舞台の中心で花咲く蕾
モチイチ
無期限休止
第1話
高校生でデビューし、世間に受け入れられた頃には二十歳になっていた。少しずつ忙しくなり、それぞれの得意分野での活躍はもちろん、グループとしての活躍もどんどん増え、顔と名前を覚えてもらえるようになった。
私たちCiEl《シエル》のライブチケットは即完売。グッズもどれだけ沢山用意してもこちらも同じく完売し、自分たちで言うのは恥ずかしいが売れっ子の仲間入りを果たした。
嬉しい反面、面倒なこともありちょっとのことで週刊誌に撮られてしまうばかりか、友達だと思っていた人がネタを提供して裏切られたこともしばしば。
当時、現役の高校生だった最年少の秋野日ヒマリは周りが怖くなり、家族やマネージャー、メンバー以外の連絡先を一時的にブロックしてSNSも見なくなった。それくらい周りが敵に見えてしまったのだ。
そんなある日――。
「意味分かんないんだけど! 私彼と付き合ってるってちゃんと雫ちゃんに話しましたよね!」
いつもはくだらない話で盛り上がっている楽屋ではテーブルを叩く音と、一番大人しい最年少の
口論の相手は清楚系で売り出そうとしていたのに週刊誌に男を手あたり次第食べていると書かれ、人気とキャラが壊れた
CiElはこの二人と私、
「えー? 冗談かと思ってたんだけど。だって相手二十五だよ? 陽葵いくつ?」
「じゅ、十九歳だけど歳とか関係ないから!」
ステージ用の化粧を落としながら話を黙って聞いていると、どうやら澪の悪い癖が出てしまったらしい。いつもの様に誰彼構わず手を出した相手が陽葵の彼氏だったとは。
陽葵が嬉しそうに報告してきた相手は若手のADさんだったような気がする。困っている時にさり気なく支えてくれただけじゃなくて、打ち上げで意気投合して最終的に付き合ったって言っていたから。
「こらこらあまり大きな声でそんな話をするんじゃない。誰が聞いてるのか分からないだろ」
本当にそう。マネージャーの言う通り。
身内にも敵は存在する。
「それと春夏冬。交際について僕は何も聞いていないが?」
「言うわけないじゃないですか。今が大事な時だって言って距離を取れとか別れろって言うんでしょ?」
「分かってるじゃないか。少し優しくされたくらいで付き合って、つまらない事で喧嘩してどうすんだ? 一人ならともかくお前らは三人で一つのグループだろ」
綺麗な女優よりも子役しか興味のないマネージャーが珍しく尤もらしいことを言う。
鏡越しに様子を伺いながら彼らの話を聞いているけど、一つだけ思う事がある。このクッソ忙しい日々の中で、朝早く家を出て遅くに帰ってきてやることやって寝るだけの生活を当たり前のように送っていた私と違ってどうやって遊ぶ時間を見つけているの?
ていうか、誰も打ち上げに誘ってくれないのなんで?
休日は寝るだけで半日以上は潰れているし、ストレス発散でゲームセンターで時間を潰していたらいつの間にか夜だし。
皆もこんな感じで毎日過ごしているって思ってたけど、これ私だけだったの?
「それと澪。お前にはしばらく男遊びを禁じていたはずだが? 先月の合コンの記事からまだ一ヶ月も過ぎてないぞ!」
「遊びじゃないから」
「なおさら駄目じゃないですか! 人の男に手を出して最低ッ!!」
「陽葵。それ以上は喧嘩になる。止めろ」
「マネージャーの言うとおり。取り敢えず今は明日の生放送を頑張って、その後にマネージャーがぶん取ってくれた夏休みで話し合うってのはどう? 二人だけで言い合っても悪くなる一方だし、私も予定ないから三人で」
「七海ぃ~」
「七海ちゃん! でも私本気で」
くっ付いてきた澪はともかく、珍しく陽葵が粘る。
それほど本気なのだろう。
「それに私たちだけで話し合っても相手がいなきゃ意味がないじゃない? 陽葵も簡単に手を出したのは悪いけどそれにノった男も男でしょ? 百歩譲って澪が知らないとしても男性の方は知っているんだから」
「……確かに」
もしかしたら二人だけじゃないかもしれないし。
噂のADくんは色々とよくない噂を聞くから。親切にしている時は本当に良い人なんだけどしつこく連絡先を聞いてくるって話も聞いたし、自分のモノのように扱われた人も居るって。
「いやー助かったよ星宮。痴情のもつれで解散ってなったら僕の首が吹き飛ぶところだったよ。物理的に」
「物理的に?」
「ああ。物理的に」
場は収まり、恋愛経験の浅い私はこれでしばらくは大丈夫だとほっと一息ついた。
次の日、SNSのトレンド上位をCiElで埋め尽くされるまでは――。
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