第9話 新たなる被害者/菜月①
とりあえず田原宅へ様子を見に行くこととなり、黒斗の先導で現地へと向う。何故、彼が田原宅の場所を知っているのかは不明のままだが、そこを突っ込んだところで答えてくれないのは明白なので、ここは黙ってついて行く菜月。
田原宅までは駅から徒歩で十数分。途中黒斗と出くわしたことで随分と時間を食ってしまったものの、自分よりも訳知りの協力者が増えたことは好ましい。あとは、田原本人の無事を確認出来れば、本日の成果としては充分だろう。
そう、思っていた。田原宅に着くまでは。
田原宅の前まで来て、菜月と黒斗は顔を見合わせて頷き合い、菜月が率先してインターホンを押す。いきなりクラスメイトの男子が訪ねてくるより、友人が訪ねてきた方が自然だからだ。
しばらくしてインターホン越しに応答があった。声から察するに、かなり年上の女性。恐らく母親だろう。嫌に疲れているような声をしているが、何かあったのだろうか。
「突然すいません。私、
『あ、ああ。ごめんなさい。急なことだったから学校に連絡するのも忘れてた』
「何かあったんですか?」
『……立ち話もなんだから、中で話しましょう?』
この場で済ませるには重い内容の話しだということは、雰囲気から伝わって来る。菜月が振り返って黒斗の方を見ると、彼もまたしかめっ面をしていた。どうやら、彼はいち早くことの重大さに気付いたらしい。
釣られて菜月も神妙な面持ちで待っていると、田原宅の玄関が静かに開く。出て来たのは、随分
元々まめな性格なのだろう。女性は3人分のお茶を用意し、真向かいの席に着いた。
「えっと……。何から話せばいいのか……」
本人も混乱しているのだろう。なかなか話を切り出せずにいる女性を見かねて、菜月は一番重要な質問をぶつけた。
「真由美さんは、今はどこに?」
「病院よ。今朝、救急車を呼んでね。いろいろと検査をしてもらったけど、原因はわからず仕舞い……」
それならば、学校の方に連絡を入れている場合ではなかったと言うのもわかる気がする。突然、自分の娘が意識不明になり、病院に連れて行っても原因がわからないとあっては、心労も溜まると言うもの。どこから説明すればいいかも、わからなくなるだろう。
「昨晩、娘さんが何をしていたかはわかりますか? 例えば、夜遅くに家を出た形跡があるとか」
そう口にしたのは黒斗だ。恐らく彼の中には、ある程度ことの成り行きの全体像があり、それを確認するための質問のように思える。
それを受けた女性は、記憶を辿るように視線を動かして、それからこう答えた。
「そう言えば、9時過ぎだったかな。玄関の戸が開く音がしたから、確認したら、真由美の靴がなくなってた。コンビニにでも行ったんだって、勝手に思ってたけど、そういえば帰って来たのがいつかは確認してないわね」
黒斗の目が、わずかに細まる。たぶん確信したのだ。そこに、意識不明になった要因であると。
「お姉さんの方の容態はどうでしょう? 悪化などされていませんか?」
続け様に質問した黒斗の顔を見据え、そこまで知っているのかと、女性は驚いた様子だ。それでも「隠すことでもないか」と、すぐに口を開いてくれる。
「
「雷、ですか?」
「ええ。本当に突然耳を押さえて、
香織というのは、そもそものきっかけとなった姉のことだろう。それを聞いた黒斗は、自分のスマホを操作し、あるSNSの画面を開いて、それを女性に見せた。
「この画面に見覚えはありますか?」
そこに映っていたのは、『令和のあやかし流行語』の文字。それを見た菜月は、不意に妙な感覚に襲われる。話には聞いていたが、実際にこうして目にすると、何やら惹きつけられるというか、魅惑的に映るではないか。
これが原因なのか、きっかけなのかはわからないが、とにかく真相に近づくための鍵であることは間違いない。菜月はむしろ不信感を持って、その画面を目に焼き付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます