか言って全く反省してねぇ様子だったからよ。カッとなって殴ったんだ…………」
「翔太これはほんとか?」
「ほんとも何も何で俺が殴られなきゃならないんだよ。悪いのは全部山田じゃねぇか。俺は悪くねぇ…………」
悪いわけない?何言ってんだよ翔太。そんなわけないだろ…………。
「ふざけるなよ翔太…………」
僕はこの時怒りと悲しさが込み上げすごく気分が悪かった。
「悠真もう良いこんなやつほっとけよ」
僕は悠真の耳元でそう言った。
「悪いが俺はこいつが許せねぇんだ」
そう言い拳を振り上げる悠真。
僕はその拳を止め
「それは僕も同じだ。それでもこいつを殴ったらお前も悪者だ。だからやめとけ…………」
するとしばらく悠真は黙り込み苦虫を噛んだような顔をし「………わかった」と渋々拳を下ろした。
「翔太もう話しかけてこないでくれ………」
僕はそう吐き捨て悠真と一度教室を出た。
翔太が「待ってくれよ」と言っていた気がしたが無視した。
災厄の気分だった。裏切られたようなそれでもこれ以上あいつを嫌いになりたくないと思ってしまうそんな自分に嫌気がさした。
当然いじめの事は先生に報告した。翔太含め全員先生からも親からも怒られたのだろう。山田も遠くに引越したと聞いた。
僕はそれから部活には行かなくなった。人ともなるべく距離を置くようになった。誰も信用出来なくなってしまったから。それでも唯一悠真だけは信用出来た。
僕は優しい人間じゃない。距離を置いたのも全部自分のためにやった。山田がいじめられてたとか知ってもあの時の僕は悠真みたいには怒れなかった。
僕がいじめを止められ無かったことを酷く後悔したのはそれからしばらくしてからだ。
もしかしたら冬野さんを助けたのも無意識にそれを気にしていたからかもしれない…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます