第15話 夫の温もり

1923年10月21日 AM10:00



「ふふっ・・・」

夫の、優君の腕の中で私は小さく笑った。


「なに・・・?」

隠したつもりだったのに、気づいたのか問いただされた。


「初めて会った時・・・」

私は隠すこともなく、正直に話した。


これは。

付き合ってからも口にしたことは無かった。


「優君・・小さなワンちゃんみたいだった・・・」

「えっ・・・?」


妻の言葉に僕は驚きの声を出した。


「だってぇ・・・」

僕の腕に抱かれながら絵美がむず痒そうに呟く。


「いつも、オドオドして・・・」

「あぁ・・・」


妻の言う通りだった。

大学に入学したての頃、僕は劣等感の塊りだった。


廻りの皆が大人びて、都会の香りがしたからだ。


地方出身の僕は。

ただでさえ、引っ込み思案なのに。


高木なんかの自信満々の奴らの迫力におされて。

地味なモブキャラでいた記憶がある。


「どうして・・・?」

僕は妻に聞いた。


「僕と付き合ってくれたの?」

ずっと聞きたかったことだ。


学園のアイドルで。

眩しいほどの絵美が僕の彼女になってくれたなんて。


今でも。

信じられないことなのだから。


「だってぇ・・・」

絵美は僕の胸に顔を擦り付けるようにして。


少し、ジッとした後。

顔を上げて、囁いたのだった。


「可愛いい・・と、思ったんだもん」


僕は。

妻の身体を。


ギュッとしたのでした。


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