魔王国で乱痴気騒ぎの章
28.新たなる航路(爆発)
前章のあらすじ
俺、ステラは、愛する人を裏切った……なんのことはない、単なる浮気さ。出来心だった、という言い訳さえも恥ずかしいぐらいだ。ジロ子が命をかけて魔物退治に励んでる間に、ギルドの受付嬢、ジロ絵と寝た。それを誰かに見られてたんだ。ジロ子は泣きながら俺に別れを告げた。そしてジロ絵も、トラブルを起こした受付嬢として別の部署へと転勤になった。友人たちとも疎遠になり、俺の傍には何も残らなかった。
「あ、ステラ先輩! また一人で黄昏れてる!」
あれから五年、こんな俺を慕ってくれているらしい、後輩みたいなものが出来た。それが彼女、ジロ美だ。
「纏わり付くのはやめろ、俺みたいなクズと一緒にいると、お前の評判にも関わる」
そう、俺はこのギルドの嫌われ者だ。あんなことを起こしちまったから、財産は全部ジロ子にあげた。結果としてこの地を離れることも出来ず、評判のせいで誰も組んでくれる人間はいない、ずっと一人で依頼をこなしていた。気がつけば腕利きの冒険者になっていた。若い冒険者たちは俺の腕を見て一度は話しかけてくれるが、俺の過去を知るとみんな離れていった。だが、このジロ美だけは俺の傍から離れていかなかった。
「昔の事だよね? 今はどうなの?」
「あれ以来、誰ともそういう関係にはなってねえよ」
俺は人間関係に奥手になっていた。おかしいよな、俺が撒いた種だってのに。彼女は、明らかに俺に好意を持っていた。彼女はたまたまダンジョンで死にそうになっていたのを救ったのが出会いだ。その恩義を、きっと恋愛感情と勘違いしている。
ある時、街でジロ子とばったり出くわした。隣には見知らぬ男が立っている。
「よぉ、五年ぶりだな……」
「……元気では、なさそうね」
「そいつは、新しい男か」
「ええ、アーカードっていうの。今度結婚するわ」
ジロ子は、伏し目がちに喋る。気まずいのは間違いないが、そんなにバツが悪いとでも言うつもりなのか。見かねたのか、その男、アーカードは口を開いた。
「今回の偽あらすじ、長過ぎるよ」
「もうちょいで終わりますから」
「早くしてよね」
ジロ子は俺がいなくても、幸せになっている。ずっと躓いたままなのは俺だけだ。こんなに惨めな事はない。その日は酒場に籠もり切りだった。
「身体に悪いよ」
ジョッキを取り上げるのはジロ美だ。懲りもせず俺につき纏う。
「ねぇ、もういいんじゃない」
「何がだ」
「幸せになっても」
これだから苦手だ、俺の言って欲しい言葉を言う。だが俺は許されない事をした、だから、幸せになんかなれない。
「そんな昔のこと、たかが浮気だよ? 婚約してたわけでもないんだよ!? 五年間も孤独に苦しんで、それでもまだ許されないっていうの!?」
「お、おい……」
「幸せになって欲しいよ! 命の恩人に! 私の、大好きな人に!」
ジロ美は、泣きながら俺に縋り付く。
「幸せになろうよ! 私が、一緒になるから!」
ジロ美……彼女は、俺のことを、本当に……だ、だったら……!
「い……いいのか、俺、幸せになっても……俺は、幸せになってもいいのかなぁ!?」
「だめ」
「ぬほっ! キビシ~~~~~!!!」
本当の前章のあらすじ
アカネを加えた一行は新たなる旅路に出ることとなる。先立つものはやはり金であり、高額報酬の怪物退治に向かうこととなった。その道中、アカネは心中を吐露し、ジロはデスモモンガに齧られ、ワーモモンガ症になってしまう。最寄りの街、ノースロウ国のカーレスターという街に急いで向かうも、街には悪いドラゴンが現れていた。ジロは右腕を失うがドラゴンを倒し、ワーモモンガ症の治療も出来た。ステラとアカネは元の任務であった怪物退治に向かう。右腕の再生のために、街の司祭は自身の祖母であり、稀人でもあるケモナー経産婦JCババア、キョーコを呼び出す。彼女の持ってきた薬により無事にジロの右腕は生えてきた。彼女は同じく稀人であるアカネに、元の世界に戻るための情報を与え、一行はとりあえずそれを探そうという流れになった。
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別に故郷に帰りたくはなくとも、目標ができるというのは良いことだとアカネは考えていた。なにせ、ジロとステラの二人は目的意識がなければ金が無くなるまで自堕落な生活を送ってしまうためである。カーレスターの街を発ち、船旅で再び大陸へと戻ることになった。港町で海の荒くれ者たちが船を出してくれるという。
「ヒャッハー! 俺達は荒くれ者だぜぇー!」
「自分で荒くれ者って名乗る荒くれ者は初めて見た」
「まあ良いじゃねぇか、行くぜ野郎どもぉ!」
「おおっ!」
彼らは海に出るなり、巨大な魚を釣り上げてはそれを丸焼きにして食べていた。なんともワイルドである。
「げひゃひゃ! 荒くれ過ぎて一人海に落ちちまったぜ!」
「ヒャッハー! マスト折れちまったぜ!」
「荒くれ者ってそういうことじゃないでしょ!?」
「いや、そういうもんだぜ? 俺達は昔からこうさぁ!」
アカネはなんだか恐ろしくなってきた。この船、無事に大陸に辿り着くのであろうか?
「ね、ねえ、ジロさ、ゲロ臭っ」
「……」
「うぅ……」
ジロはというと、ステラの吐瀉物を引っ被っていた。すごく辛そうな顔をしている。ステラも甲板に横たわり、ぐったりしていた。彼女は船酔いするタイプだったのだ。そして、そんな三人を他所に船は進む。
「おい、お前ら大丈夫か?」
「み……水……水を……」
「ほれ、これでも飲んでろ」
そう言って船乗りの一人が水をくれた。ステラはそれを口に含むと噴き出した。
「ぶべっ!! しょっぱ!!!」
「おっと、荒くれ過ぎて海水を間違って持ってきちまったぜ」
「荒くれは免罪符ではないよ!」
どうやら乗る船を間違えたようである。このままでは海底に辿り着くのは目に見えているが、海のど真ん中ではどうすることもできない。
「こ、この程度の障害じゃあ私の旅は止められないし!」
とりあえず、アカネは気合を入れることで現実逃避を図る。しかし。
「ヒャッハー! 荒くれ過ぎて船の自爆スイッチ押しちまったぜぇー!」
次の瞬間、船は爆発した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アカネが目を覚ますと、そこはどこかの砂浜であった。
「……いつも、いつも、いつもいつも、何かが行く手を遮る」
ボヤきながら体を起こすと、傍らにはステラの姿があった。彼女は意識を失っている。衣服はボロボロになっており、半裸に近い状態であった。しかしちゃんと手で局部を隠している。
「器用な気絶だ……」
「そうだな」
声の方向を見ると、そこにはジロがいた。彼もまたボロボロの姿で、毛皮がズブ濡れで肌に張り付いているためいつもよりほっそりとしていた。両手で乳首を隠している。
「ジロさんはもっと隠すべきところがあるでしょ」
「……手じゃ隠しきれない」
「そんなバ……大きいねぇ!?」
ナニかの大きさはともかくとして、三人は無事助かったようだ。辺りには残骸だけが散らばっており、船が見当たらないことから、きっとあの爆発で沈んだのだろう。そう結論付けて、アカネは空を見上げる。日はまだ高く、空は晴れ渡っている。
「私、ぜってぇーめげないからね!」
とりあえず、体を冷やさないように服を脱いで干すことにした。周りに他人はいないし、気にしても仕方がないことなので、堂々と裸ん坊になる。魔法で火を起こし、ステラと衣服を火の近くに置く。ジロは火の近くでブルブルと震えている。獣人の毛皮は寒さに強いが、一度毛皮の奥深くまで濡れてしまえば体は急速に冷えてしまう。いつものように身体を拭くものがあればよいが、海の藻屑となってしまった。
「大丈夫?」
「ああ……」
「本当に?」
「……本当」
明らかに痩せ我慢である。怪我したりなんたりで最近いいところがないのを気にしているのだ。彼は彼なりに頑張っているのだが、その頑張りは空回り気味なのだ。
「……犬みたいにさ、体をブルブルってするのは?」
「やだ」
「どうして」
「恥ずかしい」
獣人は、こういった動物のような行動、獣性を嫌う民族が多い。彼の人種、扶桑の民もその例に漏れないためジロは躊躇しているのである。
「恥ずかしいのと死ぬの、どっちがマシなの」
「……」
観念したのかジロは立ち上がると、遠くまで歩いていき、そこで思い切り身震いをした。砂埃が舞い上がるほどの勢いだった。それから戻ってきたジロの顔は心なしかスッキリとしたものであった。
「どうだった?」
「マシにはなった」
そうこうしているうちに、ステラが目を覚ます。
「……はっ!? 今、すごくいいところを見逃しませんでしたか!?」
「なんの話?」
アカネは知らないフリをしてすっとぼけた。ステラは何か言おうとするが、結局何も言わずに口をつぐんだ。辺りを探ると、最低限の自分たちの荷物だけは回収でき、その後はしばらく三人で火を囲んでいた。すると遠くから何やら声が聞こえてきた。
「おーーーい! おーーーーーい!」
「他に生存者がいたのかな」
声の方を見ると、巨大なクジラのような魔物がいた。腕と足が生えている。体表に、無数の人間の顔が浮き出ており、その顔は苦悶の表情に満ちていた。
「おーいおいおい!!」
「泣いてるだけか」
「こんなんなっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うるさ……」
クジラの魔物は何らかの疾病に罹患しているようである。おそらく病気であろう。それが理由でこのような姿になってしまったのだと思われる。しかしながら、三人とも漂着したてでテンションが低いため、どうでも良いような態度であった。
「なんか言ってよぉぉぉぉ!!!」
「えーと……元気出して」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん! 痒いよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「わかったから落ち着いて……」
「はい」
「うわぁっ!? 急に落ち着いた!?」
クジラの魔物は落ち着くと、語り始めた。合コンをセッティングしたはいいが、女性の人数が三人足りないのだという。ちなみに皮膚の疾病はアレルギー性皮膚炎であるらしい。
「そんな人面瘡みたいなアトピー大変だね……ていうか合コン? 先に人数揃えなよ……」
「そういう時だって、あるじゃないかぁぁぁぁぁ!!」
泣き喚くクジラの魔物を前に三人は途方に暮れてしまった。このまま放置しても良いが、なんとなく後味が悪いので、とりあえずアカネは二人に判断を仰ぐことにした。
「……どうする、二人とも」
「行くに決まってるじゃないですか」
ステラはいつの間にかゆるふわコーデに着替え、いつでも行けるという姿勢を取っていた。
「やる気満々じゃん!? その服どっから持ってきたの!? あ、でも、どうせ女の子一人足りないじゃん」
「問題ないよ」
そう言ったのはジロである。彼もいつの間にやら女装していた。なんか女声で喋っている。そして、妙に様になっているのがアカネを苛立たせた。
「あたいに任せておきな」
「ジロさんそういうキャラで行くんだ……」
「トモエと呼びな」
ジロ改め、トモエはウインクしながら人差し指でアカネを指し示した。どうやら完全に役になりきるつもりらしい。
「役者は揃いましたね」
「これでなんとかなるよぉぉぉぉぉぉ!!」
「……果たしてこんな事をしている場合なのかな!?」
疑問を呈するアカネを置いてけぼりにし、『のんきなエルフとくたびれオオカミ -無限合コン編-』が今始まる!
「始まらなくていいよ!」
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