7月19日/死のフランス人形1

真夏とはいっても、夜遅く着いた高原の軽井沢駅は涼やかな風が吹いていた。

ひと足早く帰っていた吉沢は改札口で待っていた。

母親が運転する古い大型車の後部座席に乗り込むと、

「先に牧師館を見てみようか」

といって、母親に車をそっちへ回させた。

本通りを旧軽井沢と反対方向に折れ、離山に向かうなだらかな坂をのぼった丘のふもとに牧師館はあった。

煉瓦造りのチャペルに蔦がからまるゴシック風の古い建物が暗闇の中に沈んでいた。

失踪した女子中学生の顔が映っていたという煉瓦壁に切り込まれた高窓に明かりはなかった。

「その後心霊写真の投稿はなくなった。いたずらだったのかな」

吉沢はその話題にひと言だけふれたが、

「3日前に殺人事件があった」

といって母親に車を先に進めるようにいった。

少し走ると道路が右に大きくカーブしているところで車を停車させて、車を降りた吉沢は、

「ここに拳銃で撃たれた男が転がっていた」

といって暗い側溝をのぞき込んだ。

「左手の小指が根元からなかったが、今朝になって、長いこといた刑務所を出所したばかりのヤクザ者と分かった」

「明日架の誘拐事件とは何の関係もないヤクザ同志の抗争なのだろうが、拳銃を持った犯人が捕まっていないので、ここいらのひとは怖がっている」

吉沢はそういうと、母親に車をUターンさせた。

避暑地で名高い街も、黒い木々の影の間にホテルの明かりがわずかに見えるだけで、あとは夜の深い闇に飲み込まれて眠りについていた。


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