第20話 VSダンジョンボス
扉を開けてみると、中は広い空間となっていた。
これがゲームなら、何らかのイベントが起こるかボスが現れる感じになるだろう。
実際にわたし達二人が部屋に入った途端、扉はひとりでに閉まり、前方には悪霊の呪力が集まり出していた。
やがてそれは一つの形を成し、【魔女の知識】によると、強大な力を持つ魔導士のアンデッド――リッチとなった。
「一つ聞きます。この仕掛けを作り、あの文章を残したのはあなたですか?」
「クカカ……、愚かなり、聖女よ。ノコノコと誘い込まれるとは、正に飛んで火にいる夏の虫よ」
「それはどういう……、――っ!」
「フミナ!」
リッチがわたしを嘲り嗤った瞬間、急に身体から力が抜けていき、わたしは思わずよろめく。
それを見て那月さんは迷わず飛び込むと、わたしを抱いて後方へ退避する。
その瞬間に天井を見やると、そこには巨大な魔法陣が浮かんでいた。
「フミナ、大丈夫?」
「やられました、ドレインの魔法ですね……」
「ただのドレインではない、上位魔法の[アストラルドレイン]だ、聖女よ」
「不意打ちとは卑怯じゃないですか。それに、わたしは聖女ではありません」
リッチに対して憎まれ口を叩くも、わたしの言葉に力が無いのを見越してか、奴は勝利を確信した様に呵々と笑う。
「ふん、命が懸かっているにも関わらず、随分と甘い。しかし、そなたの魔力は極上だな。限界まで吸い上げて尚、もっと欲しいと思わせるとは中々だぞ」
「限界……ですか?」
「そうだ。もう動く事さえ億劫だろう? 後は大人しく我が糧となるが良い」
「そうはさせない。煌めき輝け〈アルテミス〉!」
わたしに継戦能力が残っていないと見做したのか、余裕を見せるリッチに対し、那月さんは聖剣を抜いて前に出る。
「ほう……、聖剣か。中々面白いものを持っているではないか」
「フミナはやらせない。浄化なんて考えず、消滅させてあげる」
そう言って二人は緊張感を高めていき、正に戦いが始まるその瞬間、わたしは力ある言葉を紡いだ。
「わたしを忘れて貰っては困ります――[ホーリーフォース]」
光魔法LV5[ホーリーフォース]――それが発動した瞬間、光の帯が幾重にも絡まり、回転しながら巨大な球体を成す。
それは、そのまま唖然としていたリッチへとあっさり命中すると、光の魔力を解放しながら一気に解けていき、リッチを構成する邪霊の力を浄化し昇天させていった。
「ば、馬鹿な! 限界まで魔力を吸ったのだぞ!? これほどの魔法を使えるだけの魔力が残っているはずが……」
「それは、あなたの魔力容量を満たしたというだけでは? わたしの魔力はまだ尽きていませんよ」
「……そんな、我がこんな小娘に……」
そう言うと、リッチは力尽きて動きを止め、そのまま浄化されていく。
しかし、浄化し尽くされる直前になって、リッチは最後の力を振り絞ったのか、再度顔を上げた。
わたしは咄嗟に身構えたけど、その表情は彼が人だった事を思い起こさせるものであり、そこに邪霊の気配は見られなかった。
「礼を言う、名も知らぬ聖女よ。封印した悪霊に取り込まれ、自らも悪霊と化した私を浄化して貰えるとは望外の極みだ」
「願いを叶えられた様で良かったです。それと、聖女は止めて下さい」
「……そうか。礼には足りぬと思うが、幾つかの
リッチは、その言葉を最後に完全に浄化される。
その後には、悪霊の依り代になっていたと思われる、ボロボロの杖のみが残っていた。
リッチとの戦いを終えると、那月さんはわたしの元へと飛んで来た。
「フミナ大丈夫? 具合悪くない? 歩ける?」
「お、落ち着いて下さい。少々貧血の様な症状はありますが、大きな問題は無いですよ」
わたしがそう言うと、那月さんは急いで魔力回復ポーションを取り出すと、わたしに無理矢理飲ませる。
「……けほっ、大丈夫って言ったじゃないですか……」
「だって、あんなの絶対心配するって! どうして無事だったの!?」
