自傷癖のある変態はメンがヘラってるのではないと主張するも一向に信じてくれないので迷宮配信系探索者になって遠回しに自分の主張が正しいと証明する?!

@namatyu

第1話

「ですからですね。僕は別に病んでいる訳でもなく、至って精神状態はまともであり、それは仕事の出来からも客観的に判断できる材料となると思うのですが。」


 猪狩慎太郎。

 25才。


 極々一般的な企業の営業部に配属され、営業目標ノルマは一年の頃より常に達成している。

 自分の中では、特別優秀とまではいかないまでも会社にとって能力はある人間だと自負していた。


 なのだが。

 とあることが会社にバレてしまう。


 それは自傷癖である。


 入社前に文言に精神的な病に掛かった事は――――との記載で自分は〈ない〉と申告していた。

 三年経って、巧妙に隠していた自傷行為、その傷はとあるお茶汲みの事務員女性がずっこけてお茶を盛大に被った自分が脱ぐハメになったことで発覚した。


「いや、しかしだね。こういった行為は精神が疲れて、いや病んでいる証拠では?自身に向けた攻撃でストレスを発散せざる負えない精神状況と判断するしかないのだよ。あ、別に会社としてはしっかり申告してくれれば配慮はするし――――」


 違う。

 本当に違う。

 そんな目で見られても困る。

 それからはより精力的に働くも、無理してないか?などと余計な気を遣わせてしまった状況が心苦しく、僕は自主退職した。


 その時も、「ああ、そうか。うん、ゆっくり休め。もし会社に戻ってこれそうなら俺が人事に掛け合ってやる。」


 と本来なら最高な上司の言葉に、本当に違う。と言いたくなったが、そこは社会人経験三年。

 普通に営業成績は上から数えた方が早かった自分は、ぐっと堪え、「ありがとうございます。」と礼をして帰った。


 少なくとも、中小企業に就職した僕はかなり上司運、同僚運に恵まれていたと思う。

 最高の職場だったんだけどな。


 どういう仕事をしていたか。

 基本的には自社製品を発明・販売していた会社で僕はその販路を拓く仕事をしていた。

 自分の中の営業とはそういうものである。


 そしてどういったものを売っているのか。

 それは、迷宮探索のお助けアイテムであった。


 うちの会社は、本当に優秀で優良なお助けアイテムを販売していた。少なくとも僕はそう思っている。


 辞めた僕に何が出来るのか。

 僕の都合でやめてしまったが故に、恩を仇で返してしまった気さえする。


 再就職先どうするかな。

 安アパートで独り暮らししている僕は、本日付けでニートである。一応雇用保険に入っていたので、失業手当は手に入る。

 三年働いていてよかった。


 何か、恩返しできる仕事はないか。

 そんなことを漠然と考えつつも、Youtuneという動画配信サイトを眺める。

 仕事ばかりでこういった分野については音楽を聴くとかくらいしか見てこなかったけど、あるものに目がいった。

 それは配信系探索者という文言。

 それは一見して探索者自身がオレツエーを演出していたり、攻略動画を上げているのだが、人気なのはオレツエーで魔物を倒す姿ばかりだった。


 後は、色物だろうか。可愛い探索者がきゃーっとか、えいって倒している姿が「かわいい」ってなってスパチャが飛ぶ。

 怪我をしてもスパチャが飛ぶ。なんてうらやまけしからん!!!そこで僕は天啓を受けたかのようにびびびっと就職先を見つけるのであった。


 ダンジョンは唐突に生まれた。

 というか人間が生み出したというべきか。

 最初のダンジョンに関しては確実に人為的に引き起こされたもの、というのが人類の常識である。


 新たな資源を確保するために、エネルギーを生み出す実験施設があった。

 人工的なブラックホールを作り、それが消滅する過程で生まれるエネルギーを使えば莫大なエネルギーを生活に回せて環境を汚染する事もない画期的なプロジェクトだったらしい。


 実際に人工ブラックホールを作る算段が付き、臨床実験段階となっていた。


 そこで思いも寄らぬ事態が起こった。


 それがダンジョンの出現の歴史だ。


 

 ダンジョンには魔物が、魔力が発見され人々は生活するうえで魔力を発現していった。


 選ばれしものだけが、魔力持ちってわけではない。

 どうやら、魔力は既に持っていたようだ。

 発現・利用できる程の技術も確立されてなければ、地球に存在する魔力濃度の薄さが致命的に低かったのも原因だったみたい。


 ダンジョンのお陰で人々の暮らしは更に豊かになった。


 先ずは、転移門。

 一瞬で各主要都市に飛べる瞬間移動方法。

 これは門と門を繋ぐ技術であり、どこかしこに直ぐに飛べるわけではない。

 それと質量を転移させるので、大型輸送には不向き。

 だから飛行機や貨物列車、海上輸送、トラックの運ちゃんなどは有効な輸送手段のままだ。


 あくまで一つの手段である。

 

 まあ、なにが言いたいのかというとダンジョンは資源の宝庫だから、より効率よく恩恵をダンジョンから引き出そうではないか。その為に、元自社製品がお助けアイテムとして優れているのか、これは良いプレゼンの場であるのではないか。と僕は考えた。それと同時に



 というわけで、カメラ機材、配信方法はスマホとの接続。

 まあ、配信系探索者を目指すべく貯金を崩して機材と装備を揃えた。

 

 大学時代と三年の社会人で500万程の貯蓄がある。

 それらの内、50万円も初期費用に掛かってしまったが、そこはしょうがないと割り切った。

 

 まずは初心者装備セット。計9万円。


 軽装備で胸当て、肩、手甲、脛当て、靴。


 魔法仮面、一万円。


 腹などは守られていない。

 まあ、これだけの装備でも3キロはあった。

 魔力のお陰で、身体能力が多少上がっているのだがそれでも着慣れていないので重い。


 そして武器は長剣。5万円。

 無難なものした。

 

 配信機材…32万円。


 お助けアイテム……3万円。

 選んだのは傷ナース。

 傷薬ジェルクリームがわさびやからしなどのごく一般的なチューブに入っている。

 

 先ずはこれの正しい使い方からYoutuneで紹介しようと思う。



 挑むのは初心者御用達、コボルトダンジョン。

 

 配信を開始!

 チャンネル登録者数0。

 視聴者数0。

 名前はハンドルネームはマトモくん。

 一応、顔は眉毛がきりっとしたアニメ顔になるダンジョン産の不思議な仮面だ。

 仮面なのに顔の表情が出る。すぐれものである。

 防御力は皆無でネタ用装備らしい。

 因みにアイテム袋をコボルトダンジョン入り口で貸与してもらって腰に提げている。これにドロップ品をいれるといいらしい。


「あーあー。第一回!マトモくんちゃんねるへようこそ!今日始めたばかりなので、動きはずぶの素人かもしれません。ですがずぶの素人が教えるものすごいお助けアイテムを紹介するのでぜひ最後までみていってね!!!」


 こんな感じだろうか。

 まあ、誰も見てないからいいか。


 動きやすい普段着に初心者セットを身に付けた男がコボルトダンジョンへ足を運ぶ。


「おお!!!ここがダンジョンか!!!」

 

 初めて見た。初めて足を運んだ。


 洞窟型となっているが、結構広い。

 

 朝は人が空いているようだ。

 そもそも今日は平日の月曜だし朝とか尚の事空いていて当然。

 

 ダンジョンで生計を立てる者はいる。でもそういう人は初心者ダンジョンなんかにはいない。

 

 ほぼ貸し切りみたいなものだ。


 疑似異世界に来たような感動を覚えながら歩いているとさっそくコボルトを見つけた。


 ヘルメットにピッケルを持って鉱石を掘り出している。

 数は三体。


 戦ったことがないのに三体。

 一応、剣の振り方は動画を通して素振りしている。

 剣道の竹刀程度の重さの長剣。

 これも初心者におすすめとサイトに載っていたものだ。


 普通は恐れるが、彼は自傷癖持ち。

 そして今回紹介するアイテムは傷ついてなんぼ。


「でりゃ!!!」

 

