第2話 叔母救出
彼のことがなぜか気になったが、叔母である王妃殿下のところに早く行かなくてはならない。
後ろ髪を引かれながら私は叔母の部屋に向かった。
叔母の部屋に入るとすぐに叔母は人払いをした。
「久しぶりの姪とゆっくり話したいのハンナ以外は出て行ってくれないかしら」
メイドや護衛騎士は渋々部屋を出た。
私は誰にも聞こえないような声で呪文を唱え、遮音、幻影魔法をかけた。
「王妃殿下、これでこの部屋の中のことは私達以外の誰にも漏れることはありません」
私の言葉に叔母はふふふと笑った。
「やはりバーレンドルフの魔法はいいわね。この魔法の中にいると本当に安心するわ」
「王妃殿下、早速ですがお身体を見せて頂いてもよろしいですか?」
私は早く叔母を楽にしたかった。
「ハイデマリー、王妃殿下は嫌だわ。叔母様と呼んで頂戴」
「はい。それではアデレイド叔母様、始めますね」
私は叔母の後ろに周り手をかざしてスキャンする。そして今度は前に回りまたスキャンする。
「どう? 何かわかった?」
叔母は少し不安そうな顔をしている。
「毒ですね。長い時間をかけて少しずつ与えられてきたようです血液にはいりこんでいるようですね」
「やっぱり」
叔母は大きくため息をついた。
「すぐに解毒します。安心して下さい」
「ありがとう」
叔母は弱々しく微笑んだ。
「叔母様を病に見せかけて亡き者にしようとしている奴らを必ず突き止めて制裁を加えます」
そう言う私の手を握って、叔母は頭を左右に振った。
「犯人はわかっているわ。側妃と王女よ。国王だって見て見ぬふりをしているのよ。あの人は弱い人だわ。捕まえなくていいの。そんなことより私はここから出たいの。国と国の問題になるだろうから逃げるわけにはいかないし、このまま死んでもいいかと思ったけど、あの時、姉に叱られたわ。今は早くバーレンドルフに帰りたい」
叔母はずっと諦めていたのだろうか?
「最初の子を流産して、それから寝込むことが増えたの。健康が取り柄だったのに、この国の水が合わないだの、空気が合わないだのと医師には言われたわ。次の子を懐妊して生まれたけど、2歳の可愛い時に亡くなってしまって、その時に確信したの。あの子はあの人達に殺されたって。もうどうでも良くなって、このまま殺されても仕方ないと思うようになったの。でも、姉が来た時に私の姿を見て、連れて帰ると言い出し『あなた、何をしているの。しっかりしなさい』と叱られたわ。その頃の私は声もあまり出なくなっていたから、姉に調べてと走り書きをしたメモを渡したのよ」
「ええ、母は国に戻ってから暗部を使い色々調べていました。叔母様はこのまま移動魔法でベーレンドルフの王宮に戻します。私が留学を終えるまでは暗部の者が幻影魔法で叔母様になりすまします。絶対にばれません」
叔母は移動魔法が使えなかった。使えればすぐに戻ってきただろうか、いや、国の為にこのプレル王国に嫁いだのだからと我慢していたのだろう。母ならば大暴れして、しっかり仕返しをしてから戻ってきただろう。姉妹とはいえ性格は全然違うようだ。
私は叔母の解毒をすぐに行なった。血液の中に入り込んでいる毒を抜いていく。
叔母の身体から毒がどす黒い蒸気をとなり、出てきた。私はそれをマジックボックスの中に入れてあった魔法の袋で吸い取り入り口を固く閉め、マジックボックスに戻した。処理してしまってもいいのだが、何かに使えるかもしれないので取っておくことにした。元の持ち主に返すのもありだし。
「どうですか? 毒は全て取り去りました」
叔母は目をパチクリしている。
「嘘みたいに身体が軽いわ。目もよく見えるし、頭にずっとかかっていたモヤのようなものが晴れたわ」
良かった。これで安心だ。
私の合図で、バーレンドルフ王国の暗部の者達が移動魔法で叔母の部屋に姿を現した。
「叔母様、もう二度とここには戻れません。思い残しはありませんか? 必要なものは一緒に持って行って下さい」
「この絵姿だけ。あとは思い残しも必要なものないわ」
叔母は亡き息子の絵姿を胸にし、哀しそうに微笑んだ。
「ハンナは?」
「ハンナは私が戻る時に一緒に戻ります。ハンナと離れて不安でしょうが、バーレンドルフでは母が待っています。ゆっくり静養して下さい。身体は解毒していますが、心はまだできていないので」
「わかったわ。ありがとう。ハイデマリー、無理はしないでね。この国はだめよ。守護されていることにあぐらをかいているわ。なんで神様はこんな人達を守護するのか私にはわからない」
「あとのことはお任せください。3ヶ月後バーレンドルフでお会いしましょう。では、みんなお願い」
暗部の者が叔母を抱き抱える。叔母は安心したように穏やかに微笑み粒子となり消えた。叔母の身代わりは幻影魔法で寸分違わぬ姿になり、ベッドに横たわる。叔母を連れ戻す任務はとりあえず終わった。
◆◇◆
王宮内の部屋に戻るとすぐ、母から叔母が無事バーレンドルフ王国に戻ったと極秘伝書が届いた。
母はブチ切れている。
「ハイディ、国を潰してもいいわよ」
バーレンドルフの女王が怒ると怖いのよ。叔母が誰にこんな目に遭わされたのか? 母も叔母も側妃だと言っていたけど、本当にそうなのか? そうならそれ相当のおかえしをしなくてはならない。バーレンドルフの王家が舐められて黙っている訳ないのに。
私の次なるミッションはプレル王家の内部を調べる事ね。
今日はもう疲れたわ。私は湯浴みをしてメアリーにマッサージをしてもらった。
ふと、窓に目をやると、眼下にあの小さな礼拝堂が見えた。灯がついているようだ。あの人はこの時間もあの場所で祈っているのだろうか?
明日は声をかけてみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます