第2話 和哉とギルランス

あれは今から半年以上前の事だった――


日本で東京の学校に通う高校三年生であった優斗は、多少家庭に問題を抱えつつも、サッカー部のキャプテンをしたり、和哉という親友が出来たり、と楽しいスクールライフを送っていた。


そんなある日、その親友である和哉が突然行方不明となったのだった。


彼の家族や警察なども色々手を尽くして探したが、一向に見つからず、優斗自身、心配で夜もろくに眠れない日々を過ごしていたのだが、夢に怪しい黒猫が現れて和哉のいるこの世界へ連れていってくれると言ったのだ。


最初は信じられなかったものの、藁にも縋る思いで言われたとおりにした優斗だったが、実際来てみればあんなに探していた和哉にあっさりと再会できたのだから拍子抜けもいいところだった。


しかし、感動の再会を果たした後、優斗はある重大な事実に気がついたのである――それは、和哉と一緒にでないと元の世界へ帰れない、という事だ。


勿論、優斗も初めはすぐに和哉を連れて帰れると思っていたのだが……なんと、和哉は元の世界へ帰る事よりもギルランスと一緒にいる事を望んでしまったのだ。


理由を聞いてみても、和哉は曖昧に言葉を濁すだけでハッキリとした事は教えてくれなかった。


だが、優斗はすぐにその理由を察する事になる。


というのも、彼ら二人のお互いを見つめる眼差しが明らかに普通のものではないと気付いてしまったのだ。


(確かに驚いたけど……)


そのギルランスという男、普段は仏頂面でいつも険しい目をしているのだが、和哉に対してだけは優し気な瞳で笑いかけたりしている所を何度か目撃している。


更には和哉のギルランスを見つめる目を見て、優斗は驚きを隠せなかった――あんな眼差しで見つめられたら誰だって落ちてしまうだろうと思う程、熱っぽい視線だったのだから。


(あいつのあんな目、初めて見たな……)


だが、優斗は驚きと同時に嬉しさを感じたのも事実だった――元の世界にいた時の和哉は『来るもの拒まず』的に流されるように女子と付き合ったりしていたのだが……――その和哉があんなにも誰かを愛するようになった事が嬉しかったのである。


だから優斗は、敢えて二人を見守る事にしたのだ。


そんなこんなで、元の世界へ帰る事も出来ず、行く当てもなく困っていた優斗を、ここのギルドの医師であるカエサルという男が面倒を見てくれる事になったのであった。


初めは彼の助手としてここに来たのだが、元々運動神経が良かった優斗は自分には冒険者のほうが向いていると感じて、こちらに転向したのだった。


そして、現在、優斗はこの異世界における冒険者として生活を送っているのであった――。

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