第14話 リュディガー様が生まれる前の話(スティーブ視点)

 私の母は産後の肥立が悪く、私を産んでしばらくして亡くなった。私が3歳の時に騎士であった父も魔獣に殺された。私はひとりになってしまった。そんな私の前に父の上役という男が現れ、私を引き取ってくれた。


 その男はギレス男爵。私は男爵について毎日剣や色んな修行を積んだ。


 ギレス男爵の裏の顔はヴェルトミュラー公爵家の影。父とは従兄弟だったそうで、私をいつぱしの影に育て上げてくれた。


 ヴェルトミュラー公爵家は代々国の守護を司る神から選ばれた聖人の家系。代々長子が聖なる力を受け継ぎ、国に守護のために祈っていた。


 男爵には娘がいた。娘はヴェルトミュラー公爵令嬢であり、聖女であったユリアーナ様を守っていた。そして私は彼女と結婚し、ともにユリアーナ様を守ることになった。

ユリアーナ様には恋人がいた。相手はブラウンフェル伯爵家のモーリッツ様。モーリッツ様は文武に優れ、人柄も穏やかで慈悲深い方だった。ふたりはとても仲睦まじかった。


そんなある日、ブラウンフェル伯爵邸から火が出て全焼した。ブラウンフェル伯爵夫妻も、モーリッツ様も火事で亡くなってしまった。

 火事の原因は火の不始末だということになったが、屋敷にいたものは全て亡くなっていたために誰かの火の不始末でカタをつけた。


 あの時もっときちんと調べておくべきだった。今となっては後悔しかない。


 ユリアーナ様はショックで体調を崩した。領地で静養していたが、懐妊していたことがわかり、公爵達は慌てた。


 父親のモーリッツ様は亡くなっていたからだ。


 その時、噂を嗅ぎつけた王家がボーデ伯爵の紹介でとあの男を連れてきた。クラウス・ウーリヒ伯爵令息。


 半ば王命のような形でユリアーナ様はあいつと結婚させられた。


 あいつは公爵夫妻やユリアーナ様の前では良い人のふりをしていた。

 しかし、公爵は我々影に目を光らせろと命令していた。


 それなのに、私達は失敗した。


 公爵夫妻とユリアーナ様を失ってしまった。

犯人はわかっている。


 私はリュディガー様とヴェルトミュラー家の聖人の血を守るために、そしてあの者達に復讐をするためだけにいまここに存在している。


 前国王、現国王、側妃、ボーデ伯爵、現ヴェルトミュラー公爵夫妻、マインラート。いや、聖人など必要ないと言ったこの国の奴らはみな復讐の対象だ。


 私はリュディガー様の幸せだけが望みだ。


 このハイデマリー殿下は信用できる。王妃殿下やハンナは信用できる。


 リュディガー様をバーレンドルフ王国に任せたい。

 リュディガー様には幸せになってもらいたい。


 敵を欺くためとはいえ、リュディガー様には辛い思いをさせてしまった私は許されない。


 リュディガー様の幸せな姿を見たら私は消えよう。

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