なんだかオオゴトになってきたな……の章

52.友たちとの再会


 前章のあらすじ

 ダンジョンやあらゆる危険地帯に向かう冒険者たち。時には危険に晒され、命を落とします。数多くの犠牲、そして帝暦864年の勇者パーティー全滅という大事件、これらを契機にパーティーリソースマネジメントという思想が生まれました。それは、安全な冒険のために利用可能な全ての資源、つまり人的資源、物資、情報などを有効活用するという考え方でした。また、蓄音器の登場と小型化はこの概念を加速させ、帝暦882年、帝国政府は冒険者に蓄音器の装備を義務付けました。そして同時に、"冒険者事故調査法"を布告。冒険者たちの事故原因の追求を行う、世界各地から集められたあらゆる専門家からなる組織、帝国事故調査局(Bureau of Empire Accident Investigation)、通称BEAが結成されました。

「急に何の話ですか!?」


 本当の前章のあらすじ

 ウルバン、ウルリーケを加えたジロたち一行はとりあえずデカ目の街、月の港に向かっていた。その途中、なんか変な稀人、タナカを拾う。一方、月の港では街の支配者を決める司教選挙が行われようとしていた。候補者エスメラルダは富裕層からの支持を集め、福祉策に乗じた私的な復讐、兄との確執についての八つ当たりを企んでいた。もう一方の候補者フロローは手堅い政策を考えていたが、やや不利な状況であった。月の港に辿り着いたジロたちはフロローの選挙活動に手を貸す。しかし思うようにいかず、ついに選挙直前の舞踏会の日が訪れる。そこでも、エスメラルダは観衆の心を掴もうと動くが、激しい議論の末彼女は癇癪を起こす。彼女は古代兵器、浄化爆弾を使って脅迫を行う。だが結局、浄化爆弾はウルバンによって無力化され、彼女は候補者としての資格を失った。とはいえ、兄と和解し、お互いにより良い方向へと向かうことが出来た。司教選挙はフロローの勝利となり、エスメラルダの福祉策も考慮した改革を行うことになった。ジロたちは報酬を受け取り、そして探していた聖遺物の鏡を発見することが出来た。ウルバン、ウルリーケ、タナカとは別れることになり、それぞれの目標に向かって進むのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、ジロたちは鏡を調べていた。魔石の嵌まる窪みに魔法雑貨店で購入した魔石を嵌めてみたが、出力が足らずすぐに魔石は塵芥となってしまう。そもそも鏡を作動させたら何が起こるのかさえもさっぱりわからない。魔導具に詳しい人もいない。別れる前にウルバンとウルリーケにも確認してはいたのだが、彼らにも心得はなかった。しかし、唯一の手掛かりでもあるので、これにすがる他無かった。


「そもそも割れているのをどうにかしないとねぇ」


 ガラスの裏面を金属面にしたこの裏面鏡はこの世界ではまだ殆ど知られていない技術であるが、これが遥か昔に作られているとは驚異的であった。


「もっと都会に行けばなんとかなるかも知れない」


 ジロが呟く。月の港も大概都会ではあるのだが、それでも世界レベルで見るとまだまだである。西方世界の大都市と言えば旧帝国と現ロタール王国の首都『帝都』、ビザンチスタンの首都『イスタンティノープル』、エスベリア半島の大国アルダルスの首都、『クルトーバ』である。いずれもちょっと遠い。そもそもイスタンティノープルに行くのならウルバンたちに着いて行くべきであったが、今更言っても仕方がない事だろう。クルトーバは最も近いが陸路であり、山脈も通らねばならない。そうなると、帝都が候補になる。南東の港町から出港すれば早い、しかし結局それもウルバンたちと途中までは同じルートを辿ることになるので彼らと別れたのは失敗であった。


「じゃあ涙の別れとかいらなかったじゃん! もう!」


 ヘソを曲げるのはアカネであった。結果論に過ぎないので、やはり今更言っても詮無きことである。とにかく、彼らを追いかける形で一行は街を出発した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ゴート族領アクイテーヌ公国を南東に進めば、そこはオークの国である。オーク諸部族の連合である彼らは、イメージに反し意外と文明的な生活を営んでいる……血生臭い暴力的な風習は残っているが。数十年前はオークタニアという一つの国であったが、現在では二つに分裂。指導者たちの神龍教の派閥争いが原因である。魔法の使えないオークたちは傷病の治療を医薬品や手術に頼っていた。六十年前、癩病治療に大きな進展が起こり、病気の秘密の一部を解き明かした。これらのにより医療に対する信仰が生まれ、ついに首都ルグヨンにて新たなる医療を司る神龍が誕生した。これによりこの新しい『我々の神龍』を信仰する派閥が生まれ、従来の神龍教の教えを守ろうとする部族は、あ、このままいると血を見ることになるな、と判断し南に引っ越した。そして海沿いの神龍教の聖地、トゥーロ・マルテを首都とし新しく政府を立ち上げることになり、封建制度や科挙などの新しい制度を取り入れた国、セプティマーニュを興した。庶民たちは、同じ神龍教だというのに袂を分かつというのは不思議だ、と思いながらもこれを受け入れ、オークの国は北部のオークタニア、南部のセプティマーニュの二つに分かれたのであるが、この解説は前章とは違い本筋にはぜーんぜん関係ないのである。尺稼ぎか!


