第9話 初戦1

 ついに、闘いの当日を迎えた。


 冬至は前日の人を殺した茫然自失の状態から何とか立ち直り、剣を手に素振りを行って気を引き締めていた。


 そんなところ教官が声をかけてきた。


「そろそろ時間だから、行くわよ。」


 そう言って、教官は能力を発動し、空間と空間を繋げた。


 繋がった空間の向こう側には、灰色のコンクリートが敷かれた床が一面に広がっていた。


 冬至は少し躊躇しながらも、繋がった空間へと足を踏み入れた。


 その後、あとから入ってきた教官が話を始めた。


「ここが、闘いの場よ。半径50メートルの円形でその先に壁があり、壁の上に観覧席があるわ。私はそこからあんたの闘いぶりを見ることになるわ。なので、闘いの最中の助太刀は望まないでね。」


「ちなみにだけど、闘いの場には審判もいてどちらかが戦闘続行不可能と見なされたら闘いは終了よ。もちろん、相手の命を奪ったらその時点で勝ちだけどね。」


「なるほどな。ちなみに、相手はどこにいるんだ??」


「まだ来ていないみたいね。少し待ちましょうか。」


 少しの時間が経過して、冬至の真っ正面の壁が門のように開き相手が現れた。


 その男は、黒髪短髪で頬に傷があり、目に光がなく闇の住人であるかのように暗い雰囲気を醸し出しており、手にアーミーナイフを持っていた。


「来たみたいだけど、油断できない相手ね。あれは中々の修羅場を潜ってきてるわよ。間違いなく人も殺しているわ。」


「そうみたいだな。」


「まずは相手の能力を把握することに注力しなさい。無闇に突っ込むと死ぬわよ。頑張りなさい。」


 そう言って教官は観客席の方に歩いて行った。それとすれ違いに審判が歩いてきた。


(この広さの会場で観客席に教官しかいないのは、不自然極まりないな・・・。おし、気合いを入れ直すか。)


 審判が冬至の近くまで来ると、相手の男が口を開いた。


「てめえが対戦相手か。俺の名前は龍一だ。死ぬ前に自分を殺した相手くらい知っておきたいだろう。」


「そうかい。じゃあそっち流儀にのっとって、こっちも名乗るわ。冬至だ。」


「ほおー。良い度胸じゃねえか。嬲り殺してやるよ。」


 俺たちの会話を遮って審判は言った。


「私がどちらかが戦闘続行不可能と見なすまで闘いは続けられる。ただし、降参する場合はギブアップと宣言すること。それ以外のルールは特にないので、自由に闘ってもらう。それでは、開始!!」


 開始の合図と同時に冬至は相手から数歩遠ざかり距離を置いた。


(相手の能力が分からない以上、一旦様子を見ねえとな。)


「どうしたいきなり逃げ腰か。腰抜けやろうが。『舞踏連刃』。」


 そう言うと同時に龍一の周りに4本のアーミーナイフが宙に現れた。


 そして龍一が手を冬至に向けると、4本のナイフが宙を進み、上下左右から冬至を襲った。


 冬至は瞬時に後退することでナイフを回避し、再び距離を取ったがナイフは休む間もなく追撃してきた。


 追撃したナイフを剣で弾き、突破口を開いた冬至は、猛烈な勢いで龍一へと突進し、剣で斬りかかったが、上手くナイフで攻撃をいなされてしまった。


 その瞬間、自身の後ろからナイフが飛来したが何とか身体を捻ることで回避して、体勢を立て直し相手と距離を取ったが、肩と背中に浅い切り傷ができていた。


「思ったより動けるじゃねえか。じっくりと削ってやるよ。」


 そう言うと龍一は2本のナイフを自身の周囲に浮遊させて防御に回し、残りの2本で攻撃を仕掛けてきた。


 先ほどの攻撃時よりナイフの本数が減っているので、回避は容易になったが、こちらが距離を詰めようと動くとそれを遮るように攻撃を加えてきた。


 そのナイフの動きにより冬至は相手との距離を詰めることができず、防戦一方となっていた。


(ナイフを具現化させて、自在に扱う能力か。単純な能力だが、遠距離での攻撃手段を持っていない俺にとっては厄介なことこの上ないな。このままではジリ貧だが、分かったことはある。相手のナイフは自在に消したりして瞬時に移動させることはできないみたいなので、相手の攻撃の初動は把握できる。)


 冬至は頭の中で相手の能力を分析しながらも、攻撃を回避し続けていた。


(とりあえず、距離を詰めないことには、勝機がないから被弾覚悟で突っ込むしかないか。)


 そう決心して動き出すと、こちらの前進を邪魔するようにナイフが襲ってきたが、それを皮一枚で回避し、更に前進した。


 龍一の目の前に来たところで残りの2本のナイフも迫ってきたが、剣で弾き飛ばした。


 弾き飛ばした瞬間に、相手に背後に回られて、背中を手に持ったナイフで切り裂かれた。


 ブシュッ。


 冬至の背中の服が裂け、血が地面に滴り落ちた。


「くっっ。」


 一瞬だが冬至は苦悶の声を漏らした。


「中々良い動きをするが、俺の攻撃を全て回避するなんてことは不可能だぜ。俺も近接戦闘には自信があるからな。それと、さっきから馬鹿正直に距離を詰めることしかしてねえな。さては、お前能力を発現していないんじゃねえのか。」


 龍一は嘲笑が含まれた声で言った。


「・・・・。」


「なるほど、図星か。これはイージーだな。たっぷりと刻んで、殺してやるよ。」














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