41.悪党どもの運命
「しかし、わざわざ私達を雇う必要なんてあったのかな」
「他所から来た冒険者なんて消耗品ですよ」
落ち着いたアカネはステラとの雑談で暇潰しをしていた。ジロはヴァレリーの上に立ち、衛兵たちが来るのを待っている。酒場にいたときに店主に通報するように頼んでいたのだという。ホントかぁ~?
「苦しぃ〜〜〜」
ヴァレリーが呻く。彼はロープで亀甲縛りにされていた。定番の縛り方である。
「普通に縛ってくれぇ〜〜」
「いいえ、辱めてやります!」
「じゃあせめて上に乗らないでぇ〜〜〜」
仕方なくジロが彼から降りたところで、イキャニがノソノソとやってきた。
「やっぱりこうなる運命だったのねん……」
「あ、出たねシェイプシフター! 早く私の姿を戻して!」
アカネはイキャニに詰め寄った。彼が呪文を解除すると、みるみるのうちにアカネの姿が元に戻っていった。
「はぁ、ねこちゃんもよかったけど、こっちの方がやっぱり落ち着く。それに私は犬派だしね」
「ヴァレリーは、少なくとも善人ではあったのねん。最初は些細な親切から始まったらしいのねん」
彼は、ヴァレリーについて語り始めた。曰く、ヴァレリーは憲兵隊隊員として仕事を全うしていたが、世の中の不条理さ、そして犯罪被害者の事は見向きもされないことに心を蝕まれていったのだという。そしてある日、被害者の記憶を奪い、それを大変感謝されたことから、ヴァレリーの中である種使命感と呼べるものが生まれたのである。この
「それでもヴァレリーは! 暴走することはなかったのねん! ……それがミーの知るヴァレリーの全てなのねん」
「今日の晩飯はステラの好きなものでいいぞ」
「いいんですか!? やったぁー!!」
「全然聞いてないのねん!?」
そうこうしているうちに、衛兵たちがやって来た。しかしながら少し様子が変わっており、緊張している様子である。
「魔王陛下の御成〜〜〜! あ、おなりと言ってもそーゆーいかがわしい意味ではないからね! いくら魔王様がサキュバスだからといってそんなことはしない、いいね? 皆のもの控えろ!」
「お前が一番控えろ!?」
現れたのは、魔王アドリーヌである。彼女はジロたちの動向を追っていたようで、衝突したという報せを受けすぐに駆け付けたのである。
「よくぞヴァレリーを捕らえてくれた、感謝する」
「感謝するぐらいなら報酬ください!」
「もちろんだとも。ジロ、望むなら私そのものを褒美に取らせてもいいぞ」
「なんか急にサキュバスっぽいこと言ってる!」
艷やかな視線で彼を見つめるアドリーヌ。ジロは困惑した。
「別にいらないです」
「そう堅い事を言うな。魔王である私を抱けるなど、そうそう無い機会だぞ?」
「別にいらないです」
「そう堅い事を言うな。魔王である私を抱けるなど、そうそう無い機会だぞ?」
「あ、これ、『はい』って言うまでループするやつじゃん」
そこへ、ヴァレリーが口を挟んだ。
「魔王、わからないのか、この国だけじゃない、浮世は不幸で溢れかえっている、それを癒やすことの何が罪か!」
「お前の言うことも尤もだ。だがそれは表面的な解決にしかならない。あと罪状は憲兵隊からの脱走だ」
「わかっている、けど、どうすればいい」
ヴァレリーは涙を流し、ジロは心の中でガッツポーズである。アドリーヌは返答する。
「お前ほど悲しみを知るものはなかなかいまい、そして強大な魔力を持つものをな。記憶を奪う能力は、文字通り記憶を奪い自分のものとする。お前の精神は最早破綻寸前だろう。そのような者を首輪をつけずに野放しには出来ぬのだ」
アドリーヌの言葉に、ヴァレリーは絶望したような表情を見せた。しかし、そこに救いの手が差し伸べられた。
「まぁ待て、ヴァレリーよ。お前はまだやり直せる。先にも行った通り、お前ほど悲しみを知るものはいない。官僚として働けば、きっとその想いを世のため人のために使えるはずだ」
「……本当に、いいのかい?」
「ああ、無論だ。お前は人を傷つける寸前で留まった」
「いや俺が躱せたってだけなんですけど」
「重い罰を与えるほどではないし、罰してその力を魔王国に向けられても困るからな。お前の悲しみの記憶は、社会福祉において大いに役に立つだろう」
不満げな顔をしているジロを余所に、ヴァレリーは感極まって泣き崩れた。
「うぅ、ありがとう、ございます、我が殿よ……!」
こうしてヴァレリーの処分は決まった。アドリーヌという魔王の懐はそこそこ深かったのである。後に彼の活躍により数多くの不幸が未然に防がれる事となるが、これは弱者を食い物にする悪党どもとの闘争をも意味したのであった、この物語にはぜーんぜん関係のない話ではあるが。
「ヴァレリー、良い方向に進めそうでよかったのねん……!」
「イキャニ、貴様は魔法で他人に危害を加えたので禁固刑だ」
「えっ……!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
報酬の件は後日ということで、とりあえず酒場に行くことにしたジロたち一行。そこには議論を交わすウルバンとウルリーケがいた。
「我輩の見立てではそう難しいものではない、その火薬とやらは量産可能だ」
「そうは言ってもねぇ。高度な社会システムが必要なんだよ、そういうのには」
「なんかめちゃくちゃ仲良くなってる!」
「戻ったか三人とも。ヴァレリーはどうなった?」
ジロたちは二人に事の顛末を説明した。ステラは自分の活躍をかなり盛っていたが、あまり相手にはされなかった。
「ううむ、まあいい落とし所だとは思うがね」
「はぁ、結局そうなるか。平等な世の中ってのはなかなか来ないもんだね」
ウルリーケはテーブルに突っ伏す。ウルバンはそれを見てやれやれといった表情である。
「ビザンチスタンに来るが良い。個人で細々とやるより強大な帝国の方が影響力がある。それにお前のような技術者ならば歓迎されるであろう」
「そうだといいんだけど……まぁ、やることもないしそうしてみるか」
ウルバンとウルリーケの二人も次なる目標が決まったようだ。
「よし、これで万事が丸く収まりましたね! 早速酒を飲みましょう!」
ステラが店主に酒を注文すると、水瓶に入れられたワインが運ばれてきた。彼女はそれを受け取ると、そのまま口をつけ一気に飲み干してしまった。
「ぷはっ! んまっ! みなさんも飲んでくださいね!」
彼女は、呆れたような視線には全く気が付かず、上機嫌であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一行は酒場で飲んだくれた……正確にはステラだけであるが。彼女以外は吟遊詩人の唄とステラの騒いでいる様子を肴にちびちびと酒を飲んでいた。ステラは一人でベラベラと喋っているが、誰も気にかけていない。
「ねえ、ジロさんにも嫌な記憶ってあるんだね」
酔いが回り、頬を紅潮させたアカネはジロにそう話しかけた。
「色々あるものさ」
ジロも少し酔っているのか、いつもより柔らかい口調になっている。
「それってさ、話せる?」
「楽しい話じゃない」
「それでも聞きたいな、ジロさんのこともっと知りたいもん」
「……ありきたりな話だ」
そう言って、ジロが語ろうとしたところに、ウルバンの声が聞こえてきた。
「我輩は妹と共にビザンチスタンに逃げてな。間に子供も生まれたが……」
「はぁ!?」
話を聞いていたウルリーケは驚きのあまり思わず声を上げてしまった。当然、アカネとジロも目を丸くしている。
「ちょっとお前、どういうわけだ?」
今にも胸ぐらを掴みそうな形相でウルリーケが問いただす。
「我輩としても驚いている。エルフの里は獣人には厳しかったからな、確かに妹を第一に考えて生きてきたがそれほどまでに彼女が我輩に深い執着を持っていたとは思わなんだ」
「……無理矢理ではないってこと?」
「どちらかと言えば我輩は襲われた側だな」
「そう、ならいい、のか……?」
インパクトのある話に場は沈黙してしまった。とても過去を話すような雰囲気にはなれず、結局今回も明らかになることはなかったのである。
「まあ、ジロさん、また今度聞かせてね」
「機会があればな」
ジロはそう言って、再び酒を煽った。その横顔は結構しょんぼりげであったという……。
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