「言った通りです。あの魔物がわたしの魔力容量を見誤っていただけで、魔力が枯渇した訳ではなかったので」
「でも、フミナよろめいていたよね?」
「体力も一緒に奪われましたからね。これほど強力な不意打ちを受けるとは、想定外でした」
そう言いつつ、わたしはリッチの[アストラルドレイン]を思い出す。
リッチの魔力をもってしても難度の高い魔法だったのか、天井に魔法陣を展開し、その上で何もない風を装って不意打ちしてきたのは想定外と言えた。
だけど、事前の那月さんの注意通りでもあったので、今後は何らかの備えも考えた方が良いのかもしれない。
一方で、仕掛人の用意した文章や仕掛自体も正しかった訳で、この点で見るならあのリッチを浄化出来たのは良かったのだろう。
「フミナが無事で良かったよ~。不意打ちを受けた時、正直血の気が引いたからさ」
「心配を掛けてすみません。今後は、何か対策を講じた方が良いかもしれませんね」
「うん、その方が良いよ。それはそうとして、お宝だね!」
那月さんはそう言うと、表情を一転させてニシシと笑う。
わたしも楽しみなので、逸る気持ちを抑えつつ、二人で部屋の奥へと向かった。
部屋の奥には、隠し通路と一緒の仕掛けがしてあり、わたしは再度光魔法を発動させて、その先へ向かう通路を開く。
その先は小部屋となっており、大量の素材の入った箱や、宝箱と思わしき箱がそこかしこに置かれていた。
「うわ、すごっ! これだけ宝や素材が採れるのって中々無いよ!」
「そうなんですか? でも、これ使えますね。防護結界を張り直すどころか、強化する事も可能かと」
悪霊を封印していた事もあるのか、封印や結界などに使える素材が目白押しで、魔法陣用の塗料や結界石なんかは余るほどだと思う。
わざわざ、石ころから素材を抽出する必要もなくなり、ほっとする。
「そっか~。魔力を帯びた宝石類もあるみたいだし、魔道具作成なんかも捗るかもね」
「そうですね」
「それじゃさ、これ全部フミナの[アイテムボックス]に入れて貰っても良い?」
那月さんに言われた通り、わたしは素材類を次々と[アイテムボックス]へと入れていく。
そうして、一通りを採取した後、小さな小箱が残されている事に気が付いた。
「あっ、ストップ! 封がしてある宝箱は、罠があるかもだから気を付けて」
「了解です――[
那月さんの注意を受け、念のため[
その結果、罠が無い事が判明したので、その小箱を開けてみた。
「魔道具……ですね。ただ、要となる宝石にヒビが入っている様です」
「へえ~、どんな効果だったんだろう。でもこの状態だと、ただの壊れたアクセサリーだね」
「どうやら、何らかの魔法を一回分だけ蓄えておき、後に発動する事が出来る魔道具の様です。使用者を限定しないので、その点で重宝するかもしれません」
[
壊れていなければ、中々に使い出があったかもしれない。
「そっか~、優秀な魔道具なのに残念だね」
「これはわたしが預かっても良いですか? 直せるかもしれませんので」
「ホント!」
「はい。とは言っても、試してみないと分からないですけどね」
一応、わたしには【錬金魔法 LV4】もあるので、試す価値はあるだろう。
なのでそう言うと、那月さんはニコニコしながら答えを返す。
「ならさ、もしそれが直ったら、フミナが持つこと」
「わたしが、ですか?」
「そう。今回だって大事には至らなかったけど、肝が冷えたからね。それがあれば、一応の備えにはなるでしょ?」
「……そうですね。ありがとうございます」
不意打ちを受けた時はわたしも焦ったけど、那月さんとしても気が気でなかったらしい。
なので、わたし自身の身を守るためにも、この魔道具の修復を真剣に考える事にする。
その後は、一通りの宝や素材を回収し切った事を確認し、このダンジョンを後にした。
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