 思いっきり踏み込んで、コボルトAに斬撃を食らわせる。

 頭はヘルメットで守られていたので肩から背中を斜めに斬った。正直初心者にしては切り口が綺麗だと思った。


 カメラは基本自分、敵に攻撃したり被弾した際はその傷映像を優先して撮るように設定してある。


 大振りで斬り込んだので、体勢的に瞬時に避けるような動きは出来ない。

 案の定、コボルトBにピッケルで肩を殴られたような衝撃が走る。

 コボルトCはピッケルを投げ捨て、腰に差している短剣を構えて突撃してきた。

 それは避けねばならない。

 だから、みっともなく後ろに転がり込む。


〈うへぇ、ガチの初心者だ。〉


 それが初めてのコメントだ。


「はじめまして!マトモくんです!おわっと!!でい!!1」


「ぎっ!ぜひ最後までみていってね!!どりゃ!!」


〈初心者がいきなり三体同時?しかもソロ?名前がマトモくん?まともじゃないよwww〉


 失礼な。


 泥臭い戦いを制した僕は早速本日の目玉映像に入る。

 結構斬られた。だが、それでいい。


「さ、本日見て欲しいのはこの商品!!傷ナース!!!!」


〈ああ、大して効かないやつね。〉

〈表面だけ治って中くっそいてえのなんの。〉


 それは使い方が間違ってるんだよ。


「この商品の使い方を説明します!!先ずは傷口をぴって開いて、ジェルクリームを患部の深部にまでしっかり塗り込みます!!!」


〈はあ?!〉

〈いや、こわ!!〉

〈や、なんでそんなたのしそうなんだよ?!〉


 笑顔笑顔!

 営業の基本だぞ?


「さ、切り傷は全部これ一本で治るのでみててくださいね!!ほーら、最初に塗った所、ちゃんとしゅわしゅわしてきたでしょう?全身の傷に塗り込むころには最初の傷は治ってると思うんで!!!!」


 そういって、切り傷を傷ナースをどんどん塗り込んでいく。


〈うわ、まじかよ……。内出血とかもない。〉

〈傷跡があったとは思えない。〉

〈マトモくんは傷ナースの会社の手の者なのか?〉


 手の者であった、が正しい。

 まあ、肯定も訂正もしないが。


 倒したコボルトからは牙と爪、魔石がドロップしていた。


「こ、これが初めてのドロップ品!!!!初収入!!!いやっほい!!!」


 ドロップ品と傷の治りを見せつつ、更に3体、2体、4体、1体、2体、3体、3体、4体、2体、3体と戦っては傷を治すシーン繰り返し。


 何度も何度も戦闘、傷を治し、ドロップ品を回収と続けまくっていると視聴者は何故か100人を超えていた。


〈これが最新の初心者。〉

〈ちゃんねる登録しました。狂人くん〉

〈マトモ君はまともじゃねえ。〉

〈マトモだ!マトモじゃねえ!!〉


〈初米です!ずっと見てました!!〉


 ずっととは?

 しかも初コメはたぶんあなたじゃない。


〈いや、初コメは俺だし、ずっとみてるわけねえだろ。おれだって最初からみてねえぞ。〉

〈なんだよ、早速古参マウント合戦か?〉


「みなさん、今日が初めての配信で初めての狩りですが見てくださてありがとうございます!!まだまだ狩りますよ!!!」


 そうしてかれこれ、討伐数が100を超えた。


〈やべえ、初心者ソロが100匹討伐。〉

〈数えてたんか。〉

〈100は盛ってる。〉

〈100は虚言乙〉

〈100は無理だろ。〉

〈今からカウントしまっす〉

〈カウント任せた。〉

〈よろ〉

〈うっす!!!〉


 その後もがんがん倒す。200は超えた。

 なんか倒した数でもめてたので、嘘呼ばわりされた視聴者のためにも狩って狩って狩りまくった。

 もちろん、傷ナースの使い方講座は常に開いて。


〈99〉

〈あと一匹……〉

〈これは100狩ってるじゃんね?〉

〈100〉

〈100匹は虚言っていってたやつ息してる?〉

〈うおおおおおお〉

〈まじか〉

〈おっかねええ〉

〈これが初心者?!〉

〈いや動きは初心者。〉

〈でも地味にうまくなってるよな〉

〈てかレベルがあがってんじゃね?〉

〈あ、そりゃそうだ〉

〈コボルトでレベル上げとかもう久しすぎて〉

〈そういうやコボルトでもレベル上がるんだった笑〉

〈ん?〉

〈視聴者数1000超えてる。〉

〈やべえ〉

〈古参1000人?〉

〈今日知ったやつ全員古参名乗れるのか。〉

〈草〉

〈なあ、これほんとに初心者だよな?〉

〈俺初心者の頃、こんなに戦えたかな。〉

〈自信なく諏訪。〉

〈てか、なんでこんなに増えたん?〉

〈こんな初心者は嫌だ。にこのURLはっといた。〉

〈てめーのしわざかwww〉

〈草〉

〈草〉

〈草〉

〈ひでえwww〉

〈がんばってるだろw〉

〈頑張り過ぎる初心者はいやってか?笑〉

〈あんまりだwww〉


 楽しそうだな、チャット欄。

 でも人数増えたなら、使い方多く知ってもらう機会だし、プレゼンしないとな!!!!


