第14話 オルエイに来た理由
「そういえば、皆はどうしてオルエイに?」
男子四人、女子四人で魔獣狩りへと向かっている最中に、俺は皆に向かってそう質問を投げかけた。
国内で一番の高等学校だったから受けたと言われればそれまでだが、俺は皆の志望動機が気になった。
質問に最初に答えたのは以外にも子爵の位を持つローズマリーだった。
「わたくしは親に受けろと言われたからですわ。この弱肉強食である魔族社会にて貴族は、強者でならなくてはなりませんの。その指標の一つとしてオルエイ高等学校を卒業したかどうかが鍵になりますので、貴族はオルエイを受けるのは当たり前のことですの。」
彼女がそう説明すると、他のメンバーはへえ、と興味深そうにその話を聞いていた。
オルエイ高等学校には貴族が多い。
巷では有名な話だ。
その理由は、単に貴族は遺伝子的に優秀な人が多いからだと思っていたが、実はもっと裏で色々ありそうだ。
「まっ、皆さんと比べてつまらない動機なので、誇れることではありませんが。」
そうやって彼女は自虐的に笑った。
ローズマリーの様子を見たヨロが珍しく質問をする。
「あ、ああの、よく考えたら、ぼぼくたち、普通にため口で、ははなしていますが、敬語で話したほうがいいんですか?」
相変わらず緊張していた。
でも質問を聞いて確かに、と思った。
普通に同級生だから溜口で喋ってたが、貴族相手にそれってどうなんだ?
というか貴族と面識がないし、あったこともないからそこら辺の感覚がわからない。
敬語で喋ったほうがいいのだろうか。
ローズマリーは質問に答える。
「それは大丈夫ですわ。身分とは強さ。わたくしと同じクラスであるあなた方は、わたくしと同格。改まる必要なんてありませんので、是非溜口でお話しください。もしオルエイ以外の魔族がそんなことをしたら、その瞬間捻りつぶしますが。
物騒な貴族様だ。
ナルキは独り言をこぼした。
「貴族って大変だなぁ~」
そう笑う彼が、ローズマリーに対して冷たい視線を向けていることを俺は知っている。
ナルキと初めて喋ったとき、彼は貴族と昔ひと悶着あったと言っていた。
そのことが関係しているのだろうか。
様子を見るに、流石にローズマリーがそのひと悶着あった貴族と関係があるわけではないと思うが、彼が貴族自体をそこまで快く思っていないのは知っているので、彼女に気を許すことは多分ないだろうなと予想する。
ローズマリーは自分の話題が終えると、エリーゼに話を振った。
「エリーゼは、どうしてここへ来たのですか?」
「え? 私?」
「はい。」
エリーゼは一瞬黙って何かを考えるようにしてから言った。
「あたしは、自分の能力と照らし合わせてって感じかな。高等学校への進学はしたかったし、自分が優秀な生徒だと思ってたから挑戦っていう形で受けたの。まさか受かってるとは夢にも思わなかったけどね。」
凄いな、余程自分に自信があったんだ。
俺が中等学校の頃は、進学は視野には入れていたが、まさかオルエイを受けようなんて思わなかった。自分だとあまりにも場違いだと思っていたからだ。
挑戦校って形でもオルエイの受験を考えていただけで、俺との差を感じる。
「あ、あたしの動機なんてつまんないでしょ? 別になにか思いがあって受けたわけじゃないし、それよりもあたしはノエルの話を聞きたいな。」
彼女は自分の志望理由を恥ずかしがり始めて、逃げるようにすぐ他の人へ話題を振った。
別にそんな恥じることでもなかろうに。
次に、話が回ってきたノエルはゆっくりと喋りだす。
「私は~、ご飯?」
「「「ご飯?」」」
俺とナルキとエリーゼの言葉がたまたま被った。
予想外の理由に驚愕したのだ。
志望動機にご飯ってなんなんだ? そんなん聞いたことがない。
ノエルは説明を付け足すように話す。
「いや、ね? ここの学食って食べ放題なの。 つまりいくらでもご飯を食べられる。最高じゃん!」
「え? それで受験したの?」
エリーゼが信じられないような表情をしながらノエルに聞くと、普通に頷いた。
彼女以外の七人はお互いを見つめ合う。
誰一人として彼女の事を理解できていなかった。
俺はノエルに質問を飛ばした。
「初代の試練はどう乗り越えたんだよ。」
「ん? 初代の試練ってあれだよね? なんじ、何を求めるって聞いてくるやつ。普通に食べ物の事考えながら歩いてたら突破できたよ。」
「ええ・・・噓だろ。」
皆の顔を見ると、まるで化け物を見たかのように恐怖していた。
俺も同じ気持ちだ。
初代の試練を突破したからわかるこの異常さ。
食べ物の為に受験を突破したっていうのは、理解はしたくないが百歩譲ってまだわかる。
だが初代の試練を食欲の為に超えることなんてできるのだろうか?
ナルキなんて、一時間近くかかったんだぞ?
