天国FULL BOOKS
ちびまるフォイ
楽園追放のその後
「おじいちゃん! しっかりして!」
「ワシは……もうダメじゃ……。
だが、ワシの人生も悪くなかった……。
きっと天国でばあさんも待っとる……」
「聞いて、おじいちゃん!」
「なんじゃ……」
「天国、今、予約いっぱいで入れないって!!」
「……え?」
天国の公式サイトを見てみると「Full Books」の文字。
「なんで本がいっぱいだと天国に入れないんじゃ……?」
「とにかく、今死んだら天国にいけないわ!
もうちょっとだけ頑張って!」
「頑張るってどれくらいじゃ……?」
「天国に空きが出るまでよ!」
「ええ……?」
もう完全に死んじゃう気まんまんだったこともあり、
死神も大鎌をもって枕元までやってきていた。
「うう……どうせ死ぬなら天国にいきたい……。
このまま死んだらワシどうなるんじゃ……?」
「空きがある"ビジネス・あの世"へ行くわ」
「ビジネスホテルみたいな言い方じゃないか……」
「私達もたくさん遺産を残してくれたおじいちゃんを、
そんなしょっぱいあの世へ送りたくないわ!
レイクビュー・三途あたりの一等地の天国に送りたいもの!!」
「孫よ……!」
「だからおじいちゃん、頑張って! きっとすぐに空きが出るわ!!」
その後も親族総出で卒業アルバムを見せるなどして、
おじいちゃんが現世にとどまりたくなる理由をつくって命をつないだが
徐々におじいちゃんの額に三角巾がうかびあがってくる。
「ああ……なんとか頑張ってみたが、やっぱり時間切れのようじゃ……」
「待っておじいちゃん! まだ天国はいっぱいなのよ!」
「だがもう……」
「こうなったら、ちょっと直接交渉してくる!」
「孫よ!? 一体何をする気じゃ!?」
孫は病室で自分の頭を強打して天国へと向かった。
天国のフロントロビーへと足早に向かう。
「天国へようこそ。あれ? あなたはまだ仮死ですね。
天国内見のお客様はそこの番号札をとって、番号が呼ばれるまでお待ち下さい」
「いいえ! 私はおじいちゃんのために予約を取りに来ました!!」
「予約……。ああ、そうでしたか。
ですが、すみません。今、天国はもう満室なんですよ」
「どうせ当日キャンセルとかあるでしょう!?」
「いえ、それがもう完全に満室で」
「うーーん……。それじゃいつ空きますか?」
「それはお客様しだいとしか言えませんね。
天国はおだやかな場所です。
刺激のない日常に飽きた人は出ちゃうかもですが、
それがいつになるのかはわからないです」
「おじいちゃんは今にも死にそうなんですよ!」
「そう言われましても……。天国は人気リゾート地ですからね」
「どうしよう……待つしかないのかな」
現地で交渉すれば空きのひとつくらい作れるとふんでいた孫。
けれど天国の現状を知って諦めかけたとき。
「……いや、待ってる暇はない。
空きがないなら追い出してでも空きを作ってやる!」
孫は天国にいるひとりに声をかけた。
「こんにちは。あなたは天国にきてどれくらいになります?」
「そうだね。もう天国ができたときからずっといるよ」
「それはすごい。でも、それだけ長くいると天国に飽きてこないです?」
「まあそれは……」
「ちなみに、私は刺激的な毎日を送れる場所を知っていますよ?」
「え! 本当かい!?」
「ええ。それはもう。こんな天国みたいに退屈じゃなくて、
いろんなアミューズメントが充実しているテーマパークみたいな場所です」
「それはすごい! 実はもう天国に飽き飽きしていたんだ!」
「でしたら、あなたの天国在住券をゆずってもらえますか?
お礼に渡しからその場所への入場券をお渡しします」
「いいのかい! ありがたい!! やはり天国にはいい人しか来ないんだね!」
「いえいえ。私も嬉しいです」
その人には「地獄」への切符を渡し、見返りに天国在住券を手に入れた。
「ありがとうーー! これでやっとうんざりしていた天国から離れられるよ!」
行き先が地獄ということも知らずに去っていった。
天国に空きを作った孫はさっさと現世に戻っていく。
「はっ!?」
「孫よ。いったいどこへ逝ってたんじゃ?」
「天国へ言ってきたわ。おじいちゃん、いいニュースよ。天国に空きができたの」
「そんな急に……ほ、ほんとうじゃ!?」
「親切な人が天国の席をゆずってくれたのよ」
「本当かい。ああ、これでやっと心置きなくゆける……」
「おじいちゃーーん!! あの世でも元気でねーー!」
おじいちゃんはバイトの天使に支えられて天国へと旅立った。
数日後、天国から絵ハガキが届いた。
「おじいちゃんからハガキがきてるわ」
「天国でどれだけ幸せに過ごしているかな?」
ーーーーーーーーーー
孫へ
無事に天国へつきました。
でも、こっちは地獄のような状態です。
どうやら天国の神が最近になって
天国を離れてしまったのが原因です。
こんなことなら天国へ来るんじゃなかった。
ーーーーーーーーーー
絵ハガキには、荒れ果てた大地が続くこの世の終わりのような風景が映っていた。
かつて訪れた天国の面影はどこにもない。
「天国を納めていた神がいなくなったんだって……なにか心当たりある?」
その言葉に孫はふと思い出した
地獄行きへの切符を渡した相手のことを。
そいつの背中に羽っぽいものがあり、頭に輪っかもついていたような気がしたことを。
冷や汗をとめどなく流しながら、孫は答えた。
「コ、ココロアタリナンテ、ナイヨーー……」
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