5 トリック

 私はYoutuberの内の1人の男と一緒に男子トイレに向かった。被害者の男の身長は170cmで体重は68kgであり、彼が一番それに近かったから選んだのだ。

 男にトイレの個室の外側の部分をよじ登ったり、洗面所の水道の受け皿を足で踏んだりして、通気孔を通れるか試してもらうことにしたのである。私は、これが被害者が女子トイレに内側から行ったトリックだと思ったのである。

 見張りや他のYoutuberは女子トイレ側で待ってもらった。見張りは落ちてくる彼を受け止める係である。


 果たして―――できた。


 洗面所の受け皿を踏み台にし、ジャンプすることで、長方形になっている通気孔の底面の部分に両手を届かせ、掴むことができたのだ。そして、両手でその部分を掴みつつ、壁を足で蹴って、のし上がることで、どうにか上半身を女子トイレ側に出すことができた。そこから同じ要領で壁を足で蹴って、のし上がる行為を何回か繰り返すと、体全体を女子トイレまで送りこめた。通気孔から落ちてきた男を見張りがキャッチする。

 キャッチされた直後、男の表情には、上り下りする際の疲れが浮かんでいたが、暫くすると、事件の謎の一部が解けたのが嬉しかったのか、少し微笑みが浮かび始めた。他のYoutuber仲間は彼が頑張って通気孔に自分の体を通しているときの様子を、嬉々として、動画で撮っていたが、その場で、消してもらった。事件現場に一般人を入れたとばれたら困るのは私だからだ。

 これで外の監視カメラに被害者が女子トイレに入る様子が映っていなかった謎は解けたが、何故、被害者はわざわざ男子トイレから女子トイレにこんな変な経路を使って隠れるように行ったのだろうか。その謎は残る。


 そんな風に考えにふけていると…

「なんだこれ…」

 先程、通気孔を抜けたYoutuberの男が急にぼそりと言った。

 彼の方を見ると、彼のそばに黒いものが落ちていた。

 恐らく、彼が通気孔を抜ける際に、そこにあったものが胴体に引っかかって落ちたのだろう。

「あっそれは…」

 彼の仲間の男がそう言いながら駆け寄ってきて、それを手に取り、まじまじと眺めてから言った。

「これは、デジカメのレンズの蓋ですよ。僕の親父が持ってるのと同系統だからわかるんです。何でこんなものがここに???」

 私はそれを聞き、事件の謎が解けた。解けたと言っても全体の一部分だけだが。

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