異世界の既知外達

仲宗根虚鉄

第1話 はじまり

 ユーザーネーム、ポーラ・ポーラ。

 白い髪、褐色の肌をしたポーラは感動していた。


 友人に渡されて手を出したVRゲーム、キャラクター作成を終え「ようこそ」のメッセージが表示された後、視界が暗くなり大きな振動を感じたのち眼を開けると、そこにはリアルと見紛うほどの草原が広がっていたからだ。


 キャラクター作成時には何処か違和感があったアバター操作も、いざゲームが始まってみれば実によく馴染んでいる。

 吹き抜ける風が、自然の匂いが、ざわめく草花の音が五感全てを刺激する。


 サービスが終了するまで現実世界で1時間もないが、ブースト機能で4倍に引き伸ばされている。

 10年以上続いたゲームでこれだけのクオリティがあるのなら、最新の作品ならいわんや。本体を割安で譲ってくれた友人に感謝しつつ、VRのチュートリアルとして仮想世界への一歩を踏み出す。


「お? おおー」


 足の下、踏まれた草から漂う香りには、制作の偏執的なまでのこだわりが見える。歩くたびに靴裏に感じる反発はコンクリートジャングルでは味わうことのない自然。

 たまたま剣と魔法のファンタジーが付属していたが、どうせ買うなら観光ソフトが良いかもしれないとポーラは思う。


 あたり一面草原のため目印も何もないのだが、とりあえず適当に歩き出す。これだけでも結構楽しいモノだ。ポーラの格好は少しゴワゴワした肌着にレザーといかにも非現実的だが、肩からかけたバッグの重みも適度に心地いい。


 しばらく爽やかな日差し、流れる風を堪能していると草原の切れ目を見つけた。それなりに広い幅の舗装されていない道は、現実では、特にポーラの近所には存在しない。


「この道沿いに歩いていけば街にたどり着けるのかな」


 まさか街を探すところからゲームが始まるとは。まずは五体を動かしてVRに慣れてもらおう、と言うことだろうか。ともすればこのまま街を目指す途中にモンスターにエンカウントしそうである。

 そういったゲームもあるが、戦闘はもう少し慣れてからにするべきではなかろうか。


「目的地がわからないのは不親切だと思うけど…」

「う、うわあーーー!」


 悲鳴。突如響く男の声に辺りを見渡すと、男が走ってくるのが見える。

 そこそこ離れた距離に横転した荷台があり、何やら獣が群がっている。


「なるほど、イベント」


 助けるなら情報が、逃げるなら荷台とは反対に街でもあるのだろう。これなら街への導線になる。

 腰には初期装備のナイフ。柄を握り、留め具を外す。普段使いの包丁よりも無骨な刃が光る。襲われているであろう人には申し訳ないが、如何にもな非現実にポーラはわくわくしていた。ゲームなら不謹慎と怒る人もいないだろう。


 土を踏み締めれば、想像以上の力で体が走り出す。


「大丈夫ですか!?」


 そう言って、慌てふためく男の元へと近づいた。


 それが、ポーラの最後の記憶だ。

 勇猛果敢に大型犬の如き動物へと切り掛かったポーラは一太刀も当てることなく返り討ちに合い、噛まれるたびに身体中に走る激痛に疑問を抱きながら意識は闇へと消えていった。

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