34.出ちゃった……♡
「ガツガツムシャムシャ! ガツガツムシャムシャ!」
パリシイの中洲に浮く宮廷、テーブル上の食べ物をすべて食らい尽くす勢いでステラが料理を貪っていた。彼女は口の周りをソースでべたべたにしながら、幸せそうな表情を浮かべている。また、魔王アドリーヌも食事にガッツいてた。
「ガツガツムシャムシャ! ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ?」
「ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ」
「咀嚼音で会話しないでお行儀悪いよ!」
二人の様子にアカネは呆れた様子で注意した。しかし、ステラとアドリーヌの食欲は全く収まる気配を見せない。彼女たちはまるで飢えた獣のように料理を食べ続けていた。ジロはそんな様子を暖かい目で見ている。
「いいじゃないか、こんなに美味い食事だ」
「もう、ジロさんが甘やかすから」
南方にあるロタール王国から雇われた白毛の狐獣人種のシェフ(巨乳)が作る料理は絶品だった。市井や道中で食べたなんらかのローストやなんらか焼き、なんらかのごった煮スープとは大違いである。西方世界の中心地であるロタール王国で料理を学んだ彼女(巨乳)の腕は本物であった。とはいえ、アカネからすれば日本のファミレスの安いランチの方が美味しいのだが、そんな彼女にしてみてもこれまでこの世界で食べたものの中(もちろん、ドーンシャーラーメンといももちは別として)では群を抜いて美味しいと感じていた。シェフ(巨乳)は彼らの様子を見ると、嬉しそうに口を開いた。
「お楽しみいただけたようで光栄なんだけどマジで〜♪」
「喋り方チャラい!」
「まあね♪ アタシってばこの喋り方が気に入ってるからね〜」
「そうなんだ……」
シェフの女性(巨乳)は自分の話し方について褒められたと思い、嬉しそうな表情を浮かべた。
「料理の腕もいいのに性格も良い、彼女は魔王国の宝だ」
「アドっちってば超褒めるじゃん! あんがと〜!」
彼女(巨乳)はそう言ってアドリーヌに抱きついた。どうやら二人は親しい間柄のようだ。
「それで、俺たちに食事をご馳走するためだけに呼んだわけじゃないんだろ」
アーモンドのポタージュを啜りつつ、ジロはアドリーヌに尋ねた。
「うむ。ちんちんを……じゃないっ、この魔王国で暗躍する者がいる」
深刻な表情で語る彼女曰く、近年になって強大な力を持った魔人の男が現れたのだという。魔人というのはエルフに角や尻尾が生えたような見た目をしており、他者の感情を吸収し力を増加させる能力を持つ。人々の善性、勇気や親愛、性愛などを吸収するのが淫魔(サキュバス・インキュバス)と称され、人々の悪性、怒り、悲しみ、苦悩や強い欲望などを吸収するのが悪魔と称されている。その男は悪魔であった。現在の魔王国では他者の感情を吸収し強くなるのは軍や警察組織に限られ、無許可の感情の吸収は取り締まりの対象となっている。
「それならしょっ引けばいいじゃないですか」
ステラがそう尋ねると、アドリーヌは首を横に振って答えた。
「そいつは、元だが、しょっ引く側の人間なのだ」
元々は警察組織、魔王国王立国家憲兵に所属していた。その時に、自身の特殊な才能に気が付いたのだという。
「善良な男だったという報告だが、そいつは突如憲兵隊を脱走した。瞬く間に行方をくらましたその数ヶ月後、膨大な魔力を持つ男が目撃されるようになったのだ」
ある時は街で買い物を、ある時は田舎の農村で見捨てられた老婆の介護を、またある時は川で溺れていたところを子どもたちに助けられていたり、様々なところでその男を見たという証言があった。
「悪い奴ではなさそうな感じだね」
「だが、脱走は罪だ。憲兵を辞めるなら然るべき手続きを取らねばならん」
「なるほど」
「その男の名はヴァレリー。私は奴が大規模な混乱を起こす前に捕縛したいと考えている」
強大な魔力を持った者が野放しにされれば、実力主義社会の魔王国ではそれに続く者が多数現れるだろう。それは、西方世界全土を巻き込んだ新たな動乱の兆しとなりかねない。
「ログレスを救ったように、我々の国も救っていただきたい」
アドリーヌは席を立つと、深々と頭を下げた。それを見たジロも席を立ち、彼女に駆け寄ろうとする。しかし、躓いてバランスを崩してしまい、彼女に覆い被さるように倒れてしまった。
「きゃっ」
「!」
そして、二人の顔と顔が僅かな距離で向き合う。
「あわわっ」
「あっ、す、すまない、いや、申し訳ありません陛下っ!」
ジロは慌てて立ち上がると、顔を真っ赤にしながら謝罪した。アドリーヌは頰を染めて目を潤ませながら、ジロを見つめている。
「あの、これは事故でして、決してわざとではなくてですね」
「……そ、そうか……事故なら仕方ないな……それに、私もそこまで気にしてはいないぞ……ドキドキ、したけどな……」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。その様子を見たアカネは思わず声を上げる。
「唐突にラブコメ始めないでよ!? ついていけないよ!」
「あ……淫紋が出てしまった……」
「淫紋出ちゃったの!?」
皆はアドリーヌのお腹辺りに注目したが、特に変わった様子はない。ハート型のような不思議な紋章が浮き出たのは彼女の手の甲であった。グッと体の前で腕を交差させるポーズを取りこれみよがしに見せつけると、ステラは目を輝かせた。
「か、カッケェ……!」
「だろ?」
「結局淫紋って何なの……」
展開についていけないアカネは呆れた様子で呟いた。そんな中、ジロは咳払いをすると真面目な表情に戻り話し始める。
「…… 話を戻すか」
「ああ、そうだな」
アドリーヌも表情を引き締めると頷いた。
「ヴァレリーの件については了解しました。我々にお任せください」
「よろしく頼む」
かくして一行はまたしても厄介事を抱えてしまったのであった……!
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