四神相応の地で町おこし?

杜村

第1話 終わりの始まり

 青い空が見えているはずだった。

 それなのに、目の届く限り粉塵と煙に覆われ、ゴムやプラスチックの焼ける臭いが立ち込めている。

 天守閣がそびえているはずの方角を向いても、あの真っ白な姿は見えない。

 そんな中、黒く汚れた顔を上げて、良太郎はすんすんと鼻を動かした。

 

「キンモクセイの香りがする」

「こんなときに?」

 

 思わず尖った声を発した月世だったが、すぐに唇を噛んで視線を下げた。

 

「あれから何年だっけ。俺にとって、秋は忘れ難い季節なんだよ」

「こんなときに」

 

 さっきとは違って、無理に笑おうとしながら月世はつぶやいた。

 

「こんなとき、だからだろ」

「そうね。こんなときだからね。あっ!」

 

 月世が小さく驚きの声を上げた。

 

「キンモクセイの香り!」

「な?」


 屈託のない笑顔で、良太郎はほんの少し右手の先を上げた。


「いつまでも暑いと思ったけど、ちゃんと秋が来てるんだよ」

「そうね」


 月世は、良太郎の指先を両手でそっと包んだ。

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