「まだまだいくんでよろしく!!!ってなんじゃこちゃあああ?!?!」


 俺はそう意気込んで探索していると、コボルトが大量発生していた。

 

〈?!〉

〈モンスタートラップにひっかかったぽい。〉

〈やば〉

〈たひぬよ〉

〈ああ、狂人君が。〉

〈ああ、やばばば〉

〈協会に通報したれ〉

〈コボルトダンジョン?〉

〈そ。〉

〈通報したんゴ〉

〈ないすう〉

〈でも間に合うの?〉

〈それは……〉

〈この中でだれか助けにいく勇者は?〉

〈勇者・募〉

〈……。〉

〈へ〉

〈へ〉

〈俺が行こう〉

〈おおおお〉

〈かっけええ〉

〈だが、仕事が〉

〈仕事中かい〉

〈無理で草〉

〈まじでおらんの?〉

〈がちでむり。〉

〈ゆるせ、マトモくん〉

〈え、マトモくん追い詰められた?〉

〈そんな狭いとこいって〉

〈詰み〉

〈了〉

〈対戦、ありがとうございました〉

〈不謹慎だぞ〉

〈すまそ〉

〈ごめ〉

〈いやでも一体ずつならいけんでね?〉

〈何百体連戦だよ。〉

〈まあ、レベル上がったら疲労は取れっから、魔力は回復すっから〉

〈傷は治らんし精神的な疲労は取れんぞ〉

〈それはそう〉

〈理論上〉

〈マトモくんの技量ならいける?〉

〈精神強者だから〉

〈いかれマゾのまちがいでそ〉

〈Mなのはまちがいないな〉

〈なんとかしのいでくれ〉

〈新人がんば〉



 どうやら俺は相当ピンチらしい。

 でも連絡してくれた人がいるらしいから、ひたすら耐えだ。

 身体の疲れがなくなるならいいんす。

 

 レベルとステータスがみれるステータスチェッカーなる板盤がある。それは探索者ギルドに置かれてるらしいけど。

 ぶっちゃけ探索者ギルドには足を運んでない。

 全部速達通販で揃えたし。

 技術指南はyoutune動画サイト。


〈す、すごい〉

〈なんとかなってら〉

〈でもちょっとずつダメが。〉

〈犬きらいになりそうだな〉

〈コボルトはイッヌではない。獣鬼と書いてコボルトである。〉

〈イッヌと一緒にするな〉

〈うちのは可愛いよ〉

〈うちのこも可愛い〉


〈こめ欄のんきじゃ〉

〈ま、ほんにんが笑顔過ぎてな〉

〈マトモくんがこわい〉

〈たしかあの仮面て内心と表情が密接にリンクするんだよな?〉

〈ああ、嘘つけない〉

〈じゃ、まじで喜んでる?〉

〈451〉

〈ひいいいい〉

〈あれほどの狂人につっこむコボルト先生勇敢〉

〈勇敢にして無謀〉

〈新人のくせに同接10000超えたぞ。〉

〈はんpねー〉

〈ふうえrる〉

〈ふるえるすら打ててないの草〉

〈www〉


「だいじょうぶですかー?!」


〈とおくからこえが〉

〈救援間に合った〉

〈推す〉

〈お、スパチャできんじゃん〉


 ―――2000円—―—

《狂人くんがんばれ、あとすこし》



〈初スパが名前いじられて。〉

〈ないすぱ〉

〈やるじゃん〉


 —――100$—―――

 《fight!!!!!!!》



〈100どるもしてファイトか。〉

〈海外勢もいるのか〉

〈ちゃんねる登録者6000にんこえてり〉

〈は?〉

〈502〉

〈始まった時0なのに〉

〈同時接続30000超えたから。妥当か〉

〈ひええ〉

〈0人が6000か。大手でもこの伸びは中々見ないな〉

〈まあ、ほんにんが楽しそうだし〉

〈まさかの戦闘中毒者か〉

〈でもこれが初めてでしょう?〉

〈えぐいてえ〉


 こうして、マトモくんは最終討伐記録、502という新人探索者としてはえげつない討伐記録を叩き出した化け物ルーキーとして一日で名を馳せるのであった。

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