四神相応で町おこし?
杜村
プロローグ
特別公開講座が開かれる日、夏季休暇中の大学構内は久々に賑わっていた。
テレビでもお馴染みの心理学者、
教育学部主催のこの日の演題は『イマジナリーフレンドをもつ子どもたち』だ。
「途中で立ち止まらずに、奥から順に詰めて座ってくださーい」
「本日は席に余裕がありませーん」
会場整理に駆り出された学生たちが、しつこいほどに繰り返す。
水色のシャツワンピースに白い透かし編みのカーディガンを羽織った彼女は、中程の段に割り振られ、一番奥まで進まされることになった。ショートカットの髪は染めておらず、化粧もごく控えめ。しかし身長が170センチ近くあるため、人によっては無遠慮に振り返る。筋肉も脂肪も少なめだが、骨太でしっかりした体つきだ。
「満員だね。さすが開地奈美って感じ」
「ええー。単位に関係ないのに来てる人って、物好きじゃない? 夏休み中なのにさあ」
「いいじゃん、テレビに出る人
「あたし、補講の代わりになるんじゃなかったら、来なかったのにぃ」
近くの席の女子のひそひそ話に、苦笑する彼女である。
そっと周囲を見回してみたが、知っている顔は見つけられない。小さく首を横に振って、バッグから取り出したミニタオルで額の汗を押さえながら、何気なく窓の外に目を向けた。
3階から4階にまたがるこの教室の外には、背の高い木々がわさわさと枝を広げており、今も蝉時雨が喧しいはずだ。クーラーの効いた教室がざわめきに満ちているため、聞こえないのだが。
しかし彼女は、意外なものに気付いて目を見開いた。枝から枝へ、大量の雀が飛び回っているのである。1羽が飛び立てば、ザザッと後に続く。しかも集団のまま、窓ガラスにぶつかるのではないかというほど近く、こちらへ飛んでくる。それなのに、周囲の誰も雀たちに目を向けていないようだ。
「えー、みなさん、おはようございます」
教育学部の関係者らしき女性が壇上でマイクを握ると、波が引くように静かになってゆく。
今ならさえずりが聞こえるのではないかと、彼女はもう一度窓の外をうかがった。
雀というのは、こんなに高い木の上で、こんなにたくさん集まって飛び回るものだっただろうか?
「本学にそのような不心得な学生はいないと思いますが、開地先生の写真を勝手に撮らないように。個人用であっても、録音も禁止です。携帯電話の電源が切ってあるか、今一度確認してください」
注意事項に「子どもじゃないんだから」とクスクス笑う声がする。それでも、取り出したスマートフォンの画面が明るい学生が散見されるのも、また事実である。
ざわめきが一旦おさまったところで、紹介に続いて大きな拍手で迎えられた開地奈美はたしか40代半ば、小柄な身体中に生命力が満ち溢れた女性であった。すっきりと伸びた背筋、きびきびとした歩き方からそれがわかる。
それでも、ふんわりとカールさせたセミロングの髪やサーモンピンクのブラウスといった柔らかなファッションに目を奪われる学生も多いようで「かわいい」「きれい」といった言葉が、そこらかしこから聞こえる。
「どうですか。テレビで見るよりナマの方がいい?」
見た目からの扱いに慣れているのだろう、開地は最初にそう言って笑いを誘った。
それでも、学問的な興味を持たずに参加した学生も存在することを承知の上で、テレビで共演したタレントなどの話も交えつつ、主題に引き込んでゆく話術はさすがである。
さすがであるのだが。
興味を持って参加したはずの彼女は、今ひとつ集中できずに困惑していた。
開地と、やたら視線が合ってしまうからである。
自意識過剰とか気のせいとかではないらしく、周囲の数人も、開地の視線の先を気にしているようだ。
予定時間の半分が経過して15分間の休憩に入るとき、退室の途中で立ち止まって振り返った開地は、明らかに彼女の方をチラと見上げた。
座ったままだった彼女が首を傾げていると、開地と入れ替わりに入ってきた教務部の女性が慌ただしく壇上のマイクを握った。
「工学部4回生の赤羽さん、工学部4回生の
その声と表情にただならぬ緊急性を感じ、彼女は急いで階段を降りた。
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