「オークの国かぁ〜」


 馬車を伴い歩きながらの昼食、腐りかけのソーセージを小麦粉を練って焼いただけのものに挟んだサンドウィッチみたいなのを齧りながら、アカネが言った。


「オークだからと悪い場所は限らんだろう」


 そう言いながら干し肉を噛みちぎっているジロを見て、彼女は溜め息をついた。


「まあ、確かにそうかも知れないけど、こっち日本じゃ評判悪いからさぁ」

「そっちにもオークがいるのか」

「いや、いないけど……」

「……オークはいないのにオークの評判が悪いのか」

「いやそうだよね、うん、普通に考えてそうだよね、そっちのが変だよね」


 こういう、見もしていないものに対する悪評は地球世界でも度々起こるし、現代に住む我々にも容易に起こり得る。ぶぶ漬けだの修羅の国だのグンマーだの翔んで○玉だのが『シオン賢者の議定書』となるにはそう労力や年月は必要ないので、我々は自身の価値観や良識を過信してはならないのである。いやそういう警鐘を鳴らす作品じゃないだろ。『のんきなエルフとくたびれオオカミ』は楽しいお話です!


「そういう偏見は良くないですよ、アカネさん。オークは臭くてキモくて最悪なだけです」

「少なくとも最悪なのはあんただよ……」


 いつも通り最悪なことを言うステラに、ジト目で返すアカネだった。

 しかし実際のところ、この世界においてもオークのイメージはそれほど良くはない。苛烈な実力主義社会で、男も女も成り上がれるが、実態は肉体的に強い男が多くの場合幅を利かせている。傷病者は手厚く保護されるが、怪我や病気をしたというわけでもない単に闘争心や向上心のない者たちにとっては非常に生きづらいマッチョな社会である。一目で重武装、強者、権力者、敬虔な信徒とわかる者でなければめちゃくちゃ舐められるので、周辺の他種族からはやはり野蛮な連中として扱われている。とはいえ実力を示すことが出来れば気の良い友人となることが出来る。要はすげー体育会系なのである……この話も本筋とあんまり関係がない。いい加減にしろよ。

 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 一行は道を進み、要塞のある小さな村に辿り着いた。この村に存在するジャルー要塞には周辺地域の治安を守る兵士が駐屯しているが、小さな農村には変わりない。しかし様子がおかしい、小さな村にしてはあまりにも賑わいすぎている。

 近寄ってみると、そこには見知った顔があった。


「あ、ウルバンさん、ウルリーケさん」

「やぁ、お前ら。早かったな」


 パーティーを離れ、先に出発していた二人である。早い再会になんだか若干バツが悪いような気がする一行であった。


「久しぶりだな、ジロ」

「ああ。息災のようだな」

「いやそんな感動の再会っぽい雰囲気出さなくていいよ……」


 ひしと抱き合うジロとウルバン。ジトッとした目でアカネがそれを眺める。


「で、何があったんだ」

「うむ、実はな……」


 ウルバンは事情を説明した。曰く、この村の付近にダンジョンが発生、そして魔力を噴出し続けており、近隣の魔物たちが凶暴化、街道の通行が大変危険なものになってしまったのだという。冒険者や行商、そして村にとっては稼ぎ時の為、この人だかりらしい。


「我輩たちだけでは危険なのでな。もしか、お前たちが来ると思って待っていたのだ。来なければその辺の冒険者に護衛を頼むところであった」

「なるほど」

「ダンジョンが活性化ですって!? 金のニオイがしますねぇ!」


 このような話にステラが飛びつかないはずもなく、鼻息を荒くして目を輝かせる。当然彼女には自分で稼ぐ実力も器量もないが、金儲けの匂いというのは彼女の原動力の一つなのだ。なんてやつだ。


「是非行きましょうジロさん! ダンジョン探索ですよ! 依頼ではないですから全部ポッケナイナイ出来ます!」


 囃し立てるステラに、やれやれといった表情を見せるジロ。


「ダメだ」

「えーっ! 良いって言う流れだったじゃないですかぁー!」

「でもジロさん、私もダンジョン行ってみたいな」

「私も」


 アカネとウルリーケが同意する。稀人である彼女らはダンジョンというものに興味があるようで、ワクワクした様子を隠せないでいた。


「そういう事なら、まあ」

「ジロさんは私以外に甘いんですぅ!」


 別段先を急ぐ必要もないので、結局ダンジョンに潜ってみようということになった。


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どうでもいい設定

 ある旅の道程

「旅の道程ってのは童貞の旅人って意味ではないのですよ! 全く、読者はすぐ下の方に繋げますね!」

 朝。日が昇るのと共に起床。みんなで顔を洗う。ベッドロールを片付ける。使い道があると屎尿を回収しようとするジロをアカネが怒る。

「ベッドロールというのは皮革で作ったデカくて硬い寝袋のようなものです。sk○rimとかやったことある人はわかると思いますがね! いいやつは背中が痛くならないそうですよ!」

 朝食はかってぇ黒パン、腐肉と魔物肉の混じったソーセージ。よく火を通して食べる。あまりにも塩辛いので水煮にして誤魔化す。玉ねぎと香辛料も入れる。犯人はウルリーケ、だって安かったから、などと供述。

「食事の味は極端です、保存性を高めるために濃すぎるか、材料をケチったために薄すぎるかです。アカネさんが食事当番の時はマシになりますけど」

 馬にも食事を与える。これが最も費用がかかる。篝火を消して出発。大雨でもない限り徒歩、荷台の中は狭いため。

「乗ってもいいですが、道が整備されていないので乗り心地は最悪です。吐くとジロさんに釣りの撒き餌に使われてしまいます」

 途中、食べれそうな動物や魔物、野草があれば狩猟・採集しておく。冒険者や行商に遭遇すれば物資の融通や取引を行う。

「人には滅多に遭遇しません。魔物はいっぱいいます」

 昼食は日によっては歩きながら食べる。朝食の残り。残りがなければ干し魔物肉や干し魚、果物や玉ねぎ、チーズを齧る。

「魔物でもやはり草食系のお肉が美味しいですね。次点で肉食、雑食は最悪です。果物はちょっとは甘いですが酸いものが多く、魚は川の状態によります。玉ねぎとチーズは安定して美味しいです」

 旅を再開。使い道があると屎尿を回収しようとするジロをアカネが怒る。途中で野盗に絡まれるが撃退。もちろん、野盗からは物資を頂戴するが、大したものを持っていないので野盗になるのであろう、戦利品は特になし。怒ったウルリーケが射的の的にしようとするのをアカネが制する。

「野盗は多くの場合、食い扶持に困った人や脛に傷を持つ人、脱走した兵士や奴隷です。北方では夏は農業、冬は賊、みたいな人たちもいます、彼らは半分軍人なので強敵です。封建・部族の社会を嫌う野良の魔族もいます。が、大概はダンジョンや森に籠もっています。善人か悪党かは人それぞれですかね」

 川を発見。綺麗なら水浴びや水の補給をする。あまりにも服が汚れている時は洗濯、通常は村や町で依頼する。魚がいれば釣りもする。アカネとウルリーケが恥ずかしがるので男女別。それに見張りも必要である。

「男性陣は堂々とし過ぎ、とお二人はよく言います。同感です。最近ようやくちゃんと隠してくれるようになりましたよ!」

 出発するのが面倒になり、この場で野営をすることに。馬に食事を与える。用事があれば済ませておく。その後、夕食の支度。かってぇ黒パンにチーズを乗せ炙る、野菜と干し肉を煮込んだシチューにはアーモンドミルクを入れる、塩や香辛料もちょっと多めに使う。デザートには果物。生かドライかはお好みで。

「夜はちょっと豪勢な食事です、そうでなくっちゃやってらんないですよ旅なんて!」

 朝と夕は食事が終われば歯磨き。東方から伝来した風習で、木の根などを煮て片側を潰し房状にした歯木または房楊枝と呼ばれるもので歯を磨く。歯磨き粉は塩に香辛料・ハーブを混ぜたものが存在するが、高価なので無し。日が落ちるまでは自由行動。本を読んだり武器の手入れをしたり酒を飲んだり人それぞれ。使い道があると屎尿を回収しようとするジロをアカネが怒る。

「全員お酒は好きですが、ウルバンさんが一番弱いですね、気付いたら寝ています。ウルリーケさんは酔いつぶれるまで飲みたがります。ジロさんとアカネさんは絡んでくるタイプです……酒が入ると私が一番常識人に……」

 日が落ちれば就寝。野営地から少し離れた所に屎尿を撒き、人間の存在をアピールする。魔物の縄張りの中に陣取らない限り、これは魔物よけになる。結界の魔導具も存在するが高価な割に屎尿ほど有効ではない。効果は一晩、朝までにスカベンジャー系の魔物が平らげてしまう。例外として人間の味を覚えた魔物は逆に引き寄せられるので注意。心配なら木の板や硬貨の入った袋や食器を紐で吊るした鳴子を仕掛けておく。

「程よくお酒が入って、あとは朝までぐっすりです……むにゃむにゃ……」


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