第15話 必要なアイテムは
そうして、一通りわたしの衣装を買った後、わたし達はピンセント商会を後にする。ここで大分時間を食ったけど、ベッドや家具類、魔道具の類は手付かずだから、これから急がないといけない。
「ちょっと待って。そんなに急がなくても、お店は逃げないよ」
「お店は逃げなくても、太陽が沈んでしまいますよ。……そう言えば、買った物はどうしたんですか?」
振り返ると、那月さんの持ち物に変化は無く、わたしも品物を受け取っていない。
「あ~、それはね。この中だよ」
「……アイテムバッグですか」
「そ、便利でしょ!」
そう言うと、那月さんは自慢げに鞄を掲げる。
アイテムバッグは、[アイテムボックス]の魔法が付与された鞄の事で、一個人が持つ事はまず叶わない程には貴重と言えるものだ。
これを普通に持っている辺りは、流石〈勇者〉という事なのだろう。
「凄いですね、初めて見ました」
「でしょ! 手に入れるのは苦労したけど、もう手放せないよ~」
那月さんはそう言って、鞄に頬擦りする。
デザインもカジュアルで使い易そうなので、愛着も強いのかもしれない。
「なるほど。そう言えば、今日は帯剣されていませんでしたけど、聖剣もその中ですか?」
「何言ってるの、休みの日は帯剣なんてしないって。それにさ、[アイテムボックス]の魔法にも制限があって、存在の力が強い物は中に入れられないんだって」
「そうなんですね」
確かに、何でも[アイテムボックス]に入れられる訳ではない、というのは道理だと思う。
「それにね、聖剣は私が呼べば来るの。だから、そもそもアイテムバッグに入れる必要も無いんだ。そこは〈
「そうでしたか」
那月さん曰く、〈
それと、教会は今でも多数の〈
実際に、その聖剣は持ち主に応じて召喚可能な特性を持っているから、特別な武器である事は間違いないだろう。
その特性の要因を考えるなら、勇者と聖剣とで一対という事だと思うけど、聖剣は那月さんをどうやって把握しているのか、ふと気になった。
「それよりもさ、フミナはどんなベッドが良い? 天蓋付きとか?」
「普通ので良いですし、それよりも屋敷に足りない物が多いんですから、急いで買い物をしないと」
「はいは~い。それじゃ、次は家具屋さんだね」
わたし達はそう言い合うと、次の店へと歩みを早める。
その時には、わたしの小さな疑問は忘れ去られていた。
◆ ◆ ◆
わたしの衣装の買い物に時間を使い過ぎた事もあり、その後は急ピッチで買い物を進める事になった。
まずは家具屋を見に行ったたけれど、ベッドや家具は受注生産になるらしく、必要なものを注文しつつ、魔石で光るランタン等の小物を買い込む。
続いて魔道具屋を見てみると、思ったよりは品物が充実していたけれど、屋敷の魔法陣を張り直すための資材は置いていない様だった。
「すまんな。ウチも基本的に汎用品しか置いてないからな。バルタットに行けば、見つかるとは思うんだが……」
「領都かあ……。うん、まずはありがとう」
「すみません。宜しければ、必要な素材が採れそうなところは分かりますか?」
「嬢ちゃんは魔法使いか? ……そうだな、北のシュムラグ鉱山か、南のフォルパス山のダンジョン辺りなら、採れるかもしれないな」
「そうですか、ありがとうございます」
幸いなことに、店主は人の良いおじさんで、ちょっとした情報を教えて貰う事も出来た。なので、店主へのお礼も兼ねて、必要になりそうな素材や魔道具を買っていく事にする。
そうして一日の買い物を終えると、もう日が沈みかかっていた。
「フミナ、お疲れ~。こんなに買い物したの、私も初めてかも」
「買って貰ってばかりで、何かすみません」
「それは仕方ないよ、まだこの世界に来たばかりなんだし。それと私達は相棒なんだから、必要な事でしょ?」
「そう、ですね。ありがとうございます」
もし那月さんと出会えてなければ、相当に切り詰めてカツカツの生活だったろう事は想像に難くなく、彼女との出会いは望外の幸運だったと思う。
「それにさ、私もフミナに助けられてるし。屋敷の掃除やメンテなんて、私一人じゃ無理だからね」
「そっか……、そうですね。それは任せて下さい」
「ふふっ、お願いね」
那月さんの方もわたしを頼りにしてくれている、その一言で気が楽になる。
支え合える関係になれる様頑張らないと、と気持ちを新たにしていると、那月さんが問い掛けてくる。
「それじゃさ、明日は何をしよっか?」
その質問に対し、わたしは少考して答えを返した。
「そうですね。早速ですけど、冒険してみようかなと。フォルパス山のダンジョンに素材を採りに行きませんか?」
これは、魔道具屋のおじさんに教えて貰ってから考えていた事で、フォルパスはわたしにとって都合の良い採取場かもしれないと予想していた。
那月さんは少し驚いた表情を浮かべたものの、すぐににこりと笑って答える。
「りょーかい。一緒に冒険するのは初めてだね!」
「はい、よろしくお願いします」
それから那月さんにせがまれて、わたし達は軽くハイタッチする。
初めての相棒らしいイベントを前にして、気分を出したかったらしい。
その後は、夕食を食べてから帰路につく。
この時、わたしはすっかり忘れていた。
……今夜も那月さんと同衾しなければいけないという事を。
結局、疲れ切っていた昨夜と違い、今夜は緊張から眠れず、寝不足の状態で冒険初日を迎える事になったのだった……。
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