7月14日/疑惑の牧師5
中間試験も終わり、いよいよ来週から夏休みというのにまだ軽井沢へ行くかどうか決めかねていた。
そこへ、『軽井沢で女子中学生失踪。疑惑の牧師!』というショッキングな見出しの週刊誌が発売された。
吉沢がわざわざ買ってきた週刊誌を、放課後に回し読みした。
『5月29日、旧軽井沢で結婚式を挙げるカップルに人気の牧師館で、牧師が地元の中高生を相手にする英語教室のあと女子中学生が行方不明になった。英語教室のあとオルガンの特別レッスンをひとりで受けていたが、夜9時を回っても家に帰らないと母親が警察に届け出た。母親とともに警察官が牧師の同意のもと牧師館の中を調べたが少女は発見されなかった。
そのときベッドに娘の下着があるのを見つけた母親が牧師を問いつめると、牧師は娘を裸にして悪魔祓いの儀式をしていたといった。そもそも牧師はオルガンを教えると嘘をついて娘を居室に連れ込んでもてあそんでいたと母親は語った。
乗ってきた自転車も、持っていた鞄も携帯も見つかっていない。
少女の失踪からひと月近く経った6月16日の朝、母親が受信したメールの添付ファイルを開くと、血まみみれのナイフがフランス人形の胸に突き刺さった映像に、目を閉じた女子中学生の顔が一瞬だけ映り込み、滴る血に染まった画面が揺れて恐ろしい死と乙女の旋律が流れた。
このメールはいったん開くと登録してあるメールアドレスに添付ファイルが自動転送される仕組みになっていて、メールはネズミ算的に全国に拡散し、これを見た6人の少女が自殺した。
フリーズした画面に、SAVE THE MAIDEN!(乙女を救え!)の文字と牧師館の銀行口座名と口座番号が横スクロールで流れた。これは、お金を払わなければ少女を殺すという身代金の要求だ。警察があわてて牧師館の銀行口座を閉鎖したが、少女の親もふくめてすでに巨額の身代金が振り込まれ全額が引き出されれていた。
警察庁は発信元の不明なメールに添付されたファイルは開かないよう声明を出し、各地の教育委員会も中高生に対して、怪しげなメールは開封せずに消去するよう警告した。
ホームページとメールの発信元は牧師館だったが、両方とも何者かに乗っ取られていた。乗っ取ったのはロシア系のハッカーとまでは分かったがその先は不明だ。
牧師が英語教室のあと悪魔祓いと称して少女に継続的に性的暴行を加えていたのは疑いようがなく、牧師には幼女誘拐の前歴もある。今回の少女行方不明事件とSAVE THE MAIDEN!の身代金の詐取に何らかの関与があるとして牧師から事情を聞いている。
ちなみに、牧師館のこの夏の結婚式はすべてキャンセルされた』
というベタな記事が、胸にナイフが突き刺さったフランス人形の写真とともに載っていた。
「少女はまだ見つからないのか?」
とたずねると、
「まだだ。おそらく牧師に殺されたんだ。警察が動く前にわれわれで死体をさがそうよ」
明日架は牧師に殺されたと決めつける吉沢は、いっしょに軽井沢に行こうと誘った。
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