第13話 思い

ルーナ視点


人の価値が魔力で決まる世界で

魔力のない人間がどれだけ惨めな人生をおくるのか想像できるだろうか。



何か悪いことをしたわけでもなく、

努力が足りなかったわけでもない。



ただ生まれた時にもっていた魔力量が少なかった

というだけで、存在自体を否定されながら生きていかなければならないのだ。



そんな社会でのうのうと生きている貴族どもが大嫌いだ。



生まれた時の運の良さを、自分の能力と誤解して

いかにも自分は努力をしてきたのだと語る奴ら。



それだけならまだしも、魔力がない人たちに

怠け者であるというレッテルをはり

生きている価値がないと平然と罵ってくる。



あんな奴らが上に立つべきではない。



でも、抵抗なんてすることもできない。

魔力は強大な力なのだ。



魔力を持つ人間に対して

魔力を持たない人間がどれだけ多数でしかけようとも

虫を潰すくらい簡単に倒されてしまうから。



だから怒りを、憎しみを必死に飲み込んで

ただひたすらに耐えながら生きていくしかない。

死ぬまでこの地獄の耐久レースを続けなければ

ならないかと思うと、将来に希望など持てなかった。



あの人に会うまでは。

そう思っていた。



タハラという人は

そんなゴミのような社会に一石を投じてくれた。



魔力をほとんど持たないのにもかかわらず、

膨大な魔力をもつ貴族どもをぶっ飛ばす。



いままで魔力をもたない人々が受けていた屈辱を

そのまま貴族に返すその姿は、まさに英雄だった。



その後ろ姿に憧れて、彼のとなりに立ちたくて

わたしも彼と同じ道を進むことにしたのだ。



実力不足で魔法学校には入れなかったけれど、

彼と同じ仕事場には入ることができた。



タハラさんはわたしが向けている感情について気づいていないだろう。

でも、それでいい。



まだまだ差はあるけれど、いつか隣に並べた日まで

とっておきたかった。



でも、そんな日々を壊してくるやつがいた。

エーマとかいうやつだ。



変な仮面をかぶって、姿を一切みせない

不気味なやつ。



いや、姿を見せないことがイヤなわけじゃない。

訳ありの子がいっぱいいるから姿が見られたくないという事情を

持っていても気にはしない。



ただ、タハラさんと親しげな事に腹がたってしまうのだ。


あの人の隣に立つのはあたしだ。

あたしが立つんだ。



それなのに急に出てきて、

簡単にあたしの場所を奪っていきそうで。

だからほんとうは顔も合わせたくなかった。




エーマからは、膨大な魔力を感じる。

かなりうまく隠しているからそんじょそこらの人では

わからないだろうけど、あたしにはわかった。



たぶん彼女?は貴族だ。

その可能性が高い。



また貴族が奪っていく。

あたしの大切な物を。


血を吐くほど努力して

歯を食いしばるほど我慢をして

やっと届きそうというものを

いとも簡単にとっていく。



認めたくない。

許したくない。





・・・・・・ひどい嫉妬だと思う。



別に彼女になにかされたわけでもないのにね。



分かってはいるのだ。

レインの野郎みたいに魔力が多くても

少ない奴を見下さない奴がいるということは分かってはいる。



頭では分かっているのだが、

どうしても心でわかることまでできなくて

貴族だったり魔力が多い奴をみると

嫉妬をしてしまうのだ。



だから、任務の間はできるだけ彼女から離れておくことにする。

近くにいると、また冷静じゃなくなってひどい態度を取ってしまうかもしれないから。



・・・・・・これ以上考えるのはやめよう。

今は任務中だ。集中しなくちゃ。集中。



「お父ちゃん、ねえ、お父ちゃん」



「あんた、もう大丈夫だよ。

助けが来てくれたんだ」



「もう大丈夫ですよ。

すぐ治療しますね」



耳を澄ますと、風に乗った

話し声が聞こえてくる。



村の人達たちとエーマの声だ。



「はい、治りました。どうですか」



「ほんとだ、いたくねえ。

骨が折れてたのに」



「よかった、ほんとうによかった」



「うわああああ、父ちゃん」



魔獣に骨を折られ苦しんでいた父と

それを心配した母と子のやりとりだろうか。



エーマはどんどん村人たちの傷を治しているようだ。

村人達の反応を聞くに、かなり手際がいいようだった。

タハラさんが仲良くするだけの実力はあるというわけか。



みとめたくはないけど、こんなの知ったら認めるしかないじゃないか。

こころがモヤモヤしてきたので会話を聞くのをやめて

外の音に意識を向けた。



すると



ガサリという草むらが揺れる音が耳に入った。

何かが村のすぐそこまできているのだ。



まずい、会話を聞くのに意識を割きすぎてしまい

警戒がおろそかに。


音からするに一匹ではない。

もっと、両手では数えられないくらいいる。



すぐ近くまですでに接近されてしまっている。

完全に油断をしていた。わたしの失態だった。



急いで屋根の上から降りる。

そして大声で叫んだ。


「敵だ。戦闘準備して」










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