第3話 本間泰浩青年が一人走る理由
本間泰浩は陸上競技部に何度も勧誘されていた。どうせ走るのなら、一人で練習するよりも競いあった方がいいだろうとか、先生が速く走れるようなメニューを組んでくれるとか、他人が聞けば至極まっとうな言い分が出された。それは本間青年も承知していた。承知をしたうえでも彼は一人を選んだのである。
中学時代、陸上競技の地区大会は選抜された生徒が参加した。部活動に入っていようがいまいが、その能力がある者が選ばれ、練習に参加した。それはほぼ強制であった。本間少年はそれもまた仕方ないと受け入れて参加することにした。列を整えてのアップ、クールダウンのジョグ、声を立てての体操。短距離、長距離、跳躍、投擲各種目に分かれての専門メニュー。息が切れていても他の選手を励ますための声援。練習が一通り済んで他の種目待ちの時には、先輩からマッサージを強要された。手技は簡単なやり方をレクチャー済みだったからそれで対応したものの、その頻度たるや。こうした経験は本間少年には不服でならなかった。あえて口外するようなことはなかった。が、部活動としてのそこに積極的に参加することはないと心を決めたのは中学二年の時だった。
それでも高校生になって、一人で走っているのは走る爽快感を求めるからだった。わずか一〇〇メートルの十数秒の風が彼の鼓動を鳴らし、表情を和らげるのだ。だから、止められない。誰に何を言われようとも一〇〇メートルに参加する。ただ今年は種目を変更する。二〇〇メートルを選んだのだ。少なくとも倍の距離走りながらの体感を得られる。それだけが本間青年が走る理由だった。
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