第41話「真っ黒なローブ」
結局、五人は教会に向かうことにした。夢でそこにミラが登場した、というのもあるし、なにより人質がそこにいる。
方針としては、黒ローブに注意し、遭遇次第撃破。ただ、複数人の敵を一挙に相手するのは危険なので、必ず多対一で対応すること。つまり、見つけ次第仲間に共有し、静かに倒すことだ。生死は問わない。そのことに気にかけて、自分が死んでしまったら元も子もないからだ。
そこまでニアがみんなに伝えて、気付く。だから、自分は血だらけだったのか。あの絵面はジャン王子に見せたくない。
こそこそと五人は連れ立って、学園内を教会に向かって早足で進む。夢の中でミラが学園内を探しても、自分達を見かけなかったのも納得がいった。建物内では、発見された時に逃げられる場所がない。戦闘もしにくい。
校舎の外を進んでいたのだ。予知夢の中で校舎内は熱心に探していたが、外は精々一周した程度だ。窓の外を見なかったわけではないが、現在進行形で進んでいるミラ達は中からも見つからないように移動している。
だから、見つからなくて当たり前だったのだ。
夢では制服が血だらけになっていたのだから、戦闘は避けられないだろう。それは、他の四人も分かっているはず。
ただ、ミラには一抹の不安があった。ミラもハンナも少し先の未来が視える。黒ローブのハンナのそっくりさんも同じ可能性はある。問題は未来視が出来る者同士で戦闘した場合どうなるのか分からないことだった。
互いの能力にもよるのだろうが――戦闘するなら、奇襲の方がいい気がする。ミラと同じなら、常時未来を視ることは出来ないのだから。
「待て」
ジェイを先頭に――ジャン王子が先頭になろうとしたら、ジェイに叱られていた。ついでにミラも怒った――校舎の壁に沿って、教会に向かっていたのだが、声が聞こえてきたのだ。
教会への渡り廊下は二階にある。なので、どこかで校舎内には入らないといけないのだが、入る前でよかった。
話している内容は窓ガラスでくぐもっていていまいち要領を得ない。元々の声量が小さいせいもあるからだろう。
声の多さからして、人数は二人。予知夢の自分の証言が正しければ残り八人。
「どうする?」
五人の中央にいたミラが、静かに周りに聞く。遭遇したら戦闘とはいったが、向こうは気付いていない。このまま避けることも出来なくはない。
「気付かない内に相手の人数は減らした方がいい。他と戦闘になって、十人のミラと戦うのは勘弁だ」
「そう、ね。その可能性はあるものね」
「戦闘するなら、奇襲のほうがいいですよ、ミラ先輩」
壁の後ろで話し声はまだ、聞こえている。
「しかし、どうやって奇襲する? 相手も未来視が出来るんだろう?」
ジェイはもっともな疑問を呈してきた。だが、未来視とて万能じゃない。向こうはこっちにミラとハンナがおり、同じであることを知らないのだ。これは使える。
「未来視といっても普通の視界の範囲内でのことしか分からないのよ。だから、背後からの急襲。これが一番効くわね」
「戦闘音はなるべく出したくないですし、何かで引き付けて昏倒させるのがいいですね。ですよね、ニア先輩」
「……私が囮になれってこと?」
「だって立場的にジャン王子とジェイ先輩は不可能ですしー、狙われている可能性のある私とミラ先輩は無理じゃないですか。残りはニア先輩だけですよ?」
ハンナがニアに対してこれまで見せたことのない笑顔を向ける。先輩を囮にすることに何の抵抗もないようだった。
「ねえ、ちゃんとやってね。お姉ちゃん、ミラを信じているから」
場所は移り、校舎内に侵入したミラ達は教室の中で黒ローブのハンナのそっくりさん二名を待っていた。
二人組で学園の中を探しているようで、時折話しながら歩き回っているようだった。ただ、どこか緊張感がない。
