自分の浅はかさに気付いたので

江来欠

自分の浅はかさに気付いたので

 酒を飲むことにしました。

 運び込まれた某宅配のもち明太ピザが部屋いっぱいに匂いを充満させます。焼酎でも突っ込みたい気分でしたが生憎5パーのレモンサワーしか飲めない雑魚でしたので大人しく15分も離れたコンビニに出向いてレモン堂を無駄に2本も購入して参りました。

 実はレモン堂は初めてです。あとはタブを人差し指で引っ掛けて持ち上げるだけの簡単なお仕事です。缶とはなんて優しいものでしょうか。人類の生命維持には必須なはずの、ミネラルウォーターのキャップの開かなさったら! あんなに不親切なのは見た事がありません。炎天下就活スーツで飛び出し水筒は忘れ汗と息と涙でぐっちゃんぐっちゃんになりながらようよう辿り着いた自販機の前、レシートの地層から130円という決して安くないお宝をなんとか掘り当て手に入れたオアシスは全く微笑んではくれないのでした。ご丁寧にどーも! 私のようなようやくニケタという握力の持ち主ではペットボトルとはどうもお友達にはなれないようです。

 酒は飲んでも呑まれるなと言いますが呑まれることすら私は神様に許してもらえません。どうせ吐きますから。共に飲むような友人もおりませんが、かえってよいことです。自分の始末は自分でつけねばなりません。このようにいつ何時人様に迷惑をかけるかしれぬような人間が、たとえばあなたの物好きで飲み友♪などということになろうもんならあなたは全身で私を支えねばならず、いずれ共に沈みあなたの家族は泣き叫び地球は半壊するでしょう。

 さて、ここは一息にいきましょう。どうせ待つ未来は同じなのですから。心臓が高速ドラムになればしめたもんです。

 ハイになりますか?

 はい。ハイ。だってくふふ。ハイボールのハイ。チューハイのハイ。

 レモンとアルコールと唾液と胃酸があの夏のように絡み合います。中では今頃ナイアガラの滝が形成されていることでしょう。

 頭がめまぐるしく回転します。世界もめまぐるしく動いてゆきます。けれど身体はおっついてくれません。世界が三周する頃にようやく私は一歩進みます。たまに三歩戻ります。昔からそうでした。誰よりも一心に体操着を着替えているはずなのに気付けばだらだらインスタントな会話をしていたはずのクラスメイト達が次々出ていって、私はその場で立ち尽くしているのです。結局最後までビリでした。

 げろげろげー。滝を登りきった鯉は竜になれるそうですが、私の鯉はこんな汚泥になって排水管をただただ無様に流れてゆくだけです。ごめんね鯉。希望を抱いて登り切ったというのにこんなあっけない幕切れだなんて思わなかったことでしょう。

 どうやら私はあの頃からちっとも変わっていないようです。職場でもそうでしたので、辞めました。多分一生トップランナーにはなれません。

 ようやく腹がいたのでピザを一切れ食べます。明太子は好きです。元職場のはす向かいにあるパスタ屋では一時期明太クリームを狂ったように食べていました。あとで必ずといっていいほど腹を下しましたが。パスタが悪いのではありません。なんでもそうでした。出るのが液体か固体かだけの違いです。上か下かだけの違いです。

 吐いた後に食べるんじゃありませんでした。マヨとチーズの脂は余計悪心を引き起こすだけです。誕生日にホームパーティでも開いて友人達を招待すれば良かったんです。そんな友達がいればこうはなってないんです。

 気晴らしにTwitterを眺めます。今はXですか。いちいちみんな律儀にエックスだのポストだの言い換えてえらいもんです。おすすめトレンドをタップすればインプレッション稼ぎのツイートがずらりと並びます。もはや世紀末。関係のない動物の動画なんか上げて何が楽しいんでしょう。特に猫。親戚のうちで飼っていた猫に膝の上でオシッコされて以来猫は嫌いです。世の中の猫好きみたいに寛容にはなれません。

 しかしこういう乞食だの副業だのなんだの意味のないツイートの向こうにも人がいると思うと不思議な気持ちになります。彼らにも友人がいるのでしょうか。家族がいるのでしょうか。ユーチューブの架空請求撃退動画など見ていると、中にはヤラセもあるかもしれませんが、なんだかいたたまれない気になってくるのです。オレオレもエロ広告のワンクリックもフィッシングも、まさかそんな目を向けられているとは思ってもいないでしょうけど。

 ああ、退廃的になれば最高かしら。ぼんやりと考えます。私には破滅的人生を送る気概もありません。所詮私は中途半端な人間です。正気も狂気もない。きっと社会生活はできます。へろへろになりながら、モダン・タイムスのようになりながら、それでも生きてゆけるので、私のことを羨ましいと思う人間もいるのでしょう。でも私もべろべろに酔ってみたい。前後不覚になって髪も乳も振り乱しながら人生を踊り明かしてみたい。もしそれが許されるなら、たとえその先が奈落でも私は満足できると思うのです。

 

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自分の浅はかさに気付いたので 江来欠 @akubi_erai

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