11/14 月

 昼休みの学食で橘さんが隣に座った。偶然だ。大きいほうの学食は横長のテーブルがどんと並ぶ食堂スタイルで、混むけど回転は速い。二限に同じ講義を取っていた美帆ちゃんと華奈ちゃんと三人で席に着いた。奇数なので私が一人で座る形になり、ちょっと気まずいかな、と思っていたけど逆にラッキーだったのかもしれない。友達らしき女の子と二人で来た橘さんは、隣すいません、と言って隣の席を引き、私と目が合うと、あっ、というような顔をして、ども、と言った。その表情は嬉しそうなわけでもなく、でも、たぶん嫌そうでもない。見ようによっては、よく知ってる友達に接するような態度で、そうだとしたら少し誇らしかった。

 美帆ちゃんと華奈ちゃんは学科が違うから、たぶん橘さんとは面識がない。橘さんと一緒にいる子もそんな感じなのか、私は知らない子だった。一応、なんとなく挨拶し合う。

 橘さんと一緒にいた子はタケダさんといって、どうやら橘さんと同じ高校だったようだ。なぜ苗字しかわからないかというと橘さんはずっと彼女のことを、タケダさ、と苗字でばかり呼んでいて、部活も同じだったのだという、高校時代の橘さんの姿を少し垣間見られたようで、私はにやけそうになるのを堪えた。


 橘さんは月見うどんを食べていた。うどんが好きなのだろうか。「帝王の首塚ドットコム」で生首にあげられるごはんの中には、うどんはない。ラーメンはあるけど。ちなみに、学食のラーメンはこれまで食べたラーメンの中で一番不味い。


 なんでもないような会話をしながらお昼を食べる。華奈ちゃんはギャルっぽい見た目に反して「本は紙派」で電子書籍は読みにくいらしい。


「マンガ読むにはいいんだけどねー」

「マンガなに読んでる?」

「私デスノート読んでるんだけど」


 私が言うと二人は、えーデスノート、めっちゃ懐かしい、いまさらすぎない、と盛り上がってくれた。


「十年ぐらい前だっけ」

「そうかも」

ライトって十年前にしたらキラキラネームじゃない?」

「なにそれ」


 美帆ちゃんに、なんか今日テンション高くない、と言われてはっとする。橘さんが隣にいると思って舞い上がってしまった。ちらと見ると橘さんは食べ終わってちょうど立ち上がるところで、目が合うといつものクールな調子で、デスノートは懐かしすぎ、と、言った。喜びでエビフライが脳天から逆流しそうになるのを堪えて、私は極力自然な調子で、だよね、と言って笑った。

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