第5話 新しい侍女

ギルバートさんによって新しく紹介された二人は

おそらくわたしの護衛なのだろう。



信頼できる護衛をつけると行っていたから、たぶん彼女達が

その信頼できる護衛だ。



ギルバートさんに信頼できると言われるほどなのだから

きっと実力もあり、忠誠心もたかいのだろう。



とはいったものの、

わぁ、これで安心してすごせますね

などという気分になるわけがない。



この人達は護衛でもあり、わたしの監視役でもあるのだ。

従うのはギルバートさんの命令であって、わたしではない。



そしてギルバートさんの目的を考えると、

わたしがギルバートさんがダメだと制限した行為をほんとうにしていないか確認して

もししそうならやめさせるのが彼女たちの任務だ。



・・・・・・それに、最後の言葉が未だに少し引っかかる。



彼女達は合った時、


はじめまして、ですか。わたしたちは、あなたのことを見ていましたよ。


ええ、ずっと前からです



と話していた。



これを言葉の通り受け取るなら、

わたしは、この家にきた時から、この人達に監視されていたということだろう。



ただそのことは、わたし自身に伝えずに。

そして気づかれることもなくだ。



「エマさま、どうかなされましたか」



わたしが考え事をしていると

リーシャが話しかけてきた。



「いいえ、なんでもありません」



当たりを見ると、もう一人の侍女であるエンリの姿はなかった。



彼女たちも人間だから休息や睡眠が必要だ。

おそらく二人が同時にわたしについているのでは無く、

交代交代しているのだろう



今はひとりになりたかった

昨日のギルバートさんとのはなしは完全に納得はしていない。



だからゆっくりといろいろ考えたい気分だった。



ギルバートさんの命令で、もうお手伝いに行くことができない。

行っていい場所も敷地内限定だ。



外の庭あたりがいいかもしれないと思つき、わたしは歩き出した。



コツコツという足音が廊下に響く。



不自然にも、二つ



ひとつは私の音。

もうひとつは



「あなたもついてくるの?」



「はい、そういうご命令ですので」



リーシャが笑顔で答える。


これはしばらくひとりになれそうにはない、

はあ、とため息をつきたいくらいだった。



それからというもの

リーシャは必ずわたしの後ろについてきた



わたしが作業をしているときも、

食事をしているときも、

お花を摘みにいっているときも



それどころかお風呂に入っているときも彼女は一緒に

くるのだ。



しかもだ。

彼女は侍女の服装のままお風呂場に入ってきているのだ。

裸のわたしが服を着ているリーシャにジッと見つめられているのだ

はずかしくてたまらない。



「せめて、お風呂に入ってもらうことはできないの」



「申し訳ございませんが不可能です。

それでは緊急の事態に対応できなくなります」



けっきょく、せっせと体をあらって

急いで出てきてしまった。



・・・・・・・・・疲れた。

常に見られているというのは想像以上に負担がかかるようだった。



しかも普段なら疲れをとってくれるはずのお風呂も

彼女がいるのでくつろげないわけで。



もう、起きているのが辛いくらいだった。



当然のように寝る時間も決められていて、

それ通りにベッドに入った。



リーシャがベットの真横にたつ。



「おやすみなさいませ、エマさま」



目をつぶっても

リーシャの視線がこちらをしっかりと捉えているのがわかる。



ねられるだろうか。

この状況で。




あさ、めがさめる。

気がつかないうちに寝てしまっていたようだ。



「おはようです、エマさま」



昨日とは違う声が聞こえた。

声の方向をみると、ベッドの横にエンリがたっている。



夜リーシャが立っていたところに

入れ替わったかのように立っている。



今日は彼女か。



その予想は的中し、昨日のリーシャとおなじように

エンリがついてまわる。



約束の日まで、こんな状況が続くと思うと

すごく気分が重くなった。



彼女たちが、わたしに嫌がらせをしているわけではない

ということは承知している。



交代交代であっても彼女たちは丸一日、わたしに危険がないか

警戒をしてくれているのだ。気を抜ける時間もほとんどなさそうだし

辛いのはお互い様なのだとは思う。



でも、どうしても彼女たちのことを信用することができないでいる

彼女たちの主人はギルバートさんであり、そのギルバートさんが守りたいモノはわたしの持っている

魔力とその魔力を継いでうまれてくる子どもだ。



わたし自身ではない。



そんな人の命令に従うひとが、わたしの味方であるとは思うことができなかった。



これからどうなるのだろうか。

少し前まであんあんいも明るくみえていた将来への道が、

真っ暗になってしまった。



このままではいけないと思いつつ

でも、なにをすればいいのかわからない



そんなモンモンをかかえながら、わたしは約束の日までの猶予を

ズルズルと消費していくのだった。



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