ミラが夢の中で見た二人はもっとピリピリしていたのだが、個体差があるのかもしれない。
二人組を先回りし、ようやくこの教室に辿り着いた。声量を落とした声でニアを励ます。
「はいはい、頑張ってね」
「ミラ、雑じゃない?」
「だってニアだし。失敗しても死ななそうっていうか……」
抱き付いてくるニアの頭を撫でながら、廊下の様子を窺う。声は計算通り、こちらに近付いてきている。
「ニア、来た」
「はぁ~……、可愛い妹のために頑張るかー」
相手はもうすぐ側まで来ているのに、ニアがちらちらとこちらを窺ってくる。
「……分かったって。終わったらご褒美上げるから」
「やった」
ニアはミラの頬にキスすると、そろそろと教室後方の出入り口に向かう。
「私達も準備するよ。……なによ、その目」
「姉妹仲良しで羨ましいな、と」
「ニア先輩、ずるいです」
「……あんな顔、俺には見せてくれないんだが」
ジェイに関しては自力でどうにかして欲しい。というか、こんなことしている場合ではないのだ。早く行動しないと。
「うるさい。早く前に行って」
煩わしい視線を払い、ミラは三人を促す。
作戦自体はシンプルで、ニアが囮になって引き付けている間に、後ろからミラ達が急襲するのだ。
念の為、ミラの未来視は使用するのだが、問題ないと思う。そもそも襲われる二人組の視界にミラ達は入らないのだから。
教室の扉はあらかじめ開けておいた。ミラ含め四人が前の扉近くまで行く。先頭はジェイだ。一番後方がミラ。
狙っている二人組が教室前方の扉の前を通り、後ろの扉の方へ向かう。特に話すことがないのか、彼女らは無言だった。話していてくれた方が、音が紛れて動きやすいのだがしょうがない。
ニアの方を見ると、こくっと頷かれる。ミラは頷き返した。
前後それぞれ一箇所ずつある扉の内、後ろの扉からニアが飛び出した。
「あなた達、そこで止まりなさいっ!」
ニアが高らかに宣言する声が聞こえてくる。大丈夫だと分かっていたも、ニアは内心冷や汗を掻いた。
「なんだ、お前」
「こいつが『竜巫女』?」
「いや、違う。大体本人だったら、こんなバカなことしないだろう」
ニアが何気なくディスられていることに苦笑する。でも、おかげで分かったことがある。
「似ているというか、まんまだな。声」
「同時に話されたら分からなくなるな、多分」
これで、夢の内容が現実であることが何割か確定した。ハンナはぼうっとしていた。考え込んでいるようにも見える。
「ハンナ?」
「あっ、すみません。早くニア先輩を助けましょう」
「ええ、そうね」
彼女は慌しく返事をすると、先を促す。それはもっともなので、ミラは他の二人にも声を掛けた。
「ジャン、ジェイ行くわよ。ここ狙うの」
「分かってる」
「ああ」
ジェイを先頭にして、ジャン王子、ミラ、ハンナの順で廊下に出る。
ニアの正面にいる二人は、予知夢の通り黒いローブを羽織っていた。ニアに対してその扱いに困っているようだった。
「おい、どうする、コイツ」
「教会まで連れて行って放ればいいんじゃない?」
「面倒臭くない? 従ってくれそうにないよ」
「殺すのはもっと面倒でしょ」
ニアは色々言っているのだが、尽く無視されている。しかし、一応引き付けは成功しているようで、背後にジャン王子とジェイが迫ることが出来ていた。
「ちょっと、あんた達、私の話聞きなさいっ!」
ニアの叫びにようやく聞く耳を持ったようで、二人は話し合いをやめた。
ジャン王子とジェイは学園の中であっても剣を携帯している。それは、男女問わずみな同じだが、まさかこんな風に役に立つとは。
二人は鞘に入った剣を振り――黒ローブ二人組の首元を叩き付けた。鈍い音が響くとともに、彼女らは崩れ落ちる。
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