しかも、飯の為に受験して受かったというのに、今現在飯を食えないという皮肉。
「俺、久々にとんでもない物を見た気がする。」
「あたしも。」
なんか、ノエルが少しミナクールに見えてき始めた。
いや、こんな変態ナルシストと比べられるのはさぞ屈辱だろうが、だが同じような人種な気がしてたまらない。
「なに? 私そんな変なこと言った?」
彼女がキョトンとしてそんなこと言い出すので、俺は心の中でうんと頷いた。
他の皆も同じ気持ちだろう。
とりあえず、この食欲の化け物は置いておいて、次へと質問を投げる。
「じゃあ、シアは?」
「ん~私か~。エスタは何だと思う? 私の志望動機。」
何故か質問を返されてしまった。
そんなの俺が知るわけないじゃないか。
わからないので、適当にありきたりな答えを返した。
「将来いい仕事に就けるから、とか?」
すると、彼女は首をかしげながら、言った。
「どうだったっけな~。決めたときはそんな理由だった気がする。もうあんまり覚えてないや。」
いや覚えてないって、どうゆうことだよ。
まだ入学初日だし、流石に覚えてるだろ。
数年後ならまだともかく、数日前まで受験生じゃなかったのかよ。
俺が呆れたように彼女を見つめていると、シアはサッと視線を外した。
そしてさもなかったかのように会話を流す。
「女子は終わったから、次は男子の番だね。」
「自分から聞いておいて話題そらすんかい。」
「仕方ないでしょ、覚えてないものは覚えてないんだから。ほら、ナルキ君は、なんでオルエイに来たの?」
「あ、最初に聞くの僕なんだ。」
綺麗にそらされてしまった。
まあ、分からない事を問い詰めるつもりもないし、そんなに食い下がることもないのでスルーする。
シアに聞かれたナルキは、言いずらそうにしながらも、強い覚悟を持った眼差しで話し出す。
「僕は、とある人に会うために来たんだ。」
それは、俺と彼が一番初めに会った時に彼が言ったことそのままだった。
「とある人?」
エリーゼが興味深々な様子を見せる。
「ああ、ステイリルって言ってわかるかな?」
彼が人名をだすと、皆わからなそうにキョトンとする。
唯一、ローズマリーのみが、血相を変えて焦るようすで、ナルキに突っかかった。
「あ、あなた、それ誰の事を言っているのかわかっておりますの?」
「ああ、わかってるよ。」
「ステイリルといえば、あの六天魔神の一人、ジョン・テルダムの弟ではありませんかッ!」
「だからわかってるって。」
彼は不貞腐れぎみで答えた。
分からない名前が出てきたので、俺は隣にいるヨロに向かって、誰にも聞こえないように小声で質問する。
「ジョン・テルダムって誰だ。」
「し、知らないです。」
「じゃあ、六天魔神ってなんだ?」
「そ、それもわからないです。」
これは、俺とヨロが常識を知らないだけか?
でも、六天魔神なんてワード、今まで生きてきた中で一度も聞いたことがない。
ローズマリーは怖い視線をナルキに向けた。
「あの人とは会わない方が身のためですわよ。悪い噂が後を立ちません。」
「だから全部知ってるって! でも、会わなくちゃいけないんだ。ここでなら、会えるかもしれない。もし会えなくても、オルエイを卒業すれば、いつか巡り巡って会えるかも。その為に来たんだ。」
「私は警告しましたよ。」
「ああ、君どころか、皆にされているよ。」
そう言い残して、彼はそっぽを向いてしまった。
すねたようだ。
なんだか二人の空気感が悪いので、話題の続きを切り出すことにした。
「じゃあ、次行こうか、ヨロ。」
「え? つ、次は、ぼ、僕なんですか? い、いいですけど。」
もう俺とヨロ、ミナクールの3人だけなのに、ヨロは何故か驚く様子を見せた。
しかし、聞かれたときの返答を準備していたのかすぐにでも語りだした。
「僕は将来、将軍になりたいんです。」
「え? 研究者じゃないの?」
すねたナルキが帰ってきた。気分転換早すぎだろ。
「い、いや、む、昔は研究者を目指していましたが、同時に軍を率いて国を勝利に導く将軍に、強い憧れを持っていまして。みんなが知るような、大将軍になりたいな、なんて。その為には、オルエイを卒業することが一番の近道だったんです。」
そう言い切ると、ヨロはもじもじしながら照れ始めた。
大きな夢を他人に語る時はどこか恥ずかしさがある
だから、ヨロの気持ちはとても共感できた。
俺も、昔は魔王になるとか公言していたのに、いつしかしなくなったものだ。
身の丈に合わない大きな夢を目標にするのは、大した能力もない自分がおこがましく感じてしまう。
だから、段々と恥ずかしくなってしまう。
半年前の俺だ。
「いいじゃん、それ。超かっこいいじゃん。」
俺がヨロにそう言うと、彼は嬉しそうな表情を見せた。
「そ、そうかな。でも、ぼ、僕が大将軍なんて、ちょっと似合わなくない?」
「そんなことないだろ。現にそれを目標にして、ちゃんとオルエイに入れたんだ。きっとなれるよ。」
ヨロはとろけるようにニヤニヤし始めた。
わっかりやすいなこいつ。
こういう風に褒められる事が珍しいのだろうか。
嬉しいという表情が駄々洩れだった。
「そ、そういうエスタはどうしてオルエイを受けたの?」
ヨロは俺に聞いた。
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