33.この頃流行りの女魔王


 さて、街の問題をいくつか解決したログレスの英雄の噂は、魔王国の首都パリシイにも届いていた。

 

「あのクソシャルルを倒したんだと」

「機転で市長を救ったらしい、頭もいいんだな」

「しかもアレがデカいらしいぜ!」

「ご、ゴクリ……俺も見てみたいぜ……」


 かなり尾ひれが付いて広まっているようだった。尾というより前についてそうなひれである。そしてその事は魔王の耳にも入っていた。

 

「ちんちんがでっかいだと!? いや、ちんちんはどうでもいいんだ。ログレスの英雄だと!?」

「ええ、街を救って回っているようですな」

「ちんちん、いや、その英雄なら、我が国の問題も解決できるやもしれん。勇者軍も遥か昔、今や魔王国に気骨のある者はいない。誰もが金、金、金だ」

「その通りでございます。魔族の風上にもおけません」

「して、そのちんちん、いや英雄はどこに向かっている」

「はい、どうやら我が国の南西部を目指しておるようで」

「ではそれとなくこの首都に誘導しろ」

「ガッテン承知の助ぇ!」

「お前、なんだ急に……」


 ジロたちを取り巻く運命の歯車とかそういった類のものがゆっくりと動き始めた。ていうか君ら、アカネの見た変な夢の中の住人じゃなかったんだ。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 一方、ちんちんがでっかいやつ一行

 

「酷い呼び方はやめろ」


 ……ジロたち一行はサマロミアンの街を出発し、南に進んでいた。歩きながら、アカネは地図をチェックする。

 

「すぐ近くに首都のパリシイがあるみたいだよ。数日の距離」

「それぐらいなら寄らなくてもよさそうだな」

「えー、でも街の様子見てみたいよー! せっかくだから寄って行こうよー!」

「その通りダネ。寄って行ったほうがいいヨっ!」

「誰だお前は」


 見知らぬおっさんが会話に割り込んできた。ハゲ散らかしたいかにもなおっさんである。

 

「見ての通りおじさんは通りすがりのおじさんダヨ☆」

「そうか。じゃあな」


 ジロたちは再び歩き出したが、おじさんは再びジロたちの前に回り込んだ。

 

「なんなんだ一体?」

「君たち、もしかしてこれからパリシイに行くんじゃないカナ? それならボクも一緒に連れて行ってくれないカナー?」

「え、嫌」

「パリシイには寄らないしな」

「そう言わないでヨー! 旅は道連れっていうじゃないカー!」


 おじさんのような喋り方だが、都合上絵文字が使えない為に殺人ピエロのような喋り方にも感じられてしまう。一行は恐怖を感じた。

 

「すみません、先を急いでるんで」


 ジロは軽く会釈をして、また歩き出す。

 

「待ってヨォ! 一緒に行くからサァ!」

「しつこい奴だな」

「いえ、待ってくださいお二人とも」


 ステラが二人を呼び止めた。


「どうした」

「最近私の出番少なくないですか?」

「そうだけど後にしてくれその話は」

「ヒロインは私なのに、最近はアカネさんばっかりじゃないですか。それなのにおじさんまで加入したら私のヒロインとしての座が危ういです!」

「おじさんはサブヒロイン扱いなんだ……」


 彼女は最近の待遇に不満を覚えていたようだ。

 

「それに私もそろそろ活躍したいんです! ほら、私だって可愛いですし、おっぱい大きいですよ!?」

そう言ってステラは自分の胸をアピールするが、それは服の上からでも分かるほど平坦であった。

「……そうか」

「そうだね……」


 二人は生暖かい目線を彼女に向ける。


「ちょっとなんですかその目は! 私は真面目に言ってるんですよ! ……ホントは自分の胸が小さいことなんてわかってますがねぇーっ!」

「今度ジロさんと一緒に揉んであげるから、早く行こう」

「いいんですか? やったぁー! いえ、恥ずかしいので遠慮しておきます」


 こうして三人は新たな仲間を加えて、さらにパリシイの街に向かうことになった……。


「いやちょっと待った! 仲間に加えないよこんなおじさん!」

「ひどいナッ! ボクの何がいけないんダイ!?」

「存在」

「ひ、ひどい……」


 その後、おじさんがあまりにも駄々をこねて泣きわめくので、渋々、嫌々ながらも、ジロたちはおじさんと共にパリシイを目指すことにしたのだった。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 


 数日後のパリシイの街の北門では、門番が今日も街の平和を守っていた。


「ふわぁ~あ。幹部が点検しろしろってうるさいから一回りしてみるとするか」


 彼はあくびをしながら、門に不審な物がないか確認していた。街の住人が馬車に火をつけて回っている。


「異常ねえや」

「異常しか無いよ!?」


 丁度良く辿り着いたアカネがツッコミを入れる。


「やあ、いい時期に来たねお嬢ちゃん。知らないの? 年の瀬は馬車焼きの季節なんだよ!」

「ば、蛮族……」


 街中が大騒ぎで、燃え盛る馬車の数々は空を真っ赤に染め、さながら大火のようであった。


「馬車だー! 焼くぞー!」

「馬車焼きだ馬車焼きだー!」

「馬車だぞ! 馬車だぞ! 我が王国をやろう!」


 リチャード三世みたいな人も混じっていた。馬は安全な場所に繋がれているし、騒ぎに参加しない住民は普通に歩いているだけなので、やはり年末の風物詩なのだろう。地上の煉獄か?


「お騒がせして申し訳ないな」


 門前で呆然としているジロたち一行の面前に、突然現れたのは妖艶なサキュバス然とした女性であった。背丈は低いがスタイルは良く、服装は黒を基調としたセクシーなもので、ちょっとこの季節に着るのは苦痛を伴いそうなものであった。


「すごく寒そう……」


 そうアカネが言うように、彼女の格好はとても薄着であり、露出度が高いため見ている方が寒くなってくる。しかし、本人は全く意に介していない様子である。


「これも神龍教直伝のあったか魔法のおかげだ。お前も使っていよう」

「そうだったぁ」


 つまり今まで寒そうな描写がなかったのはカーレスターでアカネが司祭からあったか魔法を教わっていたからである。決して描写を忘れていたわけではない。本当である。


「案内役を送っておいたが、彼はどこに行った」

「おじさんなら、コボルトポリスに連れて行かれましたよ!」


 その疑問にはステラが答えた。コボルトポリスいぬのおまわりさんとは、正義感が強くなぜか住む地域の司法に詳しいコボルト系の魔物である。法を乱した者や不審人物を勝手に捕まえて私刑にするため、当地の治安当局からはあまり好まれてはいないが、一般住民たちからは益獣として扱われている。


「なるほど、なら問題ないな」

「いや問題しかないでしょ!? 一応関係者なんだよね!?」

「あいつはハゲ散らかしてるし喋り方もキモかったからいいんだ……」

「そうなんだ……」

「ところでお前さんは何者なんだ」


 ジロが尋ねると、彼女は不敵な笑みを浮かべてこう答える。


「私こそが、サキュバスの長にして魔王国の君主、尊厳者アドリーヌである」


 魔王、尊厳者アドリーヌ。渾名は『搾精以外何でも出来るサキュバス』。実力主義の魔族の中で、本当に実力のみでのし上がった英雄であった。彼女はサキュバスでありながら処女でもあった……最近ありふれすぎて食傷気味のやつである。


「夢に出てきた変な人だ!」


 アカネは夢の中で見た人だと思い出したようだ。


「その通り、サキュバスの魔術により淫夢を貴様に見せていたのだ」

「淫夢ではなかったけどね……てかあんな場面見せられてどうしろと?」

「で、魔王が何の用なんだ」


 ジロが腰の刀に手をやりつつ尋ねた。


「お前たちがちんちん……いや、ログレスを救った英雄だという情報は掴んでいる」

「……それで?」

「ちんちん……いや、我が国も大きな問題を抱えていてな」

「街の人が年末に街中で馬車焼いたりとかですか?」

「いや、まあ、それもなんだが。とにかく、一度ちんちん見せ……王宮にまで来ていただきたい」

「……どうする」


 ジロは少し考えた後、仲間たちにも振った。


「お風呂ある?」

「あるぞ」

「タダですか?」

「無論、依頼を解決してくれれば報奨金もやる」

「ベッドは」

「エルフ製の最高級の羽毛布団を用意しよう」

「ご飯は?」

「美味いと評判のシェフは掃いて捨てるほどいる」

「よし、決まりですね!」


 ということで一行は魔王に連れられ王宮へと向かうことにした。現金な連